東浩紀「温泉むすめ『萌え絵』騒動にグローバルな倫理規範との整合性を考える」

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2021年11月30日 17:00  AERA dot.

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写真東浩紀/批評家・作家。株式会社ゲンロン取締役
東浩紀/批評家・作家。株式会社ゲンロン取締役
 批評家の東浩紀さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、批評的視点からアプローチします。


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 温泉むすめ騒動をご存知(ぞんじ)だろうか。この2週間ほどSNSを賑(にぎ)わせている「炎上」だ。


 温泉むすめは2016年に始まったプロジェクト。全国(一部台湾)の温泉地を「萌え絵」でキャラクター化し、地域活性化を支援する試みだ。観光庁の後援も受けている。


 この設定の一部に「夜這(よば)い」「スカートめくり」といった言葉があることから、性差別だと問題になった。きっかけは活動家の仁藤夢乃氏による11月15日のツイート。投稿は7千以上のRT、1万以上のいいねを集め(24日現在)、翌日には公式サイトでの設定が修正される事態になった。


 けれども騒動が大きくなったのはむしろその後である。仁藤氏は個別の修正で済ませるべき話ではなく、温泉の魅力を少女キャラクターで表象することそのものが性差別につながると主張。加えて萌え絵自体への批判も繰り返したことから、逆にキャラクター文化を愛する層から男女問わず反発を買うことになった。騒ぎはいまも収まっていない。


 解決は悩ましい。萌え絵は日本発の表現技法で、いまでは広く社会に溶け込んでいる。国外でも受容されている。けれども起源の一部はポルノメディアにあり、性的喚起力に長(た)けていることも確か。人間の想像力は豊かだから、性器を描かなければ大丈夫という単純な話にはならない。どこまでが「かわいい」でどこからが「エロい」かは、最終的には個人の感性で判断するほかない。



 だからこそ逆に、表現者や企画者は自己チェックを繊細に行う必要がある。そのうえでさらに難しいのは、基準もまたすぐ移り変わること。温泉むすめが始まってからの5年で、日本社会のジェンダー規範は大きく変わった。「夜這い」も当時は問題視されなかったかもしれないが、だからこそ今回の騒動は起きた。温泉むすめの運営に、変化への配慮が欠けていたのは間違いない。


 しばしば言われるように、日本社会は伝統文化を含め性に寛容である。それは弱点でもあり長所でもある。グローバルな倫理規範とどう整合性を取るか、今後も似た騒動は起こり続けるだろう。


東浩紀(あずま・ひろき)/1971年、東京都生まれ。批評家・作家。株式会社ゲンロン取締役。東京大学大学院博士課程修了。専門は現代思想、表象文化論、情報社会論。93年に批評家としてデビュー、東京工業大学特任教授、早稲田大学教授など歴任のうえ現職。著書に『動物化するポストモダン』『一般意志2・0』『観光客の哲学』など多数

※AERA 2021年12月6日号



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  • 傍観してた感じでは、どっちもどっち、って印象。加えて、男性の性の扱いに比べたら屁みたいなモノだし。よくやるわ(呆
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