中ロ艦隊「日本一周」の意味と「極超音速兵器」の恐怖

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2021年12月01日 08:00  AERA dot.

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写真2019年に中国の軍事パレードに登場した極超音速弾道ミサイルDF17
2019年に中国の軍事パレードに登場した極超音速弾道ミサイルDF17
 米中関係が冷え込む中、中ロの艦隊が津軽海峡を通過して日本周辺を一周するという「挑発」に出た。さらに、中ロが世界に先駆け開発した「最新兵器」が米国をも脅かす。不安ばかりの極東軍事情勢、日本はどう生き延びればいいのか。


【写真】中国最新鋭の055型ミサイル駆逐艦「南昌」
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中国軍とロシア軍の艦艇や航空機が、日本周辺の海域や空域で物騒な動きを見せている。


 中ロの艦隊が初の合同巡視活動を行ったのは、10月17〜23日。両国のミサイル駆逐艦、フリゲートなど5隻ずつ計10隻が18日に北海道と青森県の間の津軽海峡を抜け、太平洋を南下した。22日には鹿児島県の大隅海峡を通過し、東シナ海に入った。日本列島をほぼ一周したかたちとなり、岸信夫防衛相は会見で「我が国に対する示威活動を意図したもの」と非難した。


 この動きで特記すべきは、中国最新鋭の055型ミサイル駆逐艦「南昌」が、初めて海外での軍事演習に参加したことだ。南昌は排水量1万トンを超え、水上戦闘艦としてはアジア最大級を誇る。


 軍事ジャーナリストの竹内修氏が解説する。


「南昌は中国の『遼寧』空母打撃群の要となる直衛艦です。1995〜96年の第3次台湾海峡危機のとき、中国は米軍が派遣した二つの空母打撃群を前に屈服せざるを得なかった。そのトラウマを払拭するために海軍力を増強していき、最高水準の攻撃力を持つ南昌をつくったといわれています。手持ちの戦力の中で最大限のプレゼンスを発揮するため、南昌の威容を見せつけたのでしょう」


 中ロの狙いは、日米や欧州各国による対中包囲網を牽制することだ。今年に入り、南シナ海や東シナ海で日米が中心になって頻繁に共同演習が行われてきた。8月には英国の空母「クイーン・エリザベス」が初来日し、日米英、オランダが共同演習を実施。10月2〜3日には米英軍の空母3隻が参加し、日本、オランダ、カナダ、ニュージーランドを加えた6カ国で大規模な演習を行った。


 防衛ジャーナリストの半田滋氏が指摘する。




「中国は領有を主張する南シナ海周辺で大々的に演習をやられ、苛立っている。しかも、米国や英国の船は台湾海峡を通過しています。しかし、欧米は遠いので中国が意趣返しする相手は日本しかない。自分の庭先で演習をするなら、こちらも黙っていないというメッセージを出したのです。その中国の後ろ盾となっているのがロシアです」


 2019年7月、中ロ空軍の複数の軍用機が、島根県・竹島上空を飛行した。韓国軍はこれを領空侵犯として戦闘機をスクランブルさせ、ロシアの早期警戒管制機に対して計360発の警告射撃をした。日本政府はロシアに抗議するとともに、韓国にも「日本の領土の竹島上空で警告射撃をすることは認められない」と抗議するなど、日韓間も非難の応酬となった。


「このときの中ロの目的は、日本と韓国の軍事態勢がどう反応するかを見ることと、日韓間に楔を打ち込み、日米韓の安全保障上の連携にも影響を与えることでした。訓練には無駄がなく、明確な意図がある。日米欧などによる圧力が続く限り、中ロの艦船が海峡を通過することは今後も起きるでしょう」(半田氏)


 日本は、津軽海峡や大隅海峡、宗谷海峡、対馬海峡を「特定海域」に指定。領海の幅を国連海洋法条約に基づく12海里(約22キロ)ではなく、3海里(約5.5キロ)に狭めて設定している。北海道・本州間の最も狭い部分が約20キロしかない津軽海峡も中央部分は公海のため、どこの国の船舶でも自由通航が認められる。


 軍事評論家の前田哲男氏が説明する。


「中ロの軍艦が通過しても国際法上の問題は生じないので、海自が常時監視するしかない。しかし、今後こうした演習がくり返されて軍事密度が高まると、一触即発的な状況になりかねません。その危険は常に存在します」


◆敵基地攻撃能力 保有の口実にも


 海自と米第7艦隊は一体化して行動しており、海軍力は目下のところ日米が有利だろう。だが、いま圧倒的な軍事力を誇る米国をも震撼させているのが、中ロが先行する最新兵器だ。音速の5倍(マッハ5)以上で飛ぶ極超音速兵器で、「極超音速滑空ミサイル」と「極超音速巡航ミサイル」がある。弾道ミサイルの軌道とは異なり、低高度を変則的な軌道で飛行し、着弾する。現在のミサイル防衛システムでは迎撃困難で、軍事バランスを一変させる「ゲームチェンジャー」になり得る。




 すでにロシアはマッハ20以上、射程6千キロといわれる滑空ミサイル「アバンガルド」を19年に実戦配備。海上・潜水艦発射型で射程1千キロ以上の「ツィルコン」も、来年から配備する。


 米国をさらに驚愕させたのが中国だ。今夏、宇宙ロケットで打ち上げた極超音速滑空体が地球をほぼ一周した後、下降して標的から約40キロ外れた地点に着弾したという。地球を周回したということは、従来の北極側だけではなく南極側からも米本土を攻撃可能になる。米軍制服組トップのミリー統合参謀本部議長はその衝撃を「スプートニク・ショックに近い」と深刻な懸念を示した。米国も極超音速兵器の開発競争に加わっているが、後れを取っている。


 一方、日本には、今後ミサイル防衛網が無力化されるのを見越し、「敵基地攻撃能力」保有を認めようとの動きがある。半田氏がこうクギを刺す。


「撃ち落とせないなら発射基地をたたくべきではないか、という理屈ですが、日本は中国や北朝鮮のミサイル基地がどこにあるか把握できていないのだから、敵基地攻撃など無理なのです。なし崩し的に憲法改正に持ち込むための口実としか思えません」


 極超音速兵器がICBM(大陸間弾道ミサイル)にかわって、新たな軍拡競争の火種になることは避けなければならない。前田氏がこう指摘する。


「冷戦下に米国と旧ソ連が際限のない核・ミサイル競争に陥った際、SALT(戦略兵器制限交渉)を行い、戦略兵器削減条約(START)の調印に漕ぎつけ今日も続けられています。いま、米国は中国との間でも同様にSALTのような話し合いの場を構築しようとしています。お互い手の内をさらさなければ交渉にならないから、実現すれば中国の軍事力が透明化されることになります」


 日本は米国の同盟国であると同時に、アジアの一員だ。いまこそ米国と中ロ間の仲介者になるべきではないか。(本誌・亀井洋志)

※週刊朝日  2021年12月10日号


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  • ロシアは対馬海峡で戦うと負けるから次は勝てそうな海峡を探しているんでしょ。( ゚д゚ )
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