優勝しても「悔しい」 フィギュア男子の次世代エースが次々と表彰台へ

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2021年12月01日 09:00  AERA dot.

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写真鍵山優真(18)かぎやま・ゆうま/今季はGPシリーズのイタリア大会とフランス大会で共に優勝。北京五輪でのメダルも期待される
鍵山優真(18)かぎやま・ゆうま/今季はGPシリーズのイタリア大会とフランス大会で共に優勝。北京五輪でのメダルも期待される
 ポスト羽生結弦、宇野昌磨のレースが急展開している。今季のグランプリシリーズ2連勝により鍵山優真は世界ランク1位に。同世代の男子スケーターたちも世界を相手に存在感を見せ始めた。AERA 2021年12月6日号の記事を紹介する。


【写真】ポスト羽生、宇野は?フィギュア男子の次世代エースたちはこちら
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 グランプリ(GP)シリーズの第5戦、フランス大会の表彰式で、18歳の鍵山優真と17歳の佐藤駿は金と銀のメダルを胸に、緊張した面持ちだった。リンクサイドまで滑っていくと、二つの日の丸を背負いニッコリと2ショットに納まる。小学生時代から切磋琢磨してきた2人が、GPの表彰台で肩を並べる日がとうとうやってきたのだ。


「駿とは小さいころから競い合うことが多く、ジャンプは駿のほうがうまくて、自分とは違う表現の仕方もうまい。一緒に練習することでモチベーションも上がるし、いいライバルです」


 鍵山がそう言うと、佐藤も応える。


「優真はジャンプもスピンもステップもすべてがトップ選手の滑りなので、まねできることを学んで、これからも2人で頑張っていけたらなと思います」


 日本男子にさらなる華やかな時代が到来することを予感させる二つの輝きだった。


 今季、鍵山の気迫は世界の頂点にまで届きそうな勢いだ。11月のイタリア大会では、ショート7位からの大逆転で優勝した。


「まさか巻き返せるとは思わなかったのですが、あんなこともあるんだな、と。諦めない心が大事だなって思いました」


優勝しても「悔しい」


 同月のフランス大会では、ショートで4回転2本をきっちり決め、100・64点で首位発進。


「イタリア大会は自分の弱さという一つの経験になりました。その失敗を今大会に生かそうと、ウォーミングアップを変えてたくさん動いてみたら、うまくいきました」


 フリーは、演技後半に三つのミスが続いてしまったものの、首位をキープし、総合286・41点で優勝を決めた。ミスがありながらも演技全体の評価が崩れないというのは、もはやベテランの得点の稼ぎ方である。



「優勝できたことはいい経験になりました。でも演技に関しては、できることでミスしたので根性が足りなかったと思いました。うれしいか悔しいかでいうと、すごい悔しいです」


 GPシリーズ優勝にも「悔しい」と言ってのける。GPファイナルに向け、目標は世界の頂点だ。



 一方の佐藤は天才肌タイプ。ジャンプのセンスは日本一といっても過言ではない。フランス大会のフリーでは、日本人で初めて4回転ルッツと4回転フリップの2本を降りた。この2種類を試合に入れられるのは、世界でも米国のネイサン・チェンとヴィンセント・ジョウの2人だけという高難度の技だ。


「ルッツとフリップを試合で揃えられたことがうれしいです。ルッツは2年前から練習して確率も上がってきました。毎日の練習で必ず3本は降りています」


 ところが大技のあと、4回転トーループ2本は着氷が乱れる。その理由に才能を感じさせた。


「当たり前ですがルッツやフリップより4回転トーループのほうが簡単なので、普段ちょっと力を抜いて跳んでいるんです。今回は思い切り身体を締めたら、回りすぎてしまいました」


 4回転トーループは「力を抜く」というのだから驚異的だ。総合264・99点で2位に追い上げ、自己ベスト更新で銀メダルを獲得した。


歴史に名を刻む演技


 このダブル表彰台と同じ週末、国内では全日本ジュニアが、ポーランドではワルシャワ杯が開催され、遥かな地にいる仲間の活躍から刺激を受け合った。


 まず全日本ジュニアでは、16歳の三浦佳生(かお)が躍動した。三浦はジュニア選手ながらNHK杯に推薦出場し8位と健闘。翌週の全日本ジュニアに向け「歴史の中で名を刻むような演技をしたい」と宣言していた。


 ところがショート本番、3回転フリップでミスをした上に、トリプルアクセルは穴を避けてコースを変えると1回転半に。まさかの7位発進となった。「もう歴史に残らないです」と自暴自棄に答えた。




 気持ちを入れ替えようとしたフリーの朝、フランス大会で鍵山と佐藤がダブル表彰台となった結果をチェック。


「2人がワンツー。駿は4回転ルッツを決めたし、優真は全体的に仕上げた演技で、刺激になりました。優真がイタリア大会でショート7位から優勝したのも見ていたので『まだまだわからない、僕も7位だ』という気持ちが芽生えました」


羽生結弦選手のバトン


 フリーは4回転トーループとサルコーを決め大逆転で優勝。点数を見て安堵し、こう誓った。


「世界ジュニアでは表彰台、全日本選手権では(ショート6位以内で)フリーの最終グループに入ることが目標です」


 この結果を鍵山と佐藤はフランスでチェック。鍵山は「佳生は逆転優勝すごいな」と背中を押され、こう話した。


「僕は早く4回転ループを練習したいです。帰国後の隔離期間に駿と一緒になるので、いろいろ見ながらジャンプを安定させて自分のものにしたい」


 さらに同日程のワルシャワ杯では、21歳の山本草太が復活を印象づける優勝を飾った。山本は平昌五輪の候補と言われながらも、骨折と手術、コーチの変更が続き、力を発揮できないまま6年が過ぎていた。今季、宇野昌磨を育てた山田満知子・樋口美穂子の門下生となり再発進。NHK杯は羽生結弦のけがで補欠出場となると、「羽生選手のバトンを僕自身のスケート人生に繋げたい」と語り、7位。ワルシャワ杯では、ショートで美しい4回転サルコーを決めて首位発進すると、フリーでは柔らかいスケーティングの魅力を見せ、総合247・65点で2季ぶりに自己ベストを更新した。



「今までは、試合では葛藤や怒りを出して自分を奮い立たせていたのですが、先生から『落ち着いてリラックスして』と言われて、自分らしくありのままで練習通りやればいいということを感じました」


 それぞれの階段を上っていく次世代エースたち。GPファイナル、そして全日本選手権で、さらなる開花を見せてくれそうだ。(ライター・野口美恵)

※AERA 2021年12月6日号


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