室井佑月「表現の自由とは」

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2021年12月02日 07:00  AERA dot.

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写真室井佑月・作家
室井佑月・作家
 作家・室井佑月氏は、表現の自由についてどこまで自粛が必要なのか、物書きの立場から考える。


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 瀬戸内寂聴さんが亡くなった。とても寂しい。あたしは瀬戸内晴美さんの時代の彼女の本から読んでいたし、テレビの仕事で彼女とご一緒したこともあった。世の中や人間を愛しているチャーミングな方だった。


 寂聴さんの訃報(ふほう)を知って、彼女の作品を読みたくなって、でも引っ越し先に本を持ってきておらず、なんでもいいから彼女の足跡を、と探したのがまずかったのかもしれない。


 たまたまSNSで流れてきたある方のツイッターを読んでしまった。


 その方は去年、寂聴さんが書いた「不倫でもいいから恋愛すべき」という記事の中の「愛した人が一人もいないなんて生まれてこない方がいい」という一節に、アセクシュアル(他者に対して性的欲求や恋愛感情を抱かないセクシュアリティーのこと)という立場から抗議を送ったそうだ。そしたら、寂聴さんがその抗議を納得し、記事からその文を削除したそうだ。それは寂聴さんに対する美談なのだと思う。


 が、物を書いているあたしがちょっと怖くなったのも事実。表現ということにおいて、どこまで自粛しなければいけないのか。


 たとえば、寂聴さんの書いた記事において「不倫でもいいから恋愛すべき」というのだって、パートナーの不倫で苦しんでいる人間にとっては、嫌な言葉なのかもしれない。


 少し前、芸能人の不倫に対しものすごく怒ってる友人がいて、芸能人が出ていたテレビなどにもクレームをつけたといっていた。そんなのは辛いので「やめてほしい」と告げたら、なぜ一緒に不倫をとがめないのかと喧嘩になったことがある。


 もうその友人とはそれきりになってしまったので、そのときにどうしてもいえなかったことがある。いわなかったこと。


 それはその友人も知ってるまた別の友人が、婚外恋愛で生まれているってこと。その友人のお母さんは女一人で友人を育て、とても立派な愛すべき人だった。友人も人の痛みがわかる優しい人間だ。




 不倫がなぜいけないかは理解出来る。でも、そのときの当事者にしかわからない事情もある。もちろん、不倫に怒っていた友人も、あたしが知らない事情があったのかもしれない。本当に怒りを向けたい矛先は、芸能人じゃなかったなんてこともあるのかもしれない。


 不倫は悪いといっていい。けどその先、だから絶対に許さないという部外者の感情は、正義なのだろうか。そして、それは個人の尊厳を中傷することにまで行き着いてしまわないだろうか。


 物書きでもある自分の正義の鉄槌(てっつい)が、誰かを傷つけるなんてことにならないといい。腹を据えて仕事しよう。


室井佑月(むろい・ゆづき)/作家。1970年、青森県生まれ。「小説新潮」誌の「読者による性の小説」に入選し作家デビュー。テレビ・コメンテーターとしても活躍。「しがみつく女」をまとめた「この国は、変われないの?」(新日本出版社)が発売中

※週刊朝日  2021年12月10日号


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  • 買春夫に人権侵害と不法入国、不法滞在の意味を教えてやれ!�ܥ����äȤ����� 米山元知事「北京五輪は人権問題といっている方々で、日本の入管の人権問題にだんまりな方々が少なくないのはなぜ?違和感を禁じ得ない!」
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  • 友人・知人の婚外恋愛での出産は応援して、安倍夫妻に子供がいない事へのお仲間の暴言はスルーなんだ。コイツにとっての表現の自由が本当に良く分かる(呆)
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