鳥嶋和彦「鬼滅は第1話の作りが非常にうまい」 無邪気な夢より「誰かのため」が現代人のリアリティー

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2021年12月02日 11:30  AERA dot.

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写真鳥嶋和彦(とりしま・かずひこ)/1952年生まれ。白泉社顧問。集英社に入社後、「週刊少年ジャンプ」で『Dr.スランプ』『ドラゴンボール』など大ヒット作品を担当した。『Dr.スランプ』に登場するDr.マシリトのモデル(photo 伊ケ崎忍)
鳥嶋和彦(とりしま・かずひこ)/1952年生まれ。白泉社顧問。集英社に入社後、「週刊少年ジャンプ」で『Dr.スランプ』『ドラゴンボール』など大ヒット作品を担当した。『Dr.スランプ』に登場するDr.マシリトのモデル(photo 伊ケ崎忍)
 大ヒットし、社会現象まで巻き起こした「鬼滅の刃」。漫画作品が大ヒットし社会現象まで起こるときの条件とは何か。『Dr.スランプ』や『ドラゴンボール』などを担当した漫画編集者、鳥嶋和彦さんがAERA 2021年12月6日号で語った。


【年表】「ハレンチ学園」から「呪術廻戦」まで…週刊少年ジャンプの主なヒット漫画はこちら
*  *  *


>>【前編「漫画こそ時代を映す鏡」 “伝説の編集者”鳥嶋和彦が語る大ヒット作の条件とは】より続く


――『鬼滅の刃』のヒットを、どう捉えているのだろうか。


 第一話の作り方が非常にうまいですね。冒頭、炭治郎が妹の禰豆子を背負って、「絶対助けてやる」と言っていますが、1ページ目で主人公は誰で、何をする人で、何が目的かが明確に描かれているんです。さらに「幸せが壊れる時にはいつも 血の匂いがする」というセリフだけが二回出てくる。それがこの作品のテーマでもあるんですよね。


せりふに力がある


 背中に妹を背負うというのはアジア的です。欧米は子どもをベビーシッターに預けますが、アジアは背中に背負って子守をする。子連れ狼は乳母車を押しながら旅をする剣豪の物語ですが、他の国にはああいうヒーローはいないでしょう。


 背負うことによって戦いにくくなるわけですから、明らかに戦闘面ではマイナスのはずですが、そこに炭治郎の目的があり、行動原理がある。禰豆子をおろした瞬間に炭治郎が炭治郎ではなくなる。「きょうだいを助ける」という目標設定は、子どもにとっても身近ですよね。


 漫画は、コマとせりふと絵から成っています。吾峠呼世晴さんは、鳥山さんと比べると、特に空間を把握したロングカットやアクションを描くのは決してうまいわけではない。けれども、せりふにすごく力があるから、迫ってくるんですね。


無邪気な夢から「誰かのために」


――注目しているのは、かつてとは違う主人公の「動機」だ。


 以前の少年漫画の主人公の動機や行動規範は、『ドラゴンボール』なら「強くなりたい」とか、『NARUTO』では「火影になる」とか、『ONE PIECE』では「海賊王になる」とか、ある意味すごく無邪気なものでした。


 ところが、『鬼滅』は「妹を救う」、18年から連載された『チェンソーマン』では「仲間の代わりに夢を見る」や「普通の生活をする」ということで、半径2メートル内の誰かのために生きる。そこに現代のリアリティーがあるんです。




 さらに、スタートがマイナスからです。『鬼滅』では主人公の家族が惨殺され、『チェンソーマン』では親友が死に、『進撃の巨人』も圧倒的に強い力を持つ巨人に蹂躙されるところから始まります。


 漫画は、時代の空気を映し出す鏡です。それが読者の心に響いたということは、そこにリアリティーを感じているということ。すると、いまの読者は果たして幸せなのかと思ってしまいます。


 そのせいか、今の主人公には「優しさ」があります。誰かの喪失を感じて、そのために何とかしてあげたいと思うのは共感能力ですよね。炭治郎は鬼にも共感します。鬼は元人間で何らかの理由で鬼になっている。妹も半分が鬼。


 最近転生ものの漫画が多いですよね。一度目の人生で失敗して死んでから、自分や身近な誰かを救うために力を得て蘇る。読者は主人公に同化して物語を読むので、一回ダメだったけれどやり直すチャンスを与えられる、というところに共感を呼ぶ仕掛けがあると考えています。それは、炭治郎がずっと「〇〇していれば妹は鬼にならなかったかもしれない」「家族を助けられたかもしれない」と悔い続けているところにも、つながるように思います。


「誰でもわかる」が強い


――今後、どんな作品がヒットすると考えるのだろうか。


 漫画が娯楽としてなぜここまで強いかというと、誰にでもわかるから、です。キャラクターを好きになってしまえば、たとえ難しいストーリーでも入ってくる。ストーリーを進めるのは、わずか7字×3行程度の口語体のせりふのやりとりで、文章を長く読まなくていい。“読ませる”のではなく、“見せている”から、漫画は早く読める。


 大ヒットする漫画は、子どもに伝わるもの、もしくは子どもがわかるものだと思います。漫画は欧米では大人が子どもに与えるものですが、日本では子どもが自分で選びとってきたものです。そして、幼い頃に読んだ漫画が、成長しても心に残ります。


 ただ、漫画を描く人間は大人ですから、その人が描きたいものを描いていても、子どもの心には刺さらない。ある種のテクニックや方法論を持ち、そのブリッジ作業のできるプロの編集者が漫画家とどんなものを作るのか、ということだと思います。


(構成 /ライター・小松香里)

※AERA 2021年12月6日号より抜粋


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