東京五輪に変異株……海堂尊氏最新小説は、リアルすれすれのフィクションで日本を描く“コロナウイルス小説”

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2021年12月02日 19:11  ダ・ヴィンチニュース

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ダ・ヴィンチニュース

写真『コロナ狂騒録』(海堂尊/宝島社)
『コロナ狂騒録』(海堂尊/宝島社)

 コロナに揺れた2021年もまもなく師走。オリンピックのような大イベントもあったが、コロナの脅威はまだ去ったわけではなく、これから第6波が来るかもしれない……昨年に引き続き今年もそんな穏やかでない年末を迎えることとなった。気分転換に書店に行けば、やはり目につくのは多くのコロナに関する本。その多くはウイルスの脅威やワクチンについて説明するノンフィクションや一般書だが、近頃はエンタメの世界にも少しずつ作品が生み出されているのをご存じだろうか。現在進行形の情勢・状況をどう描くのか。そんな著者のチャレンジに思わず注目してしまうが、中でも『コロナ狂騒録』(海堂尊/宝島社)は9月に登場したばかりの小説であり、なんと「東京五輪」まで描かれている。

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 著者の海堂尊氏は、第4回『このミステリーがすごい!』大賞を選考委員満場一致で受賞した『チーム・バチスタの栄光』以降、同シリーズが累計1000万部を超える人気作家。実は現役医師としての顔を持ち、豊富な医学知識だけでなく、大学病院における医局政治や人間関係なども含めた「医療現場のリアル」を一級のエンタメ小説に仕上げる作風に多くのファンがいる。そんな海堂氏が手がけた最新テーマが「新型コロナ」だったのだ。

 実は本作は昨年7月に発表された同氏の『コロナ黙示録』に続く第2弾となる。前作では世界に新型コロナウイルスが襲来し、日本では豪華クルーズ船で感染者が発生。東城大学医学部付属病院の新型コロナウイルス対策本部の委員長に田口医師が任命され、感染者の受け入れが始まるなど、海堂作品でおなじみのキャラが様々に活躍しながら、それでも「一件落着」とはならない大揺れに揺れる切迫した日本の姿を描いた。そして続く本作『コロナ狂騒録』で描き出すのは、やはり混乱がおさまらないどころか、さらに混迷を極めるその後の日本の姿だ。

 体調不良により安保首相が辞任すると、後任の酸ヶ湯政権はコロナの威力を見誤ったGotoキャンペーンを始めるが、折しもコロナの変異株が上陸し感染は爆発的に拡大。医療関連費用削減を進めていた浪速府では医療崩壊が起こり、2021年夏に開催予定の五輪もいよいよ開催が危ぶまれる事態に――。もちろん前作同様、作中ではおなじみのキャラが活躍する(ワクチンをめぐって奔走する厚生労働省技官・白鳥、鉄壁の守りを誇っていた東城大でもクラスターが発生し、窮地に追い込まれる田口医師etc.)。

 海堂氏は出版にあたり「『コロナ禍』は天災であると同時に、システムエラーの人災です。そして「五輪」はコロナ対策を間違えたことで人災になりました。公文書を改ざんし、黒塗り文書で事実を隠蔽し、統計のデータをでっち上げる。そんな政府と官僚を前にしたら、史実は物語の中に残すしかありませんでした」とコメントを寄せている。だからこそあえて描かれたリアルすれすれのフィクションの世界は、医療だけでなく腹黒い政治の世界の「裏側」も暴き出し、時に痛快な一撃を与えてくれる。とはいえやはり簡単にハッピーエンドを迎えるテーマではないのは変わらない。この先、私たちはどうなるのか、どうすべきなのか――あらためて考えさせられもする一冊だ。

文=齋藤久美子

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