「成長するために頑張ること」と「強過ぎるプレッシャーの中で仕事をすること」は違う

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2021年12月03日 07:02  @IT

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写真編集 中村
編集 中村

 世界で活躍するエンジニアにお話を伺う「Go Global!」シリーズ。前回に引き続き今回も三通のMaverick Tayag(マーベリック・タヤッグ)氏にご登場いただく。「フィリピンのためにやりたいことがたくさんある」という同氏が一番注目している取り組みとは。聞き手は、アップルやディズニーなどの外資系企業でマーケティングを担当し、グローバルでのビジネス展開に深い知見を持つ阿部川“Go”久広。



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●「日本は良いところ」と後押ししてくれたのは祖母



阿部川“Go”久広(以降、阿部川) 大学を卒業後、インターン先の企業に就職されます。



タヤッグ氏 はい。卒業して数カ月は、インターン先だった叔父の企業で仕事を続けました。その後、マニラにある日本の企業に就職する機会に恵まれました。「これで日本に行けるかもしれない」と思ったことを覚えています。



阿部川 なぜ、日本だったのでしょうか。



タヤッグ氏 理由は幾つかあります。1つは、自分の可能性を違った国、違った言語で試してみたかったんです。



阿部川 マーベリックさんは日本語を含め4カ国語が話せるんですよね。



タヤッグ氏 はい、日本語は最近できるようになったばかりなので日常の会話はできますが、もっと語彙(ごい)を増やさないといけないと思っています。それ以外の言語は生まれ故郷の言葉とフィリピンの公用語のタガログ語、それと英語です。



阿部川 一番安心して話せるのは、生まれ故郷の方言ですか。



タヤッグ氏 それはそうなのですが、フィリピンにはもう使われていないものも含めると全部で187の言語があるといわれています。私の故郷の言葉はカパンパンガン語という言語で、その中にも幾つかの派生があります。「理解はできるけれども話せない人が多い言語」といわれることもあります。パンパンガ州はマニラに近いので、マニラには話せる人もいますが、多くの人々にとっては、カパンパンガン語は第二言語です。



阿部川 そうなのですね。日本を目指した理由に戻りましょう。



タヤッグ氏 言語の他には技術に関する理由があります。日本は先端技術における先進的な国ですからそこで多くのことを学びたいと考えていました。実は祖母が若いころ、交換留学生として日本で過ごしたことがあったそうで、強く勧められた、というのも理由の一つです。来日してからはどんどん日本が好きになりました。父が赴任している中東よりも文化的に肌に合う感じがしましたし、日本の方はみんな親切ですから。



阿部川 そう言っていただけると光栄です。でもフィリピンが恋しくなったりしませんか。



タヤッグ氏 もちろん、ホームシックになることはあります。ただもう日本に住んで5〜6年ですからすっかり慣れましたので、(フィリピンに行くなら)休暇で訪れたいといった感じですね。



阿部川 フィリピンとはここが違う、といったことはありますか。



タヤッグ氏 交通の便がいいことは大きく違います。日本では北から南まで、別にそれほど苦労することなく移動できます。フィリピンではとても長い時間がかかりますし、乗り継ぎなどのためにいつも急いで乗り物に乗らなければなりません。



高校生のときになりたかった職業を聞いたとき「土木エンジニアか医者かパイロット」とタヤッグ氏は答えました。「ヒーローのように何でもできる人になりたいというのは分かるが、一見バラバラの職業を選ぶ理由は何なのか」がしっくりこなかったのですが、ここまで話を聞いて納得しました。フィリピンの国土は縦長で幾つもの島がまとまった形をしています。島が多いということは山も多いということです。山間部では医療が行き届かないことがありますし、交通インフラが整っていないことも多いでしょう。土木エンジニア、医者、パイロット。きっとタヤッグ氏は、「これらはフィリピンの生活を支えるために重要な職業だ」と考えたのではないでしょうか。



●今の自分は、過去に学んだことでできている



阿部川 現在のお仕事について教えていただけますか。



タヤッグ氏 主にリアルタイムコミュニケーションに関する業務をしています。今は仮想システムなどのマイグレーションを担当していますが、IPC(プロセス間通信)アプリケーションやボイスサーバの開発、電話のネットワークとルーターの管理などもしています。ITはほぼ毎日のように進化していきますから、この進化そのものが素晴らしいと思います。その流れにしっかり付いていくことで自分の実力も上がっていくと思っています。頭脳の力や想像力は無限ですからね。



阿部川 高校、大学と続けられたことが、今はしっかり仕事に反映されているようですね。毎日、楽しく仕事をなさっているようにお見受けします。



タヤッグ氏 そうですね、今の仕事に満足しています。もちろんどんな仕事でもつらいことや大変なこと、ストレスがたまることはあると思います。ですが私はこの仕事で達成感を得られていますし、楽しめていると思います。



阿部川 素晴らしいですね。現在われわれはコロナ禍の真っただ中にいますが、以前と比べて働き方は変化していますか。



タヤッグ氏 会社全体としては、出社率が 半減していると思います。多くの従業員はテレワークが基本となっていますし、会社に来るのもせいぜい月に1、2回といった頻度ですね。私の働き方はあまり変化していません。社内でのサポート業務が多く、各種のデバイスを物理的に調整する仕事もあるので、これまで通り出社しています。それに多くの企業が以前にも増して電話回線を必要としていますので、この仕事への需要は一気に高まっています。



阿部川 確かにコロナ禍で電話回線などネットワークの重要度は高まっていますので大切なお仕事だと思います。先ほど大変な仕事でも楽しめているというお話がありました。日本のエンジニアの中には、仕事がつらく、辞めたいと悩んでいる人もいます。タヤッグさんは日本のエンジニアと働くこともあると思いますが、そういった人についてどう思われますか。



タヤッグ氏 以前、大学を卒業したばかりの日本のエンジニアの方々と一緒に仕事をしたのですが、仕事に対してとてもプレッシャーを感じているように見えました。新人はいわば原石ですので「しっかり磨かれて早く光りたい」という気持ちは理解できます。ただあまりにも強いプレッシャーはかえって自分を弱めてしまいます。そのようなときは早めにリセットボタンを押してほしいと思います。



 後は、自分のクリエイティビティを卑下する必要は全くないということです。考えたことや思ったことを口に出して発言すれば昨日とは違った自分に進化できます。学びはずっと続けることができますし、その機会を逃すのはもったいないと思います。学んだことがどこでどう役立つかは、必ずしもすぐ分かるわけではないですが、いつかどこかで効いてきます。今の自分は、過去に学んだことでできています。あるとき、「おお、以前はこんなことは思わなかったのに、今はこんなことが考えられている」という思いを抱けることは素晴らしいことだと思います。



阿部川 マーベリックさんも毎日、新しいことを学んでいらっしゃいますか。



タヤッグ氏 もちろんです。今何か学んでいたとして、それには時間がかかり、生産的ではないかもしれません。でも続けていれば明日は来ます。そう思って自分のモチベーションを上げています。



「自分のクリエイティビティを卑下する必要は全くない」というタヤッグ氏の言葉にはっとしました。今より成長していろいろなことができるようになりたいと勉強したり、努力したりすることは大切ですが、決して「今の自分」が駄目なわけではない。今できていないことはたくさんあるかもしれないけれど、自分の思いを大切にしながら経験を積み重ね、振り返ることで新しい自分に進化できる。そんな当たり前のことを改めて考えるきっかけになりました。



●「不景気で苦しんでいる人や動物を助けたい」



阿部川 タヤッグさんが5年後10年後に実現したいものはありますか。



タヤッグ氏 幾つもありますよ。まず「ITかビジネスの分野で、修士課程を修了したい」と思っています。もう一度大学に戻って学び直したいんです。次に「フィリピンで小さなビジネスを興し、セカンドインカムを確保したい」と思っています。そして「家族を持って、私が子どものころに学べなかったことを、自分の子どもたちに学ばせてあげたい」。後は、「不況などで苦労を余儀なくされているフィリピンの人々のために基金を作りたい」と思いますし、同時に、「動物を救う活動のための基金を創設したい」と思っています。まあ、最後の2つは15年くらい先になるかもしれませんが(笑)。



阿部川 やりたいことがたくさんですね。ちなみに最後の「動物を救う」については具体的なアイデアをお持ちですか。



タヤッグ氏 フィリピンには野良の犬や猫がたくさんいます。可能であれば、そのような動物のためのシェルター基金を作りたいのです。そういった動物を保護することに賛否はありますが、そもそもそれらの動物は捨てられたために野生化して凶暴になり、人を噛(か)んだり襲ったりするようになったと考えています。その動物たちのためにシェルターを作り、動物たちが健全に生きられるようにしてあげたいと思っています。



阿部川 野良犬や野良猫は、自分から野良になったわけではないですからね。人が捨てるから、彼らには野生化するしか選択肢がない。われわれ人間が作り出した問題でもありますね。この問題の解決にITが役に立つなら、こんなに素晴らしいことはないです。サンクチュアリ(自然保護区)のようなものができればいいのですが。



 マーベリックさんなら、きっとできると思いますよ。現在29歳ですから、50歳くらいのときにはどんな大物になっているんだろうとわくわくします。



タヤッグ氏 その歳になるころは家族や親戚だけではなく、他の人々の役に立ちたいですね。さきほどお話ししたように、不景気で苦しんでいる人や動物を助けるための基金を創設したい。そして長く継承されるような団体にしたいと思います。自分の人生の後半は、他の人を助けることに費やしたいと考えています。それができるなら場所はフィリピンでも日本でもどこでも構いません。



●インタビューを終えて 〜Go’s thinking aloud〜



 8歳のときに3台のデスクトップコンピュータを中東から送ってくれる父がいた。10歳年上の叔父(父の弟)がエンジニアリングを指導した。家族は幾つかの会社も経営していた。フィリピンにあって、ITを学ぶのにこれほどエリートな環境はあるまい。



 犬と猫と牛を飼っていた。将来は非営利の団体を作り、動物だけではなく、困った人を助ける仕事がしたいという。



 善き人に囲まれた少年は順調にすくすくと育ち、「人のためになる仕事がしたい」と真っすぐに言ってのける青年になった。それを最短で実現させようとしたら、IT業界以外にどんな分野があるのだろうかと考えるのは、業界に長いロートルにありがちな、不遜な考えだろうか。



阿部川久広(Hisahiro Go Abekawa)



アイティメディア 事業開発局 グローバルビジネス戦略室、情報経営イノベーション専門職大学(iU)教授、インタビュアー、作家、翻訳家



コンサルタントを経て、アップル、ディズニーなどでマーケティングの要職を歴任。大学在学時より通訳、翻訳も行い、CNNニュースキャスターを2年間務めた。現在情報経営イノベーション専門職大学教授も兼務。神戸大学経営学部非常勤講師、立教大学大学院MBAコース非常勤講師、フェローアカデミー翻訳学校講師。英語やコミュニケーション、プレゼンテーションのトレーナーとして講座、講演を行うほか、作家、翻訳家としても活躍中。



編集部から



「Go Global!」では、GO阿部川と対談してくださるエンジニアを募集しています。国境を越えて活躍するエンジニア(35歳まで)、グローバル企業のCEOやCTOなど、ぜひご一報ください。取材の確約はいたしかねますが、インタビュー候補として検討させていただきます。取材はオンライン、英語もしくは日本語で行います。



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