オミクロン株警戒も空港検疫に“穴”? 「抗原検査ではなくPCR検査をすべき」と専門家指摘

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2021年12月03日 08:00  AERA dot.

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写真オミクロン株の水際対策について、取材に応じる岸田文雄首相
オミクロン株の水際対策について、取材に応じる岸田文雄首相
 新型コロナウイルスの変異株「オミクロン株」の世界的な感染拡大を受け、政府は矢継ぎ早に水際対策の強化に乗り出している。しかし、専門家のあいだで、対策の要である空港検疫の「穴」を指摘する声が上がっている。現在、PCR検査ではなく抗原定量検査を行っているからだ。厚生労働省は「PCRと同等に検査の精度は高い」「PCRは現場への負担が強い」と説明するが、「変異株の侵入を阻止するにはPCRが適切」と識者は批判する。


【写真】日本の水際対策は大いに疑問と話す芸人はこの人
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「東京五輪がないと、ここまで対応が早いのかと驚いています」


 こう話すのは、関西福祉大の勝田吉彰教授(渡航医学)だ。


 オミクロン株の感染が各国で急拡大していることを受け、岸田文雄首相は29日に外国人の入国禁止を発表。日本人帰国者についても、国が指定する宿泊施設での待機を求める対象国を14カ国・地域から44カ国・地域に強化した。


 翌30日にナミビアから帰国した入国者のオミクロン株への感染が初めて確認されると、従来、陽性者と同乗していた乗客については前後2列以内に座った人たちが濃厚接触者の対象になっていたが、同乗者70人全員を濃厚接触者とした。さらに12月1日にペルーからの帰国者が2例目の感染者として報告されると、日本に到着する国際線の新規予約を当面停止するよう各航空会社に要請。その後、予約停止の要請については「混乱を招いた」「予約状況や需要動向にきめ細かく対応していく」などと軌道修正した。


 勝田教授はこう話す。


「安倍・菅政権と打って変わって、水際対策に迅速に対応しているのは評価できます。変異株が入ってくるのを100%防ぐことは不可能です。少しでも入ってくるのを遅らせて、感染流行のピークを抑え、医療現場などが対策するための時間を稼ぐことが重要になってくる。これまで感染拡大を防いでこられなかった強い反省があるのでしょう。ただ、重症化しにくいなどのデータがわかり被害想定が軽くなりそうであれば、対策を柔軟に緩和することも必要です」




 評価の声があがる一方で、水際対策の「穴」を指摘する専門家もいる。現在、海外から日本に入国する際、空港では感染の有無を確認するため、「抗原定量検査」を実施。抗原定量検査で陽性であったり、判定ができなかったりした場合にPCR検査をしている。これに対し「なぜ初めからより精度の高いPCR検査をしないのか」という指摘だ。


 自民党外交部会長の佐藤正久参議院議員は<南ア方面等からの入国者には、水際対策で抗原定量よりPCR検査を多用する柔軟性も必要>などとツイッターで発言。立憲民主党の石垣のりこ参議院議員も<水際で、最も精度の高いPCR検査を国が責任もって行うしかない>と問題提起している。


 抗原定量検査とは、専用の機器を使い、ウイルスのもつ特徴的なたんぱく質(抗原)の量を調べる検査のことだ。9月に薬局での販売が承認された抗原検査キットは「抗原定性検査」と呼ばれるもので、抗原があるかどうかを調べる。「定量」検査の方が「定性」検査よりも精度は高いが、PCRには及ばないとされている。


 空港の検疫はもともとPCR検査が実施されていたが、昨年7月、抗原定量検査に変更した経緯がある。厚生労働省の担当者によると変更の理由は「PCRと同等程度の感度と特異度(検査の精度のこと)があることと、現場への負担を考慮したものだ」という。


 PCR検査は結果が出るまでに数時間かかる一方で、抗原定量検査は30分程度で結果が出るとされる。また、PCRは専門のスタッフが鼻などに綿棒を入れて、粘液を採取する一方で、抗原定量検査は唾液で簡単にサンプルを採取することができる。また、PCR検査は手間に加えて、専門スタッフの感染リスクもあった――。こうした理由で、空港で多くの入国者を検査するためには「抗原定量検査が実効性がある」(担当者)というのが厚労省の言い分だ。


 これに対し、PCR検査に詳しい国立遺伝学研究所の川上浩一教授は「抗原定量検査とPCRの感度は明らかに違う。抗原定量検査ではすり抜けが出てしまう」と指摘する。




 空港検疫で使われている検査機器と検査キットは富士レビオ(本社:東京都)の「ルミパルス」という製品だ。医薬品の審査などを担う厚生労働省の独立行政法人・医薬品医療機器総合機構が公表している資料を見ると、PCRでは24件を陽性と判定したところをルミパレスの試薬では22件を陽性、2件を陰性とした。また、PCRでは301件を陰性と判定したところを、この試薬は陰性を293件、陽性を8件と判定している。判定が不一致となったのは全て回復期の検体だった。


 政府は「同等の感度」と評価しており、専門家のなかでも「PCR検査ができるなら越したことはないが、抗原定量検査の精度は十分に高い」という声もある。しかし、川上教授はこう指摘する。


「国立感染症研究所が出した研究結果でも、PCRのほうが約1千倍感度が高いという結果です。ウイルス保有量が検出限界以下の感染者を見逃す可能性があることを指摘しています。いずれにしろ、感染しているのに陰性となる『偽陰性』、感染していないのに陽性となる『偽陽性』が出てくる懸念があるということです。海外からのオミクロンのような変異株の侵入を阻止するには、PCRがより適切です」


 さらにPCR検査の現場への負担については、川上教授は「PCR検査は唾液でもできるし、結果が出るまで50分〜1時間」という。試薬製造大手のタカラバイオの担当者も「負担は大きくない」とし、次のように説明する。


「従来のPCR検査はサンプルの前処理だけで1時間かかっていたが、当社の検査キットでは10分以内でできるようになった。検査結果は1時間以内に出ます。また、唾液を採取するだけで検査ができるため、スタッフの感染リスクも大幅に抑えられています。製品の価格は1回あたり約1千円と安いのも特徴です」(担当者)


 医療現場でPCR検査を扱う専門家はどう見るか。新型コロナ患者の診療を行っているインターパーク倉持呼吸器内科の倉持仁院長は「空港検疫でPCR検査は可能だ」と主張する。倉持氏のクリニックではPCR検査機器が8台あり、フル稼働させれば1日6千人分の検査はできるという。




「空港検疫をPCRから抗原定量検査に変えた当初に言われていた検査スピードの差は、ほぼないと見ています。検査結果が出るまでの待機所を用意して、迅速に検査ができる体制を整えれば、空港でもPCR検査はできる。要は、やる意思があるかないかの問題。空港検疫の穴をふさぐべきです」


 厚労省も「PCRにするべきという議論が出てくれば、当然検討せざるを得ない」(担当者)という。水際対策をより強化するためには、検査方法についても考える視点が必要だろう。


(AERAdot.編集部・吉崎洋夫)


このニュースに関するつぶやき

  • 記事中でお話されてる川上先生、NEWS23でも取材を受けて本日(12/8)放送予定とのことです。「議論が出てくれば検討せざるを得ない」などと言ってないで省内で議論を。
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  • では、1日数千回の検査ができる!と豪語する先生のクリニックに検体送ってやってもらおうじゃないか。きっと「負担が大きすぎる」と悲鳴を上げるだろうけど。
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