青いガラス玉が弥生時代に「草原の道」を1万キロメートル! 約2千年前の交易が明らかに

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2021年12月04日 08:00  AERA dot.

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写真伊都国の様子を伝える平原遺跡の王墓(写真/朝日新聞社)
伊都国の様子を伝える平原遺跡の王墓(写真/朝日新聞社)
 最新の科学技術を使った研究から、弥生時代にユーラシア大陸を横断する交易の様子が浮かび上がってきた。小中学生向けニュース月刊誌「ジュニアエラ」12月号では、どんなことがわかったのかを解説した。


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 伊都国は、弥生時代後期(3世紀ごろ)に現在の九州北部にあったクニの一つ。女王卑弥呼が治めたとされる邪馬台国とほぼ同じ時代に栄えていた。朝鮮半島に近いという地理的な条件を生かして、大陸との交易が盛んだった。


 その伊都国の様子を伝えてくれる遺跡の一つが、1965年に発見された平原遺跡だ。この遺跡には約1800年前の女王の墓があり、銅鏡やアクセサリー類がたくさん見つかっている。その中には、886点に及ぶ紺色の「重層連珠」と呼ばれるガラス玉もある。当時の日本にはガラスを作る技術がまだなかったから、海外のどこかから持ち込まれたものだ。25年ほど前に行われた分析で、そのガラスの種類はソーダガラスということまではわかっていた。


 人類最初のガラスは、6千年以上前に古代メソポタミアで作られたとされている。ガラスの原料は、珪砂と呼ばれる砂。石英という鉱物の粒からできている。この珪砂を1700度以上に熱すると、溶けてガラスになる。しかし、これほどの高温にするのは容易ではないので、珪砂が溶ける温度を下げる融剤というものを加えてガラスを作る。古代に用いられていた融剤には、カリウム、鉛、ソーダの三つがあり、用いられた融剤によって、それぞれカリガラス、鉛ガラス、ソーダガラスと呼ばれる。


 このうち、ソーダガラスは地域によって、融剤に使うソーダの原料が大きく二つに分かれる。古代の西アジアでは、植物の灰を原料にした。一方、ローマ帝国が支配していた東地中海沿岸では、エジプトの塩湖から取れるナトロンという塩類を使っていた。


●ガラスに含まれる成分から製法や産地の推定ができる


 奈良文化財研究所の田村朋美主任研究員らの研究グループは、10年ほど前から日本や世界各地で発見される古代のガラスを研究してきた。その中で、平原遺跡から出土した重層連珠とよく似たガラス玉を、モンゴルとカザフスタンの遺跡からも発見した。そこで、これら2カ所から出たガラス玉と、平原の重層連珠の成分を、最新の蛍光X線分析装置を使って比較してみた。この装置を使うと、ガラスの中にどんな成分がどのぐらい含まれているかが詳しくわかるのだ。その結果から、ガラスの製法や産地の推定が可能になる。ソーダガラスの場合だと、マグネシウムとカリウムが多く含まれていれば融剤に植物の灰を使ったガラス、逆にこれらが少なければナトロンを使ったガラスとわかるのだ。




 3カ所から出たガラス玉は、どれもマグネシウムとカリウムが少ないことから、ナトロンを使ったソーダガラスであることがわかった。このほかに含まれる成分の種類や量の割合も、3カ所でよく似ていた。


●ローマ帝国から「草原の道」を通って日本へ


 これらのことから、平原遺跡の重層連珠がどこで作られ、どこを通って伊都国にやってきたのか、田村さんは次のように考察した。


「3カ所から出たガラス玉は、いずれもナトロンを使ったガラスで、ローマ帝国領土内の東地中海沿岸で作られたと推測できました。カザフスタンやモンゴルからも出土していることから、東地中海で作られたガラス玉は、伊都国だけでなく、古代のカザフスタンやモンゴルの人たちにも好まれたことがわかります。おそらくこのガラス玉は、『シルクロード』の『草原の道』を通り、カザフスタン、モンゴル、朝鮮半島を経由して伊都国まで運ばれてきたのでしょう」


 弥生時代後期というとおよそ2千年前。そんな大昔に、日本からおよそ1万キロメートルも離れているローマ帝国の産物が日本に入ってきていた。つまり、ユーラシア大陸の人々が広く交易していたことが、ガラス玉の分析からわかったのだ。


「小さなガラス玉を追っていくと、古代世界のつながりが見えてきて、東地中海までたどり着きました。記録に残っていない2千年前の国際関係の一部を知ることができたともいえます。小さなガラス玉から、大きな世界が見えてくるところがこの研究の魅力です」(田村さん)


 日本で見つかっているガラス玉は、弥生・古墳時代を通して約60万点。海外でもたくさん出土している。田村さんは今後、少しでも多くのガラス玉を分析して古代の歴史を明らかにしていきたいと、目を輝かせて語ってくれた。


(サイエンスライター・上浪春海)


※月刊ジュニアエラ 2021年12月号より


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