OBの岩政大樹が鹿島アントラーズに抱いている危機感。「アップデートできているのかが問われている」

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2021年12月04日 11:01  webスポルティーバ

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短期連載:「鹿島アントラーズの30年」
第4回:「岩政大樹が振り返る2021シーズンとアントラーズの未来」
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 今年創設30年目を迎えた鹿島アントラーズ。Jリーグの中でも「すべては勝利のために」を哲学に、数々のタイトルを獲得、唯一無二のクラブとして存在感を放っている。

 その節目となる年にあたり、クラブの歴史を独自の目で追った単行本『頂はいつも遠くに 鹿島アントラーズの30年』が発売された。それを記念し、本の内容を一部再構成・再編集したものを4回にわけてお届けする。第4回は「岩政大樹が振り返る2021シーズンとアントラーズの未来」。




 クラブ創設30周年のアニバーサリーイヤーとなった今季、タイトル獲得を目指した鹿島アントラーズ。4月には監督交代を実施し、相馬直樹がチームを率いたもののタイトル獲得には至らなかった。3連覇という偉業を成し遂げたチームの一員だった岩政大樹氏は、「今の時代にあった鹿島らしさの再構築が急務だ」と鹿島の課題について語る。

――クラブ創設30周年の今季をどんなふうに見ましたか?

「30年周年を迎えるにあたって、なにかしら象徴的なことが起きるだろうなと思っていました。タイトルを獲って、この30年がすばらしかったというふうになれば良いなと。けれど、無冠で終わりました。2020年シーズンにザーゴ監督を招聘し、変わろうとしたけれど、それができなかった。何を変えるかというのが明確に定まっていなかったようにも見えます」

――「試合の主導権を握るチームに」というのが、クラブの目指すところだったと思います。よく比較されるのが、2007年から三連覇したオズワルド・オリベイラ監督率いるチームです。あのチームの特徴はどのようなものでしたか?

「選手たちそれぞれの個々の能力が高く、自立した選手、流れを読める選手が揃っていました。試合に応じて臨機応変に阿吽の呼吸で戦えるチームです。戦術家というより、選手の精神面をうまくコントロールするのに長けたオリベイラがバランスをうまく整えていたと思います」

――戦い方という意味では選手主導だったと。

「そうですね。それは鹿島がどうこうというより、世界的に見ても、よい選手を集めて、選手たちの発想や個々の能力をすり合わせることでサッカーを作るというのが一般的な時代だったから。

 当時、登場したペップ(ジョゼップ・グアルディオラ)のサッカーはまだ一般的ではなく、特殊だと言われていましたが、そこからヨーロッパのサッカーは変わっていくことになります。だから、今、鹿島が変わらなければいけないというのは、変わってしまった世界のサッカーに追いついていくということだと思うんです。

 そこで必要になってくるのは、何をもってして、鹿島らしさとするかということだと思います。昔は感覚値で受け継ぐことができたけれど、選手の入れ替わりが激しくなった今、きちんと明文化、言語化して、鹿島らしさを伝えていかなければいけない時代だと感じています」

――鹿島らしさというと、「勝利へのこだわり」と言われますね。

「そのこだわりの強さは今もクラブに根づいていると感じます。今季、川崎フロンターレが優勝したことを悔しがっている空気というのは、他クラブにはないものがあった。選手だけでなく、フロントやスタッフ、街の人たちも含めて持ち続けている。でも、勝ってきたからこそ、変わるタイミングが遅れてしまったとも言えると思います」

――リーグタイトルは手にした2009年以降、勝ち点上でリーグを制覇したことはありません。だからこそ、三連覇のチームを基準として考えてしまいがちです。

「三連覇したとき、僕たちがやっていたのは、バリエーションのあるサッカーでした。冷静にボールを繋ぐこともあったし、カウンター攻撃を選択することもありました。守備にしても高い位置からのハイプレスもあれば、中盤でブロックを作ることも、引いて守ることもある。どれを選んだとしても勝ち筋を見つけられる。それが僕たちのサッカーでした。ポゼッションサッカーが鹿島らしさではないし、カウンターサッカーも鹿島らしさではないはず。鹿島らしさとはバリエーションサッカーだったと思うんです」

――柔軟で臨機応変に戦うのは、確かに鹿島らしさですよね。

「三連覇の時代は、選手たちがすり合わせてそれができたけれど、そのバリエーションをひとつひとつ、監督が決めていくのが現代サッカーだと思います。世界のどのチームでも選手の入れ替わりが激しいから、そうしていくことが当然になったのです。

 また、今の川崎や横浜F・マリノスには豊富なバリエーションがあり、いろんな勝ち方を持っています。それは技術の場合もあるし、戦術であったりします。戦い方にバリエーションがないとリーグ戦を勝っていくのは難しいと思います。

 ヨーロッパを見ても圧倒的な勝ち点でリーグ優勝するチームが多いでしょう? 年間2敗とか3敗しかしていない。それはどんな相手であっても勝てる要素、バリエーションを持っているからだと思います。ひとつの戦術を徹底してもリーグは勝てないんです。そう考えると、今の鹿島にはバリエーションを感じづらい。そこに違和感があるんです」

――その違和感というのは。

「たとえば、4−4−2というシステムもそうです。本来4−4−2というのは勝つための手段でしかなかったはずなのに、それが目的になってしまったら、間違えてしまう。というのも、4−4−2は立ち位置がポゼッションには向いていないんです。この形のままだと守ってカウンターという形になってしまうから。選手がそれぞれの個性を組み合わせていく時代だったら、4−4−2でも可変することは可能でしたが、今はチームを作りこまなくてはいけない時代なので、システムをずらしておかないといけない。

 そういうシステム論に始まり、現代サッカーの流れや本質的なものを見極めて議論しなくちゃいけない。Jリーグでもどんどん世界の情報を輸入して、改革しているチームが増えてきているなかで、鹿島はアップデートできているのかが問われていると思うんです」

――勝ってきたことで変わるタイミングを得られなかったというようにおっしゃっていましたが......。

「まっさらなチームなら、まずはやってみようということで、変われたと思うんです。川崎の風間八宏さんやサンフレッチェ広島のミハイロ・ペトロヴィッチさんなどのように。そこから鬼木達さんや森保一さんへとつながっていくわけですが。鹿島の場合は成功した歴史があるので、これをしっかり言葉にして、焼き直すという意味での難しさがあると思います。

 焼き直すときに問題になるのは、過去を焼き直してしまうということ。成功体験があるだけに、鹿島らしさを継承しながら、アップデートしていくのは容易じゃないでしょう。たとえば、10年前のサッカー、三連覇したときの僕らのサッカーも今では時代遅れなんですよ。そういうことを踏まえて、議論をしていく必要があると感じます」

―― 一方で選手も10年前と比べて、自分たちで考えて、判断し、行動できる選手が少なくなっているのでしょうか? デザインされたサッカーに慣れているというか、それがないとプレーができないというか。

「少なからずそういうこともあると思います。でもそれは社会全体に言えることです。僕が育った時代はインターネットも普及していない時代でした。でも、今の選手、子どもたちはインターネットが当たり前の時代に育っている。それはどういうことかと言えば、情報はスマートフォンを開けばすぐに手に入り、答えを得られるんです。だから、自分で考えてなければならないという局面は、僕らの時代よりも少なくなった。

 サッカーにおいても、『まず情報をください』という姿勢になっていると感じます。でもそれを嘆いていても仕方がない。じゃあどうしますか? というのが現代サッカーなんです、特にプロの世界は。育成年代なら、失敗を経験させながら、『自分たちで考えなさい』ということができますが、結果が求められるプロでは、監督やクラブがそういう選手たちに適応していかなくちゃいけない。選手にどこまで提示し、どこからは自由に躍動させるのかをマネージメントしなくちゃいけない時代だと思います」

――そう考えると、世界最先端のサッカーや戦術に触れる機会も増え、豊富な知識量を持った選手も増えたということですね。

「現代サッカー、新しいサッカーにアップデートしないと、選手自身が刺激を得られないと感じることもあると思うんです。今まで、鹿島には良い選手が加入してきたのも、『鹿島なら成長できる刺激がある』と思ってもらえたから。でも、今のままだと、選手が離れてしまう可能性だってあると思います。優勝クラブかどうかということだけでなく、どういうサッカーをしているのか、子どもたちも厳しい眼で見ている。彼ら自身が世界のサッカーに気軽に触れられる時代だということも忘れちゃいけないと思います」

――監督の手腕がより重要になっていくのですね。

「そうですね。監督やフロントには、選手たちが納得感を得られる論理や言葉を持たなくてはいけないんです。勝っているときはいいかもしれないけど、うまくいかなくなったときに、問題点や改善方法を提示し続けられるかというのは指揮官に求められることです。そのためには、自分のサッカー、スタイル、哲学を論理的に伝えられて、かつ整合性を持っているかということです。それがある監督は、短期間でチームを作り上げることができるから」

――どんな監督を選ぶのか、クラブの眼が問われてくる。

「たとえば見て学ぶ、背中から感じるという方法で、伝承されてきたものも、言語化、マニュアル化する時代になっています。伝統工芸や伝統芸能でもそういうところがあるだろうし、サッカー、スポーツ全般にも言えることです。今の時代にあった鹿島らしさを再構築していくこと、それを定義するうえでも論理の整合性が大事になっていくので、しっかりと議論したうえで、掘り下げていくことが大事だと思います。

 そのうえで、鹿島らしさと現代サッカーに沿った戦い方ができる監督を選び、選手を選んでいく。そして、論理性、整合性のあるサッカーに落とし込むことを待ったなしで行なわなければならない。これは『時代を捉えているのか?』というサッカーのメッセージでもあると感じます。これまでの鹿島らしさと、今の世界のサッカーをキャッチアップしたうえで、アップデートし、未来へ繋がるサッカーを見たいと思います

――現在の鹿島は若い選手たちが主力として活躍しています。

「戦力的には非常に可能性のある状態です。チーム作りの面で整えば、川崎やF・マリノスと入れ替わる可能性は十分にあると思います。まだ間に合う。同時に今がそのラストチャンスかもしれないという危機感も抱いています」

――それでも、ここ数年5位には入っている。そこは鹿島の底力だという声もあります。

「それこそが、鹿島が鹿島であるということかもしれません。選手たちの団結力やチーム力なんだと思います。ほかのクラブなら、降格争いをしていたかもしれない。そこは鹿島の伝統だと思います。だからこそ、それを継承していくうえでも、重要な分岐点に立っているのではないでしょうか」
 
 岩政氏が重ねた厳しい言葉からは、鹿島アントラーズへの愛情が伝わってきた。創設30周年という節目は、苦悩を伴うものだったに違いない。しかし、その苦しさこそが未来を築く良薬となるという期待が、彼の言葉には詰まっていた。

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