【三浦愛の突撃ドライビング取材/第7回 後編】野尻智紀が語る、クルマの微細な動きを感じ取る“力の抜き方”

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2021年12月04日 18:30  AUTOSPORT web

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2021年シーズン全日本スーパーフォーミュラ選手権のシリーズチャンピオンに輝いた野尻智紀(TEAM MUGEN)
2021年もスーパーフォーミュラのピットリポーターを務めるほか、レーシングドライバーとしてスーパー耐久をはじめとしたさまざまなカテゴリーに参戦中の三浦愛さん。今シーズン、オートスポーツwebでは、三浦さんの目線で気になるスーパーフォーミュラドライバーに突撃取材を敢行し、同じドライバー目線で気になることをぐいぐい質問していく企画『三浦愛の突撃ドライビング取材』を不定期でお届けしております。

 第7回目はTEAM MUGENの野尻智紀選手に突撃取材したのですが、予想以上にインタビューが盛り上がり、連載では珍しい後編に突入です。

 前編に続き、三浦さんと野尻選手のドライバーズトークをお楽しみください!

* * * * * * * * *

(野尻選手はチームスタッフと毎回コースウォークに行くのですが、実はその時間が迫っていました……)
*本取材はスーパーフォーミュラ第7戦鈴鹿の金曜日に実施しました。

三浦:あ、そろそろコースウォークに行く時間ですよね?

野尻:あと5〜10分くらいだったら、大丈夫ですよ!

三浦:ありがとうございます(涙)。では、お言葉に甘えてふたつほど質問したいのですけど……。

野尻:はい、どうぞ。

三浦:あの、失礼かもしれないですけど……。野尻選手って身体がそんなに大きくないと思うのですが、このスーパーフォーミュラのクルマを操る上で、自分の体格が不利だなと感じたりとか、身体的な部分で克服していることとか、ありますか?

野尻:実際にF3に乗っているときはハンドルは重たかったですし、腕っぷしもこんな感じなので(苦笑)。カウンターをあてるのも大変だなと思うときは、確かにありました。

 ただ、上のカテゴリーに上がってからは、パワステもついていたりとか、時代的に助けられているなと思うところもたくさんあります。今は体力的に対するところはなにも思っていないですし……どれだけ力を抜けるかというのは、考えたりしています。

三浦:力を抜く……?

野尻:力づくでやっても、細かなクルマの動きを感じ取れないと思うのですよね。手から伝わってくるものって、ごくごく微細なものなので、そこで力が入っていたら、それを自分で打ち消しちゃうことになってしまうと思います。

 だいたい『怖いなぁ……』と思っているときは、めちゃくちゃ力が入っているし、結果も良くなりません。

 ちょっとハンドルが戻ってくるのを感じられるようになった方が、クルマの動きをより感じ取りやすくなって、そのセットアップにもつながるのではないかなと思っています。

三浦:なるほど……。

野尻:もちろん、ある程度のGに耐えられるだけの力は必要だと思いますけど……じゃあ、実際のところ、どういったトレーニングをしたら、そのGに耐えられるのかというと、正解はないじゃないですか(笑)

三浦:確かに(苦笑)

野尻:それこそ、F1ドライバーとかは年間20戦以上もやっているから、レースをしていくなかで体力がついているみたいなところも絶対にあると思います。でも、僕たちは環境が違って年に数回しかレースがないので、身体とか体力的なものができあがってくるのも(F1ドライバーと比べると)当然遅いと思います。

“とにかくトレーニングをして身体を大きする”ではなくて、“どうやったら繊細なところまで感じ取って、操りやすくなるのか”……。こうして僕がチャンピオンを獲ったり、結果を残していくことで、そういう体格的な考え方も多少変われば良いなと思っています。

三浦:力を抜くということも、方法としてアリなのですね!

野尻:ただ、僕の場合、力を抜きすぎると反応が遅れたりするところがあるので、そこは気をつけるようにしています。

三浦:なるほど……。

野尻:今までは、とにかく力を抜いていくという感じだったので、リアが多少流れてきたときも、まず力を入れて、そこからハンドルを動かすという流れになるので、初動がちょっと遅れることがありました。
 
 その辺は自分のなかで、力を抜いているときと、少し力を入れてカウンターとかの反応速度をあげるときと、乗りながら変えたりしていますが、ずっと力が入っているということは、絶対にないですね。

三浦:力でねじ伏せて走るのではなくて、自分の身体でコントロールしている感じなのですね。じゃあ、シートベルトも結構ガチガチに締める方ですか?

野尻:どうでしょうね。僕はけっこう揺られながら走っている気がします(笑)

三浦:へぇ〜。そうなんですね!

野尻:Gに身体を任せるというか、“Gに抗わない”ですね。だけど、足は自分の動きやすいところに常にあるようにしています。すべてを抗わないでいると、操作はできないので、そこはカートに乗っているような感じでコントロールしています。

三浦:なるほど!じゃあ、シート作りは結構こだわるのではないですか?

野尻:そうですね。背中の丸みとか、首の角度とかで、疲れ方も変わってくるので、その辺は経験を積んで、どういうシートにすれば、より疲れずに繊細にやれるかというところも、考えながらやっています。

三浦:ありがとうございます! 最後に、お決まりの質問なんですけど、お世話になった師匠とか先輩はいますか?

野尻:それ、一番難しい質問なのですよ(苦笑)

三浦:そうなのですね! 今までだと『この人だ!』って言ってくれる人もいれば、『いろんな人がいるので……』と答える人もいました。

野尻:僕も『お世話になった人はたくさんいるので……』というタイプです。だけど、過去振り返ったときに、カート時代も含めると、一緒に携わってくれた人はたくさんいます。

 そのすべての人が今の僕を作り上げてくれていると思います。そのなかでも、助言をくれた人もたくさんいます。そのなかでひとりを挙げるのは、なかなか難しいのかなと思います。

 でも、いろいろ教えてもらってきた中で、FCJ(フォーミュラ・チャレンジ・ジャパン)やF3時代がそうでしたけど、そのときにかたちにならなかったアドバイスがたくさんありました。そういうのが、すごく心残りではありますね。せっかくアドバイスをくれたのに、自分がそこまでのモノにならなかったという思いもあります。

 そういったアドバイスが最近になって一気にかたちになってきている気もします。感謝の気持ちはもちろんありますけど、どちらかというと『あの時もうちょっとできなかったのかな?』と、過去に対しての申し訳なさの方が際立ちますね。いざチャンピオンを獲得すると、そういう思いがすごくあります。

三浦:過去のアドバイスも全部含めて、今の野尻選手があるということですね。

野尻:そうだと思っています。

三浦:ありがとうございました!!

* * * * * * * *

【インタビューを終えて/三浦愛さんの感想】
「本当は他にも用意していた質問がありましたけど、だんだん脱線していったというか(苦笑)野尻選手のコメントを聞いて『そこをさらに深く聞きたい!』という感じで会話が進んでいきました」

「その中でも力を抜いて身体をコントロールすることを聞けて、私自身も自信になりました! 自分のような体格でも可能性があると感じているけど、それを活かすやり方が分かりませんでした」

「今回、野尻選手の話を聞いて、上のカテゴリーで活躍していくために、ここからどう注力していけばいいのか……その取り組み方というか道筋が少し見えた気がしました。それが私にとってはすごく大きな収穫でした!」

【プロフィール】
三浦愛(みうら あい)
1989年生まれ。カートで実績を重ね、フォーミュラチャレンジ、全日本F3選手権などに参戦。2014年には全日本F3Nクラスで日本人女性初優勝を飾った。2021年はスーパー耐久に参戦しつつ、スーパーフォーミュラではテレビ中継の現場解説を務める。
三浦愛 公式HP

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