『鬼滅の刃』は少年漫画と少女漫画をブレンド!?  新たな漫画の読み方を提案! きたがわ翔インタビュー!

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2021年12月04日 22:41  ダ・ヴィンチニュース

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写真『プロが語る胸アツ「神」漫画 1970-2020』(きたがわ翔/集英社)
『プロが語る胸アツ「神」漫画 1970-2020』(きたがわ翔/集英社)

 絵を描くことを生業とする方と話をすると、普通の人とはまったく違う視点でものを見ていることに驚かされることが多々ある。13歳でデビューしてから40年以上、手描きにプライドを持ち続ける漫画家・きたがわ翔先生もそのひとりだ。圧倒的なスキルと知識を持つきたがわ先生が、“絵を描く側の視点”から現在と過去の作品と漫画家、そして少年漫画と少女漫画を自在に行き来しながら各作品の魅力と影響に鋭く切り込んで解読する研究本『プロが語る胸アツ「神」漫画 1970-2020』(集英社)を上梓されたということで、溢れる漫画愛を受け止めるべく、アトリエへお邪魔した。

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取材・文=成田全(ナリタタモツ)

受けた影響を探っていく“新しい”漫画の読み方

 この本が作られたきっかけは、きたがわ先生旧知の漫画家・山田玲司先生(※1)がニコニコチャンネルで配信している『山田玲司のヤングサンデー』への出演依頼だったという。しかし自身の重度の漫画オタク発言に視聴者がドン引きしやしないか、と悩むが、語り合うテーマが小学生時代に重大な影響を受けた漫画『マカロニほうれん荘』の鴨川つばめ先生(※2)だとわかり、「めっちゃ語りたい!」へと心が傾き出演を決めたという。以来「れいとしょう」と銘打ち、様々なテーマで語ってきたことが本書のベースとなっている。

「僕は感銘を受けた作品があると『これは何の影響を受けたのかな? 何が元ネタなんだろう?』と漫画の歴史を辿って、掘っていくのが好きで、そうやっていくといろんな漫画と漫画が『ああ、ココとココがつながっているんだ!』とわかるんです。音楽が好きな人って、曲やアーティストがどの時代の誰の音楽の影響を受けているとか、オマージュだったりサンプリングされていること、コード進行が同じだったりといったことを調べて、時代やルーツを遡って聴きますよね? この本はそれの漫画版だと思ってもらえればわかりやすいです。誰のどんな作品に影響を受けたのかを探っていく、というのも漫画のひとつの読み方として面白いんじゃないかなと思うんですよ」

 例えば本書では『ドカベン』がなぜ全205巻もの“化け物コンテンツ”となったのかという解説から、『スラムダンク』『頭文字D』など後進の作家と作品に、ストーリーやコマ割り、絵柄などがどう影響を与えているのかを漫画家ならではの視点で考察している。

「新しいものが出てくるときって、まったく天然ではなくて、何かと何かをかけ合わせることで“新しいもの”になっているんです。何もないところから新しいものを作り出すことは不可能だと思うんですよね。必ず何かの影響を受けている。例えば手塚治虫先生が『新寶島』で今の漫画の様式を作ったんですけど、それは映画に影響を受けて作られたわけです。永井豪先生の『デビルマン』も多くの漫画家やクリエイターに影響を与えていますが、それもダンテの『神曲』から影響を受けている。今はネットでいろんな漫画が読める時代なので、興味を持った漫画から影響を辿って歴史を掘っていくと、新たな発見があってとても面白いですよ」

 ちなみに『ドカベン』と『スラムダンク』に最も近い漫画は美内すずえ先生の『ガラスの仮面』だと言うきたがわ先生。その論はぜひ本書で!

『鬼滅の刃』は少年漫画と少女漫画のミクスチャー!

 さてここからは社会現象となった漫画『鬼滅の刃』についてだ。いったいどこがどう凄いのか、きたがわ先生に質問してみると、「週刊少年ジャンプ」のロジカルな部分に少女漫画のいいところをミックスしているのが新しくてスゴいところだという。

「少年漫画と少女漫画のミクスチャーというのは昔からあったのですが、恋愛ものがほとんどでした。僕が少年漫画で少女漫画っぽいなと最初に感じたのが、まつもと泉先生の『きまぐれオレンジ☆ロード』(※3)で、この漫画はモノローグを多用するんですね。これを読んだ時に『少年漫画に少女漫画が来たな』と思った。でもこれまで少年漫画と少女漫画のミクスチャーで、バトル漫画は描かれなかったんです。『鬼滅の刃』の作者である吾峠呼世晴先生は荒木飛呂彦先生の『ジョジョの奇妙な冒険』がお好きだそうですが、鬼舞辻無惨のキャラクターは確実に“スタンド”(※4)の影響を受けてますよね。それが根底にあった上で、矢沢あい先生の『天使なんかじゃない』などの少女漫画をミックスさせているんじゃないか、と思うんです」

 少女漫画はモノローグ=独白という形で、切なさやもどかしさなど心情を表す。読者はその言葉を読み、登場人物の秘めた心の声、気持ちを理解する。炭治郎もモノローグで心情を吐露する場面が非常に多い。さらに『天使なんかじゃない』からは、キャラクターやその関係性、切ない表情、印象的なシーン等の影響を受けているのではないかと推測しているという。

「一般的な話をすると、女性の読者はバトルでの勝ち負けよりも、誰がどんな気持ちなのかを汲み取りながら読む傾向があるんです。一方男性がバトル漫画を読む際は、ギミックや技が生み出される背景などの物理的なロジックを知りたがる。『鬼滅の刃』はバトル漫画として読めて、心情もモノローグでわかる、そして“呼吸”や攻撃法といったギミックや技はあるけれど、背景はそれほど多くは説明されない。この絶妙なバランスによって老若男女が楽しめる漫画となったことが、社会現象にまで発展した理由ではないでしょうか」

 さらに何でもスマホで調べることができ、すべての疑問に対してすぐに答えを求める現代は、セリフやモノローグで物語の「説明をする」傾向があると指摘。「煉獄杏寿郎が猗窩座に負けた後、延々と炭治郎に説く場面がありますが、従来の漫画であれば一言二言で終わらせて、物語の背景はエピソードとして描くというのが普通でした。しかし最近はパッと見て、一読してわかることが優先されるので、説明することが求められるんですね」思わせぶりなコマや、キャラの何気ない表情によって「これは何かあるかもしれない」と深読みさせる展開はあまり好まれない時代になっているのだ。

 さらに戦う理由が「きょうだいを助ける」という構造には『鋼の錬金術師』の影響も感じる、と言うきたがわ先生。「少年漫画の主人公は、自分が何者かになったり強くなるために戦うという理由があり、ちょっと天然なキャラであることが多いんですが、炭治郎はいい子で自己犠牲の精神があり、強くなるのは妹の禰豆子のため。そういうところに女性の読者はキュンとするんじゃないでしょうか。また心底悪いキャラは鬼舞辻くらいで、鬼も実はいい人だったということがわかって死んでいくというのも現代ならではでしょうね。毎日ニュースやネットなどで嫌なことを目にしますから、心底悪い人を漫画でまで見たくないという気持ちがあるのではないかなと思いますね」

『鬼滅の刃』については『プロが語る胸アツ「神」漫画 1970-2020』の第五章「『鬼滅の刃』の少女漫画要素――他者の「痛み」に寄り添う」でさらに深く深く堀り下げて解説されているので、ぜひご一読を。他にはきたがわ先生が敬愛する萩尾望都先生の作品を中心に少女漫画についてもオタク全開、愛てんこ盛り状態で熱血解説されているので、つながりや影響から読み解く新しい漫画の読み方をもっと知りたい、という方はぜひとも本書を手に取っていただきたい!


実は取材終了後も「実はあの作品って……」ときたがわ先生の熱弁は止まりませんでした(笑)

※1……山田玲司→漫画家。1966年生まれ。1986年「コミックモーニング」で『17番街の情景』でデビュー。主な作品に『B-バージン』『絶望に効くクスリ』『美大受験戦記アリエネ』『ゼブラーマン』(原作宮藤官九郎)など。『モテナイ女は罪である』などコミックエッセイや恋愛相談コラムの執筆、配信番組への出演、絵本図鑑『UMA水族館』を手掛けるなど幅広く活躍する。

※2……『マカロニほうれん荘』→1977〜1979年「週刊少年チャンピオン」に連載された、鴨川つばめによるギャグ漫画。高校生の沖田そうじが下宿先のアパートに住む落第高校生のきんどーさん(40歳)とトシちゃん(25歳)のド変態コンビに翻弄されまくる青春群像劇で、濃いキャラクターたちによって唐突に始まる意味のない動きやドタバタ展開、コスプレ、パロディ、奇抜な設定がこれでもかと繰り出される圧倒的ギャグセンスとスピード感にスタイリッシュな絵が合わさった、ロック魂溢れる空前絶後の伝説的作品。連載終了から40年以上経つが、単行本は絶版になっておらず、今も版を重ねる。『プロが語る胸アツ「神」漫画 1970-2020』でも、きたがわ先生によるマカロニ愛爆発の濃厚解説が展開している。

※3……『きまぐれ☆オレンジロード』→1984〜1987年「週刊少年ジャンプ」に連載された、まつもと泉による恋愛漫画。学園を舞台に、超能力を持つ春日恭介、クールでミステリアスな美少女鮎川まどか、明るく一途な後輩檜山ひかるの三角関係が描かれる。

※4……スタンド→『ジョジョの奇妙な冒険』に登場する超能力(漢字では「幽波紋」)のことで、その能力を具現化、擬人化した存在を指す。スタンドを使いこなす「スタンド使い」の背後に立ち現れ、異能力の相手とバトルを繰り広げる。1体に1つの特殊能力が備わっており、持ち主である「本体」が存在している。

きたがわ翔(きたがわ・しょう)
漫画家。1967年生まれ。13歳のときに「別冊マーガレット」に投稿した『番長くんはごきげんななめ』でデビュー。主な作品に『19〈NINETEEN〉』『B.B.フィッシュ』『ホットマン』『PERFECT TWIN』『刑事が一匹…』『デス・スウィーパー』など。独特のペンの持ち方から繰り出される圧倒的ハイレベルな手描き漫画のスキルやテクニックは、Yahoo!CREATORS「きたがわ翔のアナログイラスト講座」で惜しみなく披露されている。

このニュースに関するつぶやき

  • 「少年漫画と少女漫画のミクスチャーというのは昔からあったのですが」→モノローグの多用って事ね。
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  • ジョジョの影響は確実に受けてますね
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