武田真治が語る、ネガティブをポジティブに変換する方法「“言葉”を書いて“筋トレ”するしかなかった」

0

2021年12月05日 10:11  リアルサウンド

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

リアルサウンド

写真『上には上がいる。中には自分しかいない。』
『上には上がいる。中には自分しかいない。』

 俳優・武田真治の著書『上には上がいる。中には自分しかいない。』(幻冬舎)が10月14日にリリースされた。


 「第2回ジュノン・スーパーボーイ・コンテスト」でグランプリを受賞し、90年代には、中性的なファッションで話題をさらった武田真治。しかし、その後しばらく仕事に思い悩み、精神的・身体的に調子を崩し、長く自宅に引きこもってしまった時期があったという。そんなとき、彼を支えたのが「言葉」と「筋トレ」だった。人知れず、己を律するための言葉を画用紙に書いては壁に貼り、その言葉を胸に刻んでは筋トレに励む日々。やがてその努力が実を結び、NHK『みんなで筋肉体操(以下、筋肉体操)』への出演が決定。再ブレイクへと繋がったのだった。


 およそ20年の時を経て見つかった画用紙に記された言葉をもとに、当時のエピソードや、そこから学び得た“生まれ変わるために大切なこと”を赤裸々に綴った本作。執筆にあたり、武田真治は、どんな思いであの頃を振り返ったのだろうか。尋ねると、丁寧に言葉を選びながら話を聞かせてくれた。(とり)


関連:『上には上がいる。中には自分しかいない。』からの公開カット


■「言葉」を書いて「筋トレ」するしかなかった


――本作の執筆は、言葉が書かれた大量の画用紙を自宅で見つけたことがきっかけだったとか。


武田:そうです。20代半ばの頃ですね。顎関節症を患って、自分の個性の一つだと思っていたサックスが吹けなくなって、仕事も思うようにいかなくなって。完全に自分を見失ってしまった時期に、どうにか自分を律さねばと、ひたすら言葉を書きまくっていたんです。実際は、本作で紹介している倍以上見つかりましたよ(笑)。


――最初に画用紙に言葉を書こうと思ったのは、どんなタイミングだったんですか?


武田:まず、デビューしたての頃は、アイドルアクター的な感じで、特別何か苦労や努力をしたわけでもないのに人がついてきてくれたんです。そんなありがたい環境からスタートしたもんだから、このブームは周りにいた大人たちが神輿を担いでくれていたおかげだと知る由もなかったんですよね。自分の思うようにやっていれば永遠に人気者でい続けられると勘違いしてしまいました。


 「そうじゃない」と気づいたとき、既に僕の神輿を担ぐ人はいませんでした。みんな、次のスターの神輿に流れていったんです。いつの間にやら、僕の神輿はマネージャーの肩車に。それどころか、いちばんの味方であるはずのマネージャーでさえも僕に匙を投げるような状態でした。


――自分を理解してくれる人がいなくなってしまった。


武田:お恥ずかしながら、思いが伝わらない苛立ちを、そのまま周囲にぶつけてしまうことも多々ありました。子どもの頃、泣いては何かを与えられ、おしゃぶりを咥え替えるかのようにサックスを手にした僕ですから、自分の思いを言葉にまとめて人にうまく伝えることを身につけられていなかったんですね。


 伝わらないと苛立っても、結局思いは伝わらない。じゃあ、どうすれば伝わるんだろうか。それを考えないと空回りしたまま年老いていくだけだと気づいたとき、伝えたいことと伝えていることに溝があるのかなと考え、ふと画用紙に「あいうえお」と書いてみたんです。笑っちゃいますよね(笑)。「僕の”あ”って、なんか右に寄ってんな。ほぼほぼ”お”だぞ。これじゃ伝わらないな」みたいなことを真剣に思いながら。文字を書くことは、すごく新鮮な行為でした。


――そこで“書くこと”にこだわった理由は何だったんでしょう。


武田:こだわったというより、単純に話し相手がいなかったんです。自分を律するための言葉をかけてくれる人がいなかったから、自分で書き出すしかなかった。筋トレも同じです。よく「筋肉の声が聞こえる」なんて言うとバカにされますけれど、本当に孤独になったら、やれることなんて筋トレやジョギングだけだったんですよ。


 それに、人に何かを伝えるためには、ちゃんと言葉を選ばないといけないし、発言に責任を持たなきゃいけない。そういうのって、高校や大学のレポート提出なんかで、自分の書いた文章を他人に読んでもらって培われるべき部分なのでしょうが、僕は17歳で芸能界に入ってわりとすぐにチヤホヤされて、そういう人としてのコミュニケーションの基本を全部すっ飛ばしてきてしまったんでしょうね。その不甲斐なさにも気づけたので、この機会に”書く”ことからやってみようと思ったんですよ。


――「何で伝わらないんだ」と自暴自棄にならず、「どうすれば自分の思いが伝わるか」に向き合えたのはすごいですね。少なからず、別の方向に逃げてしまう人もいるじゃないですか。


武田:本当に周りから人がいなくなったら、自分と向き合うようになるものですよ(笑)。


――自分と向き合う日々のなかでも、同世代で活躍しているタレントさんと自分を比べて落ち込むこともあったと思います。


武田:それこそ20年前は、テレビの影響力が今よりも強かった時代。街で「最近テレビに出ていませんよね?」と聞かれたとき、うまく答えられないのがストレスでした。それが嫌で、引きこもりがちになったといっても過言じゃありません。最近は「舞台に出ているんですよ」とか「インスタグラムを見てくださいね」と言うと「なるほど、こんな活動をしているんだ」と理解してもらえます。


――テレビに出ていることがひとつの指標になっていましたもんね。


武田:実際、引きこもっているうちは、芸能人としての停滞でした。それでも言葉を書いて心を整理していると、ちょっとずつ人生が進んでいる感覚があったんです。家に引きこもって、画用紙に言葉を書きながら筋トレを続けることもまた前進なんだって。その気づきは、大きな力になりましたね。


 隣の芝生が青く見えることもありますけれど、一人の人間として生きるなら、まだ叶えたい夢があるのなら、いま自分が立っているここの芝生を青くしてみろって。それが大人の考え方。僕も若い頃に、側から青い芝生と見られチヤホヤされていた時間が長かったから、それが他の人に移ったとき、まわりにネガティブな言葉を吐いたりしました。でも、自分が立っている芝生の土を一から耕していくことがいちばん大変で、いちばん大事なことなんです。


 本作のタイトル「上には上がいる。中には自分しかいない」は、それに気付けたことで出てきた言葉だったと思います。上を目指してもキリがない。まずは自分と向き合い、自分が感じたことを表現していくだけだって。これは芸事に限らず、あらゆる職業・立場の人に言えることではないでしょうか。


■ネガティブをポジティブに変換する方法


――本作で紹介されている言葉は、どれもポジティブなものばかりです。思い悩むなかで、ネガティブな言葉を書いてしまうことはなかったんでしょうか。


武田:ありましたよ。ただ、ネガティブな言葉は、吐けば吐くほど、どんどんその人を醜くしてしまうんです。だからネガティブな感情は、どうにかしてプラスに変換した方が良くて。僕の場合、それが筋トレだったんですよね。ネガティブな感情をそのまま言葉にすれば、ただ醜い心が炙り出されていくだけですけれど、そのエネルギーを筋トレにぶつければ、筋肉増幅というポジティブな結果に繋がる。事実、行き場のない怒りがエネルギーとなって、ベンチプレスでいつも以上の重量を上げられたこともありましたしね。


――ネガティブをいかにポジティブに変換できるか。それは重要な心がけですよね。


武田:なんでもいいので夢中になれる趣味を持つことをオススメします。ついつい趣味にお金をかけすぎてしまったとしても、それだけお金をかけられる趣味なら、あとで回収することも可能ですからね。例えば、プラモデル制作が趣味で、やたらとお金を注ぎ込んでいる人がいるとするじゃないですか。「もったいない」と思う人もいるだろうけど、いまの時代、うまく発信できれば”プラモデル制作の先生”になることも夢じゃないわけで。


 僕も、夜中だろうがいつでもサックスの練習ができるよう、自宅に防音室を作りました。もちろん、お金はかかりましたよ。やるせなさを感じた夜、サックスを吹くと細かいことを忘れて気分も晴れます。夜な夜な飲み歩いて不平不満を垂れるよりも、よっぽどいい時間の使い方ができていると実感していますよ。


――本作には「もっと偏った方がいい」といった話もありました。特に若いうちは、アイデンティティを模索するなかで、いろんな可能性に手を出したくなるものかと思うのですが、武田さんは、趣味で続けていた筋トレとサックスを仕事にすることで、時間はかかっても、その偏りが何かに繋がると体現されています。そんな武田さんの言葉だからこそ、説得力があるというか。いま、何かを夢中になって続けている人の希望だと感じました。


武田:筋トレ歴20年、サックス歴30年……。歴があるから偉いのではなく、長く続けることで、「個性」を超えて、技術や経験が伴う「特性」になるんだってことなんですよね。特性は、例えばたった1年続けただけの人に取って代わられるようなものじゃない。


 芸能界では、毎年のように新人イケメンタレントが輩出されますが、そのなかで長く生き残る人とそうじゃない人がいる。それは、イケメン自体が技術を伴うものじゃないからでしょうね。重要なのは、プラスアルファとして、どんな特性があるかってことではないでしょうか。だから「もっと偏った方がいい」んです。本作にも書いていますけど、趣味が仕事になると人生はさらに楽しくなりますよ。人生の成功例のひとつだと思います。


――いま、武田さんが強く自分を持てているのは、やはり筋トレとサックス、そして「言葉」を書くことを続けてこられたからでしょうか?


武田:それらの特性を、みなさんに認知していただけたことが大きかったんじゃないですかね。というのも僕は、前著『優雅な肉体が最高の復讐である。』(幻冬舎)を上梓するまで、約15年間、誰にも言わずに筋トレを続けてきました。人知れず続けることが強さだと信じていたし、自分を変えるためにはじめたことだったので、世間に認知してもらう気もなかったんです。むしろ、認知してもらうための努力になった時点で、強さとかけ離れてしまうのでは、という考え方でした。


 それが、2018年にNHKで「筋肉体操」が始まり、その年の大晦日には紅白歌合戦に出場したことで多くのかたに知っていただくことになり、翌年フジテレビのバラエティ番組「芸能界特技王決定戦 TEPPEN」に出させてもらったときは、体重の8割のベンチプレスが109回上がり優勝。その記録が前回の優勝者を大きく上回っていたこともあって、多くのメディアに取り上げていただきました。”自分の強さ”を自分自身で認知したのはその頃で、努力して手に入れたことが他者に認められるって、こんなにも嬉しいんだなぁってことも知りましたね。


――”筋肉キャラ”が認知されるようになって、見える景色も変化したということですか?


武田:楽ですよね。自分を説明してくれる肩書きがあるっていうのは。与えていただいたキャラにあぐらをかいてちゃダメですけれど、分かりやすく自分の特性を広く認識していただけたことはありがたかいことです。


 それに「筋肉体操」で、ポップな形で筋肉を披露できたのは、僕自身の性格にも合っていたように思います。もしドラマや映画でバッキバキに牙を剥いた状態で披露していたら、筋肉を活かした役を一つか二つ演じて終わっていたでしょう。お茶の間には浸透しなかったかも知れません。


――お話を聞かせていただいて、改めて本作は、かつての武田さんと同じように人生に思い悩んでいる人に幅広く刺さる一冊だと感じました。


武田:心の調子を崩してしまっている人は、年代問わず、多くいらっしゃるんだと思います。人生につまずき、そこから立ち直った自分のことを素直に記しておけば、どこかで誰かの役に立てるかもしれない。本作は、そんな思いで執筆させていただきました。もし、自分を見失って孤独を感じている人がいたら、ぜひ本作を手に取ってみてくださいね。そこにはちっぽけだけれど正直な僕がいますから。


    ニュース設定