誰がCFでもいいマンチェスター・シティ。グアルディオラ監督が行き着いたトータルフットボールの極み

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2021年12月05日 10:51  webスポルティーバ

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欧州サッカー最新戦術事情 
第2回:マンチェスター・シティ

日々進化していく現代サッカーの戦術を、ヨーロッパの強豪チームの戦いを基に見ていく連載。第2回は、ジョゼップ・グアルディオラ監督が日々進化させるマンチェスター・シティを取り上げる。

◆ ◆ ◆




<リヤド・マフレズ「偽9番」の謎>

 プレミアリーグ第13節、雪の降りしきるフィールドでマンチェスター・シティはウェストハムを2−1で下した。

 この日の3トップはガブリエル・ジェズス、リヤド・マフレズ、ラヒーム・スターリング。普通に考えれば右からマフレズ、ジェズス、スターリングだが、ジョゼップ・グアルディオラ監督はご存知のとおり普通の監督ではない。

 センターフォワード(CF)はマフレズだった。右サイドが定位置の、というよりそれ以外ほぼ見たことがないマフレズのCFは驚きだった。

 ただ、昨季途中からシティは本物の9番を起用していない。スターリングのCFもあったし、ベルナルド・シウバやケビン・デ・ブライネ、フェラン・トーレスの9番(もちろん偽)もあった。

 そしてついにマフレズ。なぜ、マフレズ? と思ったファンは少なくないだろう。適性から言えばジェズスのほうがCFらしいのだが、最近はずっと右サイドが定位置である。マフレズの右より、ジェズスの右を優先したのかもしれない。

 ところが、マフレズのCFは20分までだった。いつのまにかジェズスが中央、マフレズが右ウイングになっている。これで謎が解けた気がした。

 誰でもいいのだ。

 グアルディオラ監督がバルセロナで「偽9番」をやり始めた時には、誰でもいいわけではなかった。リオネル・メッシをよりゴールに近い場所で前向きにプレーさせるためのファルソ・ヌエベ(偽9番)だった。

 セスク・ファブレガスをCF、メッシをトップ下に置いた3−4−3もやっていたが、メッシをバイタルエリアで前向きにプレーさせる意図は変わらない。右ウイングにメッシを起用したのも、手順が違うだけで意図は同じである。

 バイエルンではロベルト・レバンドフスキという本物の9番がいたので、偽は使っていない。この時は、バルセロナでほとんど使わなかったハイクロスも多用した。グアルディオラ監督の戦術はどのチームでも共通している部分と、チームによって異なるところがある。

 ビルドアップで敵陣まで運ぶのは一緒だが、アタッキング・サードからフィニッシュにかけては違う。ここはゴールゲッターにどんな選手がいるかによって手法を変えている。選手との化学反応だ。

 シティのCFはセルヒオ・アグエロだった。しかし、メッシやレバンドフスキを活かしたようなオーダーメイドは特にしていない。9番にも偽9番にも依存しない方法を見つけたからだろう。言い方を変えると、CFが「誰でもいい」アプローチだ。

<ペナルティーエリアに4人、ゴールエリアに3人入る>

 ペナルティーエリアの縦のラインは、16.5メートルある。およそこのあたりから相手ゴールに近い場所にボールを運べた時は、少なくとも4人がペナルティーエリア内に入る。これはほぼ実行されている。逆にボックス内の人数が足りない時は攻撃をやり直す。

 通常、サイドからクロスボールが入ってくる時のボックス内の人数は、3人が理想的と言われてきた。ニアポスト、ファーポスト、プルバック。この3カ所に人がいれば十分だと。

 場合によっては4、5人がゴール前に殺到していくこともあるが、標準は3人で、むしろ1人か2人というケースも多々ある。ところが、シティは少なくとも4人。5人、6人の場合もあるのだ。

 例えば、スターリングがペナルティーエリアの左角あたりでボールを持って、そこからカットインあるいは縦への突破をうかがう状態になった時、ペナルティーエリア内にはジェズス、マフレズのほかにインサイドハーフのイルカイ・ギュンドアン、ベルナルド・シウバが必ず入って行く。

 スターリングが縦に抜いてクロスを入れる、カットインしてシュートする、ボールを下げてジョアン・カンセロが斜めのハイクロスを蹴る、そのいずれの場合でもゴール前で4人が狙っている。

 ゴールライン近くまでえぐった時は、ペナルティーエリアではなくゴールエリア付近に4人、あるいは少なくとも3人が詰める。

 単純に人数が多いので、高速クロスが誰かに「当たる」確率はそれなりに高く、相手が触った場合でもこぼれ球を拾える確率が高い。4人の相手DFが全員ボックス内にいるとしても、全員が背後をとられていればマークするのは困難である。

 おそらくこれが「誰でもいい」理由だろう。ボックスに最低4人がいるので、誰かには「当たる」。当たれば至近距離からのシュートになる。CFとしての特別な技量は特に問われない。4人の誰かがボールに足や体を当てればいいだけなので、CFが本格派だろうが偽だろうが構わないのだ。頭数の勝負である。

<分厚い後方部隊のバックアップ>

 ウェストハム戦の先制点は33分、左サイドからカンセロがサイドチェンジした時点で、シティは4人のアタッカーがボックスへ突入開始。それをマークするウェストハムの4人もゴール前へ戻る。

 DF4人が引っ張られたので、カンセロからのロングパスを受けたマフレズはペナルティーエリア内の右端でフリーだった。マフレズは得意の切り返しから左足で低いクロスを送ると、ゴールエリアにいた3人のうち一番遠い場所にいたギュンドアンがゴールから至近距離でタッチして得点。

 2点目は90分、ペナルティーエリア左外でロドリのパスを受けたベルナルド・シウバがもう1つ短く縦へ流し、ジェズスがエリア内に突入。ジェズスのプルバックをフェルナンジーニョが丁寧なインサイドキックでゲットした。この時も、すでにギュンドアン、ベルナルド・シウバ、マフレズもボックス内にいた。

 こうした相手ゴール前の人海戦術が可能なのは、その前段階の段取りにある。

 まずボールを運べる。圧倒的に運べる。グアルディオラ監督のチームの共通項だ。そして、シティの場合は攻め込んだ時のバックアップ要員が厚い。ポジション・レスな流動性はトータルフットボールの最新バージョンなのだが、カウンターケアの後方部隊だけは決まっていて、2人のセンターバック(CB)の前にアンカーのロドリと両サイドバックの計3人を置いている。

 ウェストハム戦なら、カンセロ、ロドリ、カイル・ウォーカーの3人がCBの前で中盤のスペースを埋めていた。3人が中盤中央を抑えているので、前の5人が自由にポジションを変えられるし、相手のカウンターを恐れずに4、5人がボックスへ突っ込んでいける。

 グアルディオラはついにゴールゲッターの特殊能力に依存しない、文字どおりのトータルフットボールに行き着いたのかもしれない。

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