『鬼滅の刃』に学ぶ“非認知能力”の育て方 炭治郎と鬼殺隊が持つ「高い力」とは

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2021年12月05日 11:30  AERA dot.

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写真炭治郎が仲間と協力して鬼に挑む中で成長を遂げたように、子どもの非認知能力は、共通の目標に向かって活動することで伸びる(photo:植田真紗美)
炭治郎が仲間と協力して鬼に挑む中で成長を遂げたように、子どもの非認知能力は、共通の目標に向かって活動することで伸びる(photo:植田真紗美)
 教育の分野で、“非認知能力”が注目されている。 『鬼滅の刃』から見えてくるのは、「自分も相手もないがしろにしない」という 炭治郎たちの高い非認知能力だ。 AERA 2021年12月6日号から。


【画像】“非認知能力”を育む 鬼滅の胸に刺さるセリフはこちら
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 心の力は可視化できない。だからこそ、育てるにはサポートも重要だ。


 学童保育に通っていた小学2年生の男子は、2学期になってもほかの子らと馴染めず、一人で黙々と砂遊びをしていることが多かった。ADHDの診断があり、相手の気持ちをくみ取って話すことが苦手。夏休みの学童保育の行事に半分以上参加できなかったことに引け目を感じ、さらに心を閉ざしていた。


「ほかの子が一緒に遊ぼうとしても些細なことで『あっちへ行け!』と怒鳴ったり、暴力を振るってしまうこともありました」


 当時、学童保育の指導員として男子を担当していた岡山大学全学教育・学生支援機構准教授の中山芳一さんは言う。状況を改善するため、中山さんはある仕掛けを考えた。「めちゃくちゃ大きな段ボールの家を作ってみないか」と男子を誘ったのだ。


得意の分野で協働


「ポイントは二つ。一つは、その子どもが得意な分野であること。その男子は『化石作り』と称して、いつも砂で何かを作っていました。もう一つは、協力が必要なこと。教室の半分くらいのサイズの家を作るには、誰かの手を借りないとできません。『気の合う子に手伝ってもらおう』と男子に提案すると、快く受け入れてくれました」


 段ボールの家作りは、足かけ2カ月。興味津々に見物にきた子たちに、最初は「邪魔すんな!」と怒鳴っていたが、「すげぇ」「親方!」と声を掛けられるうち、「(完成を)お楽しみに!」と笑顔で応えるようになった。協力者も1人、2人と増え、最終的には20人近い子どもが参加したという。


「懸命に作業する姿をみて、周りの子も男子に対して親愛や尊敬の気持ちを持つようになった。完成直前、男子が盲腸で入院したときは、『彼が戻るまで色は塗らないでおこうよ』と思いやる言葉が自然と出ていました。ほかの子たちにとっても、男子は大切な存在になっていたんです」


 その後男子は、周囲の子たちとうまくコミュニケーションを取れるようになったという。


 非認知能力、という言葉がある。ノーベル賞受賞者で経済学者のジェームズ・ヘックマンが提唱した概念で、IQやテストの得点とは違い、「数値化できない能力」を指す。具体的には、自尊心や楽観性、忍耐力、継続力、社交性、共感性などが挙げられる。




 中山さんは非認知能力の視点から男子の状態を分析する。


「非認知能力とは、『自分を高める力』『自分と向き合う力』『他者とつながる力』の三つに分けられます。その男の子は、他者とつながる力がとても弱い状態でした」


 それを向上するための提案が、段ボールの家づくりだった。


 ヘックマンも、幼児教育の中で非認知能力を育むことの重要性を説いている。中山さんはそのヒントが、漫画『鬼滅の刃』にはたくさんあるという。


炭治郎の「力」とは


「たとえば、主人公の炭治郎は、非認知能力が非常に高い。私も講演で彼の言葉や作品のシーンを例に解説することがあります」


 どうすれば、子どもの非認知能力を高めてあげられるのか。


「親や教師が直接ほめたり注意したりすることはもちろん必要です。でも、子ども自身が主体的に当事者性をもって活動から学ぶほうが、得られることがはるかに多い。親は、子どもにバディを組んで活動する機会をつくってあげてほしいのです」


 自分にはない強みや弱さを持った子と共に活動し、互いを認め合うことで、利他性が育まれる。コミュニケーションを通じ、お互いが変化していくプロセスが大切だという。


「子どもが普段できている部分を見つけ、言葉で伝えていくことも大切です」


 たとえば、「笑い方が素敵だね」「掃除が丁寧で速い!」など、点数では評価されづらい部分を意識的にほめてあげる。


「すると、心の中に自分を評価するものさしがたくさんできて、一回の失敗や過ちで自信を失ったり、相手を全否定したりするといったこともなくなります」


 点数で固定されがちな評価を「解きほぐす」ことにより、多様な視点で自分や他者を見ることもできる。


「『鬼滅』の炭治郎はこれもめちゃくちゃ上手。さっきまで殴り合っていた伊之助に、『鬼退治に一緒に山に入ってくれてありがとう』と感謝を伝える。また、自分を殺そうとした鬼が、柱の冨岡義勇に敗れて踏みつけられたときは、『自らの行いを悔いている者を踏みつけにするな』とかばっています。相手を評価する軸がたくさんあるのです」


「鬼滅」が非認知能力にもたらす効果は、AERAが行ったアンケートでも確認できた。「4歳の息子が何かに負けてしまったときに、『勝負には負けたけど、〇〇の部分は頑張ったから負けていない』と言うようになった」(34歳・会社員・女性)という声もあった。(ライター・澤田憲、編集部・熊澤志保)

※AERA 2021年12月6日号より抜粋


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