宿泊施設のアメニティ事情、温泉宿で愛される「馬油シャンプー」にかける商人魂

178

2021年12月05日 14:00  週刊女性PRIME

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

週刊女性PRIME

写真写真はイメージです
写真はイメージです

 緊急事態宣言も解除され、観光地には旅行者も戻ってきた。気になるのがシャンプーやリンスなど宿泊先のアメニティ。よく見かける馬油成分のアイテムには意外な事情が! 仕掛け人に話を聞いた。

 新型コロナウイルスの感染の波もいったんはおさまり、緊急事態宣言も解除。全国の観光地には旅行客が戻りつつある。

「先日、母と叔母と近場の温泉宿に泊まってふと気になったことがあるんです」

 そう切り出したのは神奈川県に住む30代の主婦。

「その宿のアメニティは『馬油(バーユ)シャンプー』でした。温泉宿でよく見かけるんですが、なんで温泉と馬油なのか気になってしまって……」(同・30代主婦)

 大浴場や部屋に設置されているシャンプーやトリートメント、せっけん、基礎化粧品などアメニティ類は宿泊施設には欠かせないアイテム。前出の主婦が気になっていた『馬油シャンプー』も各地で見かけることが多い。

 実は温泉宿のアメニティの中でも長年、愛されているアイテムというのだ。

 では、なぜ温泉地に馬油シャンプーが多いのだろうか──。疑問を解決するべく、販売メーカーのひとつである株式会社アズマ商事(本社・大阪府)の担当者に聞いた。

「馬油はケガやヤケドに効くと言われ、昔から治療に使われてきました。肌なじみがよく、老若男女問わず安心して使ってもらえるアイテムです。乾燥しがちな肌や髪ケアにもオススメです」

 温泉との相性もいいのだろうか? 尋ねると、

「どの泉質のお湯とでも相性はいいですが、温泉地で使うことだけを目的に商品開発しているわけではありません。温泉で使って気に入って購入しても自宅の浴室で使ってみるとよくなかった、となってしまったら意味がない」(同・アズマ商事担当者、以下同)

 馬油シャンプーは2006年の発売以来、根強い人気があり、同社の人気No.1アイテム。

「旅先で気に入り購入、親子3代で愛用してくださるリピーターも少なくありません。ただ、弊社の商品はドラッグストアなどで購入できるわけではないんです」

 その理由を前出の担当者が明かす。

使ってよければ購入する『体感販売』を考案

「馬油シャンプーに限らず、炭や柿渋などの自然派素材を使った弊社のアイテムはすべてまずお客さんに使ってもらいます。それでよかったら購入してもらう『体感販売』という形態をとっています。購入者の期待に沿えるかわからないものを販売するより、まずは使い、気に入ったら買ってもらう、というのが社長の考え方です」

 これは同社の東村清代表取締役社長が35年前に考案し、始めた日本初の営業スタイル。

「パッケージの情報だけで購入し、使ってみると思っていた使用感と違うことがよくあります。ですが、うちの商品の場合は、アメニティとして展開しているホテルや旅館で使い、気に入ったら同じホテル内の売店で購入できるようにしています

 ユーザーは使い心地を納得し、購入できる。馬油シャンプーが長く愛される理由は「顧客を満足させたい」と取り組む商人魂の表れなのだ。

 東村社長が考えた『体感販売』は、ビジネスモデルのひとつとして馬油シャンプーに限らず、宿泊業界内でさらなる広がりをみせている。

「ドライヤーやマットレスなども同様です。購入を検討していても使用感を試すのは難しい。ですが、宿泊時に使い、気に入れば購入するきっかけにもなる。宿泊施設は企業にとっても販路を広げるチャンス市場でもあるんです」

 そう説明するのは旅行ジャーナリストの村田和子さん。

 現在宿泊施設のアメニティ事情は大きな変化を迎えているという。

「バブル期のハイクラスホテルでは『ブルガリ』や『エルメス』など海外のブランドコスメのアメニティを用意、宿泊時のステータスにもなっていました。1990年代はそれらが各部屋に個包装で置かれていました」(村田さん、以下同)

 もったいなくて使えず、お土産として持ち帰ることも珍しくはなかった。大掃除の際に未使用のブランドアメニティが大量に発見された、なんてことはよく聞く話だ。

「今は高級ブランドより、肌への優しさを考えたアイテムが注目され、自然派素材を使ったアメニティに移行する傾向があります。『ロクシタン』や国内なら『POLA』なども人気です。それに環境への配慮も欠かせません。SDGs(持続可能な開発目標)の観点と経費削減のため、据え置きボトルタイプのアメニティへ切り替える宿泊施設が増えています」

 個包装されたアメニティは『レディースプラン』などの特典となり、宿泊先を選ぶ際の決め手になることも。

旅先は新しいアイテムに出会うチャンス

 宿泊先選びの重要ポイントともされてきたアメニティだが、あえて使用しない選択をする宿泊者もいるという。

「身体に使うアイテムは普段と同じものを使いたいと使い慣れたものを宿泊先に持ち込む人も増えています。“旅行先で肌トラブルを起こしたくない”という気持ちは、お客さんも宿泊施設側も同じ」

 そこで複数の国内メーカーのアメニティを用意。普段使っているものだけでなく、使ってみたいアイテムを顧客が選べるサービスの展開も広がっているという。

 村田さんは宿泊先で購入できるアメニティについて“一期一会”と言う。

「私の使っている基礎化粧品も最初は宿泊先のアメニティでした。使用後に気に入って購入したもので、もう5年も使っています。シャンプーや基礎化粧品など、旅先は新しいアイテムに出会うチャンスでもあるんです」

 また、宿泊施設とコスメブランドがタイアップしたオリジナルアメニティや、地元企業が地域の特産品を使って開発したものなどを提供するケースも増えてきたという。

「食事も地産地消、アメニティも地元の素材や企業が開発したもの、という宿も多い。地域発のアイテムは、そこから旅先の地域を知るツールにもなります」

顧客を第一に考える気概

 だが、1年半以上続くコロナ禍でホテルアメニティも煽(あお)りを受けている。

「ホテルの売店も厳しい状況が続いており、当然、弊社も影響があります」(前出・アズマ商事担当者、以下同)

 緊急事態宣言が解除されたいま挽回するチャンスか、と今度の展開について尋ねると、

私たちのお得意様である旅館、ホテル業界は厳しい状況です。なので新商品を売り込んで経営に追い打ちをかけるような展開はやめようと考えています。本当の意味でコロナが落ち着いて元の状態に戻ったら、そこから商品開発も頑張っていきたい。今は業界をサポートする精神でいたいと考えています」

 さらにはホテルや旅館に商品を納品する際、一部のアイテムについては館内で使用する分を無償で提供する取り組みも行う。

「無償提供すれば弊社の売り上げは赤字になることもあります。ですが続くコロナ禍で、館内で使用する商品を購入するのが厳しい宿もあるんです。まずは宿を私たちがサポートし、元気になっていただければと考えております」

 売り上げ度外視で顧客を第一に考える気概。そうした姿勢が長年愛される商品展開へとつながるのかもしれない。

『馬油』とともにコロナ禍を駆け抜けるため奔走は続く。

〈PROFILE〉
株式会社アズマ商事 ◎1988年創業。全国の旅館、ホテルなどに向けた商品を展開。人気の馬油シリーズのほか、炭、オレンジ、柿渋、お茶など自然派コスメの開発、提供。最近のイチオシは酒粕美容パック

村田和子 ◎旅行ジャーナリスト。旅の魅力や楽しみ方を紹介するほか、各種講演や宿、地域のコンサルティングを行う。旅を通じて子どもの生きる力を育む「旅育メソッド」を発表、著書に『旅育BOOK』

初出:週刊女性2021年12月14日号/Web版は「fumufumu news」掲載

このニュースに関するつぶやき

  • 馬油はマー油と読みまして(違、ラードでにんにくを揚げた黒い油ですん(違。熊本ではラーメンにいれます(違
    • イイネ!11
    • コメント 2件

つぶやき一覧へ(97件)

前日のランキングへ

ニュース設定