背水の陣からの復活劇 螺鈿職人がSNSで起こした伝統工芸の奇跡

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2021年12月06日 09:01  おたくま経済新聞

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背水の陣からの復活劇 螺鈿職人がSNSで起こした伝統工芸の奇跡

 京都府京都市にある工房「嵯峩螺鈿・野村」にて、漆と貝を用いた伝統工芸品「螺鈿(らでん)」の職人として活動する野村拓也さん(以下、野村さん)。


 家族経営という工房では、3代目店主である父を先頭に、母、姉とともに働いています。また、野村さんは職人仕事と平行して、オンラインストアの運営管理に、体験教室の講師も担当。さらには自身のTwitterを通じて広報活動を行っていますが、そんなSNS運用のなかで得た「気づき」についての投稿が、今回大きな反響を呼んでいます。


【その他の画像・さらに詳しい元の記事はこちら】


「これはガチなんですが、数年前までは20才前後の方がうちの商品買うなんてまぁなかったです。最近はお祝いとかプレゼントとかで店頭に来ていただいたり、オンラインストアで沢山の若い方に買って頂いているんですが、伝統工芸の世界で言うと控えめに言って奇跡なんです」


そんなつぶやきとともに、「嵯峩螺鈿・野村」の商品「螺鈿イヤリング」を紹介した野村さん。購入者の年代の変化についての「気づき」ですが、その大きな要因となったのがTwitter。折しものコロナ禍を受け、2020年7月に開設されたものです。


 「元々、当店のお客様は、従来は年配層が中心でした。『螺鈿』は、正倉院展で一般公開される『宝物』が有名ということもあり、美術品に興味をお持ちの方が多いという背景もあります」


 「ただ、コロナ禍により、これまでのお客様が出歩けなくなってしまいました。そこで背水の陣の気持ちで始めたのがTwitterでした。運よくバズったり、日頃より応援していただいている方のおかげもあって、売上を戻すことができました」


 その中で、「20歳前後の方」といった「新規顧客」を、Twitterで開拓できたという野村さん。それは、自身が職人として関わる伝統工芸品に対しての、「考え方の変化」にも繋がったそう。


 「伝統工芸の商品は高価なものが多いので、『若い人には買ってもらえない』『古いものには興味を持ってもらえない』と、販売側が一方的に諦めていたことに気づきました。実際に発信してみると、『キレイ!』『お店で見てみたい!』『秒で注文しました!』など、若い方から嬉しいお声をいただいたんです」


 続けて、「最近も、『就職祝いで親に買ってもらいました』『今年頑張った自分へのご褒美で買いました』といった投稿もあって、今回ツイートしたんです」と語る野村さん。


 確かにコロナ禍は、伝統工芸品を含めた多くの店を営む方を、現在進行形で苦しめています。しかし、そんな状況下においても、「嵯峩螺鈿・野村」のように、SNSというネットに活路を求めて、巻き返したという事例もまた存在します。


 野村さんも認めたように、そこには、開設直後にバズったという「運」という要素も含まれています。ただそれも、従来の価値観を一度かなぐり捨てて、Twitterという未知の世界へ飛び込んだ「行動の結果」。さらにいえば、実力がもともとあったからこそ起きた奇跡と言えるのではないでしょうか。運だけあっても実力がともなわなければ、奇跡がおきてもきっと逃していたことでしょう。もしかすると、奇跡が起きたことさえ気づかなかったかもしれません。


 余談ですが、本稿を執筆するにあたり、筆者は野村さんから、「嵯峩螺鈿・野村」で取り扱う様々な螺鈿商品の画像をご提供いただきました。


 そこには、螺鈿で作られた装飾具・小物・容器など、色鮮やかな商品の数々。紙面の都合上、泣く泣く掲載を断念したものもありますが、中には、カフスのような「男性向け」の商品の姿も。


 実は「嵯峩螺鈿・野村」に対しては、「女性向け」という印象を抱いていた筆者。私もまた多くのTwitterユーザー同様に、「キレイ!」「お店で見てみたい!」という気持ちを抱くこととなりました。



<記事化協力>
野村拓也さん(@takuyanomurardn)
嵯峩螺鈿・野村


(向山純平)


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