「安楽死」の法制化は認められるべきか? 欧州で目立つ合法化の動き

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2021年12月06日 17:00  AERA dot.

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写真※写真はイメージです (GettyImages)
※写真はイメージです (GettyImages)
 人に迷惑をかける前に尊厳死を──。そう考える人は多い。海外に目を向ければ、安楽死を法的に認める国も増えている。日本でも法制化に向けた動きはあるが、反対意見も根強い。人生の最期をどう迎えるか。誰にでも訪れる死について考えた。


【瀬戸内寂聴さんの写真はこちら】
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 11月9日に亡くなった瀬戸内寂聴さんは、本誌1月22日号の連載「老親友のナイショ文」で、「私はたぶん、今年、死ぬでしょう。(数え年で)百まで生きたと、人々はほめそやすでしょう」と記していた。死を意識していた一方で、2月26日号のインタビューでは「死ぬまでにもう一本、長編小説を書きたいのよ」と抱負を語っていた。


 長編小説執筆の願いはかなわなかったが、死の間近まで“現役”として活動を続け、安らかな眠りについた。


 瀬戸内さんのような最期を望む人が多いだろうが、現実にはなかなかそうもいかない。病院で全身に管をつながれ、なかば植物状態で長期間の延命がなされた末に、ようやく死が訪れるケースもないわけではない。



 尊厳を保ったままに逝きたいという願いから、安楽死を求める人もいる。しかしオランダ、スイス、ベルギーなど限られた国以外では非合法である。


 日本では昨年7月、難病の筋萎縮性側索硬化症(ALS)で苦しむ女性から依頼を受け、京都市のマンションで薬物を投与して殺害したとして、2人の医師が嘱託殺人の疑いで逮捕=同罪で起訴=された。彼らは女性の主治医ではなかった。


 たとえ本人から依頼されても死に至らしめるのは、日本では殺人だ。


 では近年、耳にする機会が増えた尊厳死は、安楽死と何が違うのか。


 これについては、東海大学安楽死事件での判決理由が参考になる。


 1991年、東海大学医学部附属病院の内科医が、末期がんの患者に塩化カリウムを投与して死に至らしめた。横浜地裁は被告を懲役2年、執行猶予2年の有罪とした(後に確定)。


 裁判官は、安楽死について三つの種類があると示した。(1)延命治療を中止して死期を早める不作為型の消極的安楽死(2)苦痛を除去・緩和するための措置を取るが、それが同時に死を早める可能性がある治療型の間接的安楽死(3)苦痛から免れさせるため意図的積極的に死を招く措置を取る積極的安楽死である。



「このうちの消極的安楽死が、私たちのいう尊厳死のことです」


 そう語るのは、公益財団法人日本尊厳死協会の岩尾總一郎代表理事だ。


 同協会は、自分の病気が治る見込みがなく死期が迫ってきたときに、延命治療を断って死を選ぶ権利を社会に認めてもらうことを目的に、76年に設立された。


 現在、会員数は約10万人。それぞれ死期が迫ったときに延命治療を断る「リビング・ウイル」と呼ばれる事前指示書を作成している。(1)無意味な延命措置の拒否(2)苦痛を和らげる措置は最大限に実施(3)回復不能な植物状態に陥った場合は生命維持措置を取りやめてほしい──という願いを医師に伝えるのだ。


 岩尾氏が説明する。


「医師の中には、治らないということは敗北であると考える人が多いのです。でも治すことだけではない。30〜40代の人を治すために一生懸命頑張るのと、80代の人が病気になって治療をするのとは違います。仮に治らなくてもQOL(生活の質)を上げられるはずです。今は何が何でも治すことに主眼が置かれ、患者に負担がかかっています」


「何が何でも」という医者側の強い思いが、患者を管だらけにして尊厳を損なうことにつながりかねないというのだ。


 もっとも、医師の立場ながらも尊厳死を認めるべきだと主張する人もいる。同協会の副理事長で長尾クリニック(兵庫県尼崎市)院長の長尾和宏氏は、『小説「安楽死特区」』を出版。在宅医療に取り組み、昨年も150人の死を看取った長尾氏は、こう説明している。


「皆さんが憧れてるのは、安楽死じゃなく“安楽な死”。痛くない苦しまない死に方ですよね。それなら、もっと自然に逝ける尊厳死がある。(略)私はこれまで、在宅医療で1200人以上お看取りした。みんな尊厳死です。尊厳死ならより長く生き、最後まで食べられてお話しができて、苦痛も少ない」(東洋経済オンライン2020年2月16日)


 同協会専務理事で日本医科大学特任教授の北村義浩氏は持論を説明する。



「どこの国で、どの親で、どうやって生まれるかは選べません。でも死に方は選べるでしょう、という考えです。どこで何を食べ、どこに住むかを選ぶように」


 もちろん尊厳死に対しては反対意見も多くある。


 では、世界各国ではどのような状況なのか。イギリス、オーストリア、クロアチア、スペイン、ハンガリー、フィンランド、ポルトガル、ドイツ、フランスなど欧州では、比較的早い段階で合法化されていた。


 近年ではイタリアが17年12月に法律を制定し、翌18年1月に施行した。法制定の背景には、交通事故の後遺症に苦しむ男性ディスクジョッキーがスイスで安楽死を選んだことなどで、世論が動いたからといわれる。


 韓国では16年に「延命治療決定法」が成立し、患者の意思で延命治療を中断できることになった。同法が18年2月に施行されるや、4カ月間で8500人が延命治療を取りやめたと報じられた。


 日本でも議員立法による法案提出に向けた動きがある。超党派の「終末期における本人意思の尊重を考える議員連盟」の増子輝彦参院議員が語る。


「あくまで本人が尊厳ある死を選択できるように、と。本人の意思が第一です。リビング・ウイルを提出し、主治医とそれに準ずる医師、2人以上の同意が必要だと、法案作成に関して内閣法制局と何度も議論しました。死生観は個人の問題だから、法律を当てはめるのはけしからんという意見もありますが、静かに尊厳ある死を迎えようとする人の意見も尊重すべきであると私は考えます」


 もちろん、こうした法制化に対しても、ALSの患者などは、「難病患者や障害者の生命を脅かす」などとして反対している。緩和ケアなどの充実が先とする意見や、延命措置を中止するかどうかを法律で規定すべきではない、という医師や学者も多い。


 法が整っていても解決する問題でもない。


 消極的安楽死が認められているフランスで19年7月、交通事故で全身まひになり10年以上になる男性が、延命措置の停止により死去した。男性の妻は13年以降、延命の停止を訴え続けてきたが、男性の母は「息子は終末期でもないし植物状態でもない」と主張。そのため尊厳死の肯定派と否定派が激しく争う事態となったのだ。



 一人ひとりが家族と話し合うことが大切だと説くのは、早期緩和ケア大津秀一クリニック院長で、『死ぬときに後悔すること25』などの著書がある大津秀一氏だ。


 大津氏は、脳梗塞(こうそく)で倒れた70代の男性が、半身まひと失語の後遺症が残り、認知機能も低下、本人の意思を正しく確認することが難しい状況になったことを例に挙げる。


「お子さんには何度か『俺は、人らしい生活ができなくなったら、何もしなくていい』と言ったことがありました。彼は嚥下(えんげ)機能障害が深刻で、胃ろうなどの栄養法を行うことが医学的には良いと考えられましたが、そこで息子と娘とで意見が割れました」


 息子は「人らしい生活ができなくなったら」という言葉から、望んでいないのではないか、と。一方、娘は、さすがに何ら栄養を摂取しなくて良い、積極的に死にたいとまでの意思ではないのではないか、との考えだったという。


「人の終末期にどこまで治療を行うのが良いかは難しい問題です。自分にとっての尊厳死というものについて、家族や周囲の人とよく話し合い、自分の望む最後の姿について明らかにし共有しておくことが大切です」


 終活がブームとなっているが、まずは死そのものについても考えてみる必要がある。(本誌・鮎川哲也、菊地武顕、秦正理)

※週刊朝日  2021年12月10日号


このニュースに関するつぶやき

  • 自殺願望から身勝手に無差別殺人を犯すバカを事前に始末する仕組みは必要かもしれない。
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  • 安楽死は賛成だな。自分の死に際・引き際を自分で決めたっていいと思うよ。
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