FC岐阜前社長がJリーグの2021シーズンを総括。「ホームタウン制度」や愛すべきチームへの思いも語った

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2021年12月06日 17:11  webスポルティーバ

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FC岐阜前社長 恩田聖敬 特別寄稿 2021

 今シーズンはどのディビジョンも極めてスリリングでした。やはりJ1、J2それぞれ4チーム自動降格というコロナ禍による今年特有のレギュレーションが盛り上げを助長したと思います。まずFC岐阜を語る前に、J1、J2について思うところを述べます。




 まずはJ1、レギュラーシーズンを連覇した川崎フロンターレ。かつて「シルバーコレクター」と呼ばれたのはすっかり過去にして絶対王者として君臨しています。フロンターレはなぜ強いのか? 

 実は私、社長在任中の2014年にフロンターレのイベント担当の方に会いに行っています。当時FC岐阜は様々なイベントで新たな顧客層を開拓していましたが、フロンターレには勝てないと思ったから教えを請いに行きました。その担当者の方は10年先のイベントのビジョンを明確に持っていました。今振り返るとそれこそがフロンターレの強さだと思います。

 フロンターレはきっと勝利至上主義のチームではありません。ただクラブ全員が「未来永劫フロンターレはこうあるべきだ!」という理念をずっとずっと共有し続けたからこそ、「勝ちたい!」という思いが溢れて今の強さにたどり着いたと思います。フロンターレの担当者の方は本当に楽しそうに未来を語っていました。スタッフから選手までが同じ夢を見続けることが、最後は強さに結び着くのだと思います。

 続いてJ2です。なんと言ってもジュビロ磐田の遠藤保仁選手に尽きます。まさに昇格請負人としての役割を果たしました。もちろん遠藤選手だけで勝ったとは言いません。しかし遠藤選手なしでも優勝という名門・ジュビロの鮮やかな復活劇があったかと言われると、少なくとも私はハイとは言えません。

 野球ならわかります。野球はピッチャー1人で大きく試合は変わります。例えば今シーズンならオリックスの山本由伸投手が投げればそうそう負けはしませんでした。けれどもサッカーにおいては1人選手が変わったからといってチームが変わるほどの影響力を与えるのは非常に難しいことだと考えます。それでも遠藤選手に尽きるというのは、円熟したマインドとテクニックのプレーの賜物だと思います。ほぼ同世代として心から尊敬し賞賛いたします。

 もう一つ印象に残ったのはブラウブリッツ秋田が早々にJ2残留を決めたことです。去年ぶっちぎりでJ3を制した秋田のサッカーはJ2でも通用しました。去年FC岐阜との試合を観ましたが、秋田のサッカーは私から見たら実に単純明快でした。とにかく全員で守ってボールを奪ったら全員で全速力でカウンター、試合終了までひたすらにハードワークに徹する泥臭いサッカーでした。

 私はこのサッカーに非常に好感を持ちました。高校球児のようなひたむきさを感じました。常に全員がハードワークするのはチームスポーツの基本だと思います。そんな秋田のサッカーが報われたことをうれしく思います。更なる高みを目指して欲しいです。

 さて、J3です。残念ながらFC岐阜は今年もJ2復帰を成し遂げられませんでした。また私自身、今シーズンは2試合しかスタジアムで観戦ができませんでした。社長退任以来ここまでスタジアムに行かなかったシーズンは初めてです。

 改めてデータを見てみます。去年の各クラブの決算データを見ると、チーム人件費はFC岐阜は3億3千3百万円でJ3のチームでは断トツの一位です。ちなみに前述した秋田の去年のチーム人件費は1億8千4百万円です。

 おそらく今年は柏木陽介選手の加入もありましたので、更なる人件費高騰が予想されます。練習場も天然芝2面となり、コーチ数やトレーナー数もどのJ3クラブよりも豊富と聞いています。

 J3には不相応な恵まれすぎた環境です。でも勝てない。これってクラブが単純に強さを求めていないのかと思ってしまうのです。フロンターレのようにクラブの夢を全員が語れるようになるのが先じゃないかと思わずにはいられないのです。そういったことに関して私がどうしても気になったトピックスについて触れます。

 今年の10月に目を疑うようなニュースが飛び込んで来ました。

 Jリーグがホームタウンの概念を撤廃する! ネーミングライツも認める! それが今月にも正式決定する⁉︎

 本件はすぐに村井満チェアマンより否定のコメントが出ましたが、こんな報道が出るということはそれを望むクラブが存在する証拠だと思います。

 これはJリーグの根幹を揺るがす事態なので、私見を述べさせていただきます。

 そもそもJリーグのクラブって地域のサポーターやスポンサーあってこそ30年近く存続してきたんじゃないんでしょうか?

 私はホームタウンの概念がなくなるのなら、『FC岐阜』というチームに何の魅力も感じません。私はぶっちゃけサッカーより野球のほうが好きです。FC岐阜の社長になるまでJリーグの試合は1試合も見たことがありません。そんな私が敢えて順風満帆だった東京でのビジネスマンライフを捨てて岐阜に戻ったのは、FC岐阜の先に岐阜県民の笑顔が見えたからです。

 私にFC岐阜社長の白羽の矢が立つ前に関係者間で「FC岐阜社長に求められる3条件」について話し合われたと聞いています。

〔唄峇覿箸侶弍跳亳海ある
▲好檗璽弔筌┘鵐織瓩紡し悗深い
そして絶対に外せない3つ目は
4阜県出身
です。

 私は岐阜県山県郡高富町(現在の山県市)で生まれ育ちました。とんでもない田舎です(笑)。小学校は1学年1クラス、校区には信号は1つ、当時は実家から最寄りのコンビニまで自転車で15分、高校までは自転車で45分かかりました。けれども私にとっては愛すべき岐阜県でした。

 大学で岐阜県を出たところ、他県の人から「岐阜って何処にあるの?」とか「岐阜って漢字が書けない」など散々言われました。岐阜県の認知度はこんなにも低いのかと思い知らされました。

 だから、社長就任の時に誓いました。『岐阜県にはFC岐阜があると日本中に知らしめてやる!』と。そんな思いを固めた時に当時のチームスタッフから次の話を聞きました。バルセロナでは出生届と同時にFCバルサのファンクラブへの届け出をするのは珍しくないそうです。たしかに赤ちゃんの写真のファンクラブ証を見ました。私は自分が死ぬまでにこれを目指そうと思いました。

 またFC岐阜には「オレンターノ岐阜」という後援会組織があります。オレンターノ→俺んたの、これは岐阜の方言で「俺たちの」を意味します。この後援会名に込められた岐阜県への思いをわかっていただきたいのです。

 ホームタウンの概念がなくなったら、ホームタウン活動はどうなるのでしょうか? 

 私は社長時代に一度だけ激昂したことがあります。ホームタウン活動に追加報酬を要求する選手がいると聞いた時です。私はすぐさま強化部長を呼びこう言いました。「誰のおかげでサッカーが出来ていると思ってるんだ! 文句を言ってる選手を俺の前に連れて来い! その場でクビにしてやる!」私は本気でした。ホームタウン活動は岐阜県とFC岐阜を繋ぐ基本的活動です。それを軽んじる選手はFC岐阜には必要ないと思ってました。

 ここまで述べたのは全て私見であり、今のFC岐阜関係者がどうお考えかは知る由もありません。

 私は、FC岐阜の歴史に携わった身として申し上げます。岐阜県に元々ゆかりなどない身ながらFC岐阜をJリーグ参入まで導いた今西和男元社長、危機的経営状況の中で火中の栗を拾い現在の筆頭株主を探し当てた薫田大二郎元社長、岐阜愛だけなら誰にも負けない私、見事な経営手腕でFC岐阜を安定軌道に乗せた宮田博之社長。これまで受け継いできた道のりには『地域に根ざしたサッカークラブを創る』という共通の志があったはずです。それはサポーターやスポンサーも同じだと思うのです。

 今でもJリーグ参入を夢見て地域で歯を食いしばって頑張っている人たちに向かってホームタウン辞めますとは少なくとも私は口が裂けても言えません。

 私も経営者の端くれなので企業には変化が必要不可欠なのはよくわかります。しかし絶対に変わってはいけないものがあります。それは企業理念です。

 ホームタウンの概念は、Jリーグの根幹である企業理念だったはずです。少なくとも私はそう理解しています。企業理念を変えるということはすなわち別会社になることを意味します。

 今後のJリーグの変化がJリーグの礎を築いて来た方々を悲しませる結果とならないことを祈るばかりです。そしてFC岐阜関係者の皆様には今一度原点に戻って、FC岐阜のミッションは何かを真剣に考えて頂きたいと思います。

FC岐阜元社長 恩田聖敬

【Profile】
恩田聖敬(おんだ・さとし)
1978年生まれ。岐阜県出身。京都大学大学院航空宇宙工学専攻修了。新卒入社した上場企業で、現場叩き上げで5年で取締役に就任。その経験を経て、Jリーグ・FC岐阜の社長に史上最年少の35歳で就任。現場主義を掲げ、チーム再建に尽力。就任と同時期にALS(筋萎縮性側策硬化症)を発症。2015年末、病状の進行により職務遂行困難となり、やむなく社長を辞任。翌年、『ALSでも自分らしく生きる』をモットーに、ブログを開設して、クラウドファンディングで創業資金を募り、(株)まんまる笑店を設立。講演、研修、執筆等を全国で行なう。著書に『2人の障がい者社長が語る絶望への処方箋』。2018年8月に、気管切開をして人工呼吸器ユーザーとなる。私生活では2児の父。

※ALS(筋萎縮性側索硬化症)とは、手足・のど・舌の筋肉や呼吸に必要な筋肉がだんだん痩せて、力がなくなっていく病気。 最終的には自発呼吸ができなくなり、人工呼吸器をつけないと死に至る。 筋肉そのものの病気ではなく、筋肉を動かし、運動をつかさどる神経が障害を受け、脳からの命令が伝わらなくなることにより、力が弱くなり筋肉が痩せていく。その一方で、体の感覚や知能、視力や聴力、内臓機能などはすべて保たれることが普通。発症は10万人に1人か2人と言われており、現代の医学でも原因は究明できず、効果的な治療法は確立されていない。日本には現在約10000人の患者がいると言われている。

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