今冬も予想される電力不足、なぜ電力市場価格は高騰するのか--Looopが解説

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2021年12月07日 14:51  マイナビニュース

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画像提供:マイナビニュース
エネルギーフリー社会の実現を目指し、再生可能エネルギーを中心としたエネルギーサービスを展開するLooop。同社が今冬に予測される電力市場高騰に関するメディア向け勉強会を開催した。その内容を紹介する。

○電力自由化による市場の変化と現状



日本では2016年4月に電力小売が自由化され、消費者は電力会社を選ぶことができるようになった。現在、電気の時間帯別料金や各種セット割引など、自分のライフスタイルに合わせた料金メニューの会社に変えたり、再生エネルギー中心のエコな電気や地産地消になっている電気を選んだりと、さまざまな選択肢が生まれた。


電力小売の全面自由化を受け、発電事業者や小売事業者が電力取引を行う場として整備された市場が「JEPX」(日本卸電力取引所)だ。事業者がJEPXに登録すれば、電気の売買をすることが可能になる。電力自由化前は、火力や原子力による発電が中心であったが、稼働率低下による固定費回収が見込めない火力電源などの休廃止が進行。当該エリアでの供給力が低下してしまうケースがある一方で、比較的小規模な太陽光発電などの再生エネルギーによる発電設備が増えつつある。


JPEXは全国9エリアに分かれており、30分単位の電気を1商品として売買がなされている。ほかの参加者の入札動向が開示されないブラインドの状態かつ、入札者は入札した価格によらず、決定された約定価格で売買するシングルプライスのオークション方式がとられている。



市場は主に大きく2つあり、ひとつは翌日に調達・販売する電気を前日までに入札して約定させるスポット市場(一日前市場)。もう一つが、1時間前市場(当日市場)となっている。



1時間前市場では、実需給の直前まで活用が可能で、当日の発電不備や気温変化による発電・需要の調整の場として、最短1時間後、最長で30時間後に受け渡す電気を取引することができる。価格の特徴としては、価格変動が激しく、通常相場は7〜8円/kWh。一般的には、平日の昼や夏季、冬季の価格が高くなる傾向がある。



日本では現在、発電電力量の8割を旧一電(=旧一般電気事業者、大手電力会社の発電部門)が賄っており、自由化後に参入した新電力の大多数は電源を持っていない。小売業者は安定した電力供給のため供給力確保義務が課せられており、JEPXや事業者間の相対契約により電力を確保しなければならない。また、周波数の乱れを防ぐために、電力の供給量と消費量が同じ時に同じ量になっているという、同時同量になるようバランスも求められる。もし、供給力が需要を下回った場合は、インバランス料金が発生し、小売事業者はJEPXに対して約定価格よりも高いペナルティ料金が課せられてしまう。



ところが、JEPXに売りに出されている電力のほとんどは旧一電によるものとなっており、供給力が不足した場合に一部の事業者は供給確保義務を果たすための手段がないというケースも発生している。これは、多くの相対取引が小売−小売間であることも一因として考えられる。発電事業者からの供給条件に差別がないような状況を作ることが、競争環境を維持するためにも急務であるといえる。

○電力市場高騰のメカニズムとは?



JEPXが高騰する要因は、短期的要因と長期的要因とで分けられる。その中でさらに細分化された要因が考えられ、複合的に高騰が引き起こされたケースもある。


例としては、短期的要因として、電力が売り切れてしまい売り札が減少。2020年度の冬季はkWh(燃料)が不足したことが高騰発生の要因となった。この時、コロナ禍の影響で需要減少を見込んでいたが、気温が下がったことにより需要は増加。市場への電源拠出ができなくなり12月26日から売り札が激減した。また、多くのコマで売り切れが発生し、需要曲線が垂直になってしまうほど極端な状況に陥っていた。そのため、買い入札の価格が上昇したとみられる。限られた商品を奪い合う形となり、スパイラル的な高騰が発生したと考えられている。

2021年度の秋季はkW(発電機)もkWh(燃料)もあるのに供給力が十分に出てこなかったため、高騰の要因となってしまった。これはブロック入札が原因ではないかと調査されている。ブロック入札とは、複数のコマをまとめて入札する方式で、指定する時間を通して入札量全量が約定する、もしくは全量が約定しないのどちらかとなる。一部だけが約定することはない。そのため、未約定となる場合が発生したとみられる。



また、2020年度冬季、2021年度秋季ともに、買い札そのものが高くなってしまったという要因もある。



長期的要因としては、電源構成再編への動きや、脱炭素達成に向けた動きが高騰の要因となっている。



電源構成再編については、震災以降の原子力発電所の長期停止に加えて、カーボンニュートラル実現に向け、火力発電による供給が大幅に削減されていく見込みに。



脱炭素達成に向けた動きとしては、日本国内においては火力発電の燃料となるLNG(液化天然ガス)の取引が長期契約となっていることが一般的なため、スポット価格による影響は少ない見込みだ。だが、カーボンニュートラル実現に向け、需要は拡大していくとみられ、それが長期的には高騰の要因になりえる。



市場高騰に備え、新電力小売事業者による対策としては、まず相対契約や先物取引の活用が挙げられる。JEPXではなく、特定の調達先と一対一(相対)で独自条件による電気取引を行うことで、市場に依らない調達を図り、高騰に備えるというものだ。さらに、東京商品取引所(TOCOM)とEuropean Energy Exchange(EEX)といった2つの卸電力取引所の商品の前日スポット価格を参照した電力先物取引を行う市場を活用し、価格変動リスクをヘッジするため予め電力価格を固定して取引することも対策となる。



またキャンペーンなどを打ち、DR(デマンドレスポンス)を促すことも有効な対策となりえる。DRとは電力会社が実施している需要と供給の調整に、ユーザーが電気使用の使い方を工夫することで協力すること。JEPXが高騰する時間帯に、ユーザーの節電量に応じてインセンティブを発行するなどのキャンペーンを実施することで、DRが促進される。しかしながら、今冬に向けてこのような対策を現在検討中ではあるものの、2020年度の影響を受けて取引量は減少傾向にあり、対応に苦慮しているという事業者の声もあがっている。



2020年度冬季の異常事態を受けて、制度変更の動きもあった。資源エネルギー庁からも特例措置が複数回にわたり公表され、昨冬高騰時のインバランス支払いに猶予を持たせたり、2021年度のインバランスについては上限200円のキャップが設けられたりしている。



またkWhの不足を防止するため、12月1日よりkWhに限界がある燃料制約が発生した際には、先物・先渡市場・相対取引といった機会費用を考慮した入札が可能になった。入札価格を限界費用(原価)から販売価格(想定価格)とすることで、kWhの不足を防止できると考えられる。また、電気事業者である東北電力とJERAは限界費用の定義について定義替えを行ったことを公表した。LNGスポット価格を水準として、12月にはそれをベースとした電力価格が形成されていくとみられている。

○新電力によって今後のエネルギー課題解決へ



現状、電力市場をめぐる課題には、発販非分離、つまり電気を販売する旧一電と、電気を購入する旧一電を含む小売業者が分離されていないことによって、その他の小売業者が供給力を確保できない可能性があることが挙げられる。また、リアルタイムで追える情報が少ないために、事後的な検証しかできないというのが現状だ。さらに、限界費用の定義替えが進むと、ボラティリティの高いLNGスポットを電力の価格として参照することになり、需要家の電気代にも影響が出てくる可能性もある。



今後は、内外無差別など市場の在り方を中期的に検討する必要があり、JEPXでの情報開示も求められている。諸外国と同等水準まで情報開示することで市場の透明性を向上し、抑止力が働く市場へと変えていくべきだ。そして、供給力不足については、エネルギーを国産化していくことが重要。燃料を輸入に頼ってしまう発電方法ではなく、国産にできる再エネを安定的に導入する技術を市場として受け入れる土壌の形成が求められる。



電力自由化をはじめとする電力システム改革は、電力の安定供給を確保し、電気料金を最大限抑制することが大きな目的だ。そして需要家の電力選択ニーズに多様な選択肢で応え、さまざまな参入や活用によりイノベーションを起こすことが必要だろう。新電力はこの改革に大きな貢献を果たしてきた。既存の大きなアセットを持たず、しがらみの少ない新電力が、今後もサービスを多様化させ、自由化をよりよいものに目指していくことが、今後のエネルギーへの課題を解決していくことにつながるはずだ。(宮崎新之)
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