フェルスタッペンが再び「F1界のルール」を破ってペナルティ。なぜ同じ過ちを繰り返すのか

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2021年12月07日 17:11  webスポルティーバ

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 天国から地獄とは、まさにこのことか。

 マックス・フェルスタッペンとレッドブル・ホンダは、初開催のジェッダ・コーニッシュ・サーキット(第21戦サウジアラビアGP)で圧倒的な速さを見せ、予選でポールポジション獲得は間違いないという情勢だった。




 ルイス・ハミルトンが自己ベストを0.5秒も刻んでトップに立ったのを見てから入っていったQ3最後のアタックで、フェルスタッペンは狭いコース幅を目一杯に使い、ステアリングとスロットル操作でアグレッシブにマシンの向きを変える鬼気迫る走りを見せた。セクター1、セクター2と驚異的な最速タイムを刻み、ハミルトンを0.25秒上回って残すは最終コーナーひとつのみ。

 と、そこで左フロントがロックアップし、それでも外へと逃げていこうとするマシンを強引にねじ曲げスロットルを踏み込んでいく......そして、コンクリートウォールにヒットしてしまった。

 残りをコンサバティブに走れば確実に手にできたはずのポールポジションを失い、さらにはギアボックス交換のリスクにさえ直面することとなった(結局は交換せず事なきを得たが)。

「僕としてはそれまでと同じポイントでブレーキングをしたつもりだったんだけど、少しロックアップしてしまった。なんとかターンしようとしたけど、出口のウォールにヒットしてしまった。予選でマシンはとてもよかったし、すべてがうまくいっていただけに、すごくガッカリしているよ。ただ、3位という結果はガッカリだけど、クルマが速いということは証明できたので、明日のレースでどこまでやれるかだね」

 3番グリッドから臨んだ決勝は、純粋なペースで予選どおりに速ければ勝機があった。スタートはうまくいかなかったが、10周目のセーフティカー導入時にメルセデスAMG勢の逆を行ってピットインせず首位に浮上し、赤旗中断でそのポジションを維持したままタイヤ交換を許されるという幸運に恵まれた。

 あとはそのままポジションを維持できれば......と思われた。だが、スタートでまたしても出遅れ、強引にターン1に飛び込んだ結果ターン2を曲がりきれずにカット。ハミルトンを押し出すようなかたちでコースに戻ることになった。

【フェルスタッペンに「戦略的に譲れ」の指示】

 後方の多重クラッシュで再び赤旗が提示され、その間にハミルトンにポジションを譲り返しての再スタート。ここでもフェルスタッペンは強引にインに飛び込んで前に出て、首位に躍り出た。

 しかし、純粋なペースではハミルトンのほうが速く、1秒差でプレッシャーをかけ続けてくる。スタートの蹴り出しを優先してミディアムタイヤを履いたことが、周回が進むにつれて重荷になってくる。

 37周目のターン1で、ハミルトンがDRS(※)を使ってアウトから前に出る。だが、フェルスタッペンは異様なレイトブレーキングで挙動を乱しながらインに飛び込び、ハミルトンを道連れにしながらランオフエリアへと飛び出していく。

※DRS=Drag Reduction Systemの略。追い抜きをしやすくなるドラッグ削減システム/ダウンフォース抑制システム。

 レースコントロールからは、ポジションを戻すか、さもなくばスチュワードに審議対象とすべく伝達するという通常どおりの連絡が来たため、チームはフェルスタッペンにポジションを譲るよう指示。ただし「戦略的に譲れ」という指示だった。

 最終コーナーの入り口には、メインストレートでDRSを使うための検知ポイントがある。一度はポジションを譲っても、ここでハミルトンの1秒以内にいればメインストレートでDRSを使って抜き返すことができるという「戦略」だ。

 フェルスタッペンはじわりとスロットルを戻して270km/hまで速度を落とすが、それがわかっているからこそ、ハミルトンもターン27の手前では抜かない。ここで先行させてもらっても次のDRSで抜かれるなら、実質的に譲られていないのと同じことになるからだ。

 ハミルトンはフェルスタッペンの背後についたが、抜かない。焦れたフェルスタッペンは、レーシングライン上でブレーキングをして8速から3速まで急減速。これに驚いたハミルトンは咄嗟に左へとステアリングを切って激しい追突は回避したものの、フロントウイング翼端板を壊してしまった。

【問題視されたフェルスタッペンの振る舞い】

 一般の市販車でフルブレーキングをしても減速Gは1Gなのに対し、この時のフェルスタッペンの減速は2.4Gだった。どれだけの急減速であったかがわかる。

 フェルスタッペンは「譲るべく減速したのに、ハミルトンが抜いていかなかったのは理解できない」と訴えた。だが、戦略的に抜かせようとする自由もあれば、戦略的に抜かない自由もあるのだから、ハミルトンが抜いていなかったのは当然だ。問題はそこではなく、レーシングライン上で、本来ブレーキングをするはずのない150メートル手前で急減速をしてしまったことだ。

 これに対して、スチュワードはレース後に双方の言い分を聞いたうえでデータや映像を精査し、フェルスタッペンに事故責任の大部分があるとして10秒加算ペナルティを科した。問題は譲る意思の有無や妥当性ではなく、単純に危険なブレーキングをしたということだ。

 フェルスタッペンはここからターン2のカットに対して5秒加算ペナルティを科されるであろうことを前提に、ハミルトンを5秒以上引き離して勝とうと試みる。しかし、それがわかっているハミルトンも必死に食らいついていき、手負いのマシンにもかかわらずフェルスタッペンを上回るペースで周回を重ね、42周目には再び背後へ。

 引き離すことをあきらめたフェルスタッペンは、ターン25〜26で一瞬だけハミルトンを先行させて再びターン27でインに飛び込んで抜くという「アリバイ作り」を試みた。しかし、スチュワードはこれをポジションの譲り返しとは認めず、5秒加算ペナルティが科されてしまった。

 結局、VSC(バーチャルセーフティカー)走行が長かったにもかかわらずフェルスタッペンのリアタイヤはタレてしまい、43周目にはハミルトンがインに飛び込んでパス。その後は7秒引き離されて、2位確保の走りをするしかなかった。

 結果論とすれば、ミディアムタイヤを選んだことで負けた。予選では速さがあったが、決勝ではメルセデスAMGに敵わなかった。

 だが、それ以上に問題視されたのは、フェルスタッペンの振る舞いだった。

【レッドブルのホーナー代表も擁護】

「あのターン1で彼が仕掛けてきて、ちょっとブラジルのときのような感じだったけど、当然僕はレイトブーキングで対抗して、あるタイミングで少しだけ前に出たと思う。そして挙動を乱してワイドになった。でも、彼もコーナーを曲がり切れていなかったし、2台ともコーナー(のエイペックス)を通過していなかったはずだ。だから、あのアクションに対してペナルティが出るのはフェアじゃないと思う。ブラジルでは問題なかったのに、今回は急にペナルティが出されたんだ」(フェルスタッペン)

 2台ともに止まりきれなかったのではなく、フェルスタッペンの無謀な飛び込みを避けたから、ハミルトンはランオフエリアに出ただけだ。コーナーへ同時に飛び込んでバトルをする場合、お互いに1台分のスペースを残すことは、今のF1では全ドライバーが共有し従っている「ルール」だ。フェルスタッペンはそれに反したからペナルティが出された。

 これは2戦前のインテルラゴス(第19戦サンパウロGP)で物議を醸しただけでなく、今シーズンすでに何度もフェルスタッペンが見せてきた強引なドライビングだ。

 ハミルトンが引いて当たらなかったから審議対象となってこなかったが、モンツァ(第14戦イタリアGP)ではペナルティが科されている。

 問題は、フェルスタッペン自身のみならず、チーム全体がそれを是としてしまっていることだ。レッドブルのクリスチャン・ホーナー代表はレース後にこう語っている。

「2台のマシンがコースオフした時、片方のドライバーだけがその責を負うべきだと思うか? ルイスも(43周目の)ターン27でマックスを同じように押し出した。ターン1でも一度やっていたと思う。カートから様々なカテゴリーを経験してきたドライバーたちなら、あれはハードレーシングだとわかっているはずだ。

 彼らはキャリアを通してあのようにレースをしてきている。彼らふたりはそういうギリギリのマージンで限界ギリギリまでプッシュし合っているんだ。もしワイドに走らせたくないのなら、そこにグラベルトラップでも敷けばいい」




【天国から地獄へ】

 しかし、これは現在のF1のスチュワード裁定基準からはズレている。どんなバトルを理想とするかは各自の勝手だが、今のF1は今のルールで行なわれている。それをフェルスタッペンのみならずチーム全体が理解していないのだから、同じような場面に直面するたびに同じようなドライビングを繰り返し、同じように相手を危険に晒して、同じようにペナルティを科されることになる。

 負けたレースに向き合い、何が敗因であったのか理解し、自分たちに足りない部分を成長させていかなければ、また同じミスは起きる。天国から地獄へ......それは誰かに突き落とされたわけではなく、自らが気づかないうちに踏み外した道だ。

 泣いても笑っても、2021年シーズンはあと1戦しかない。ここで相手よりも前でフィニッシュした者がチャンピオンになる。マシンパッケージはほぼ同等で、いかにセットアップで性能をフルに引き出せるかどうかが勝負をわける。

 その最終決戦で地獄へと落ちることがないよう、フェルスタッペンとレッドブル・ホンダにはF1の王者にふさわしいレースをしてもらいたい。

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