『かげきしょうじょ!!』沢田千夏と千秋は共依存からどう抜け出した? 異なる個性が花開くまで

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2021年12月08日 10:01  リアルサウンド

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『かげきしょうじょ!!(10)』と『かげきしょうじょ!!(11)』

※本稿は漫画『かげきしょうじょ!!』、アニメ『かげきしょうじょ!!』のストーリーに触れております。未読・未視聴の方はお気をつけください。


 白泉社の「メロディ」で連載中の斉木久美子『かげきしょうじょ!!』は、女性のみで構成される紅華歌劇団の音楽学校を舞台にした物語だ。100期生として入学した7名の少女を中心に、未来のスターを目指してひたむきに奮闘する青春の日々を描く。


 長身でスター性を秘めた渡辺さらさや、元国民的人気アイドルという経歴をもつ奈良田愛らが揃う100期生の中には、同じ顔をした少女が二人いる。沢田千夏と沢田千秋――という名前からも明らかなように、二人は双子なのだった。テレビアニメでは姉の千夏を松田利冴、妹の千秋を松田颯水と、双子の声優が演じたことも話題を呼んだ。今回はそんな沢田姉妹を取り上げて見ていきたい。


関連:沢田姉妹の葛藤が描かれた『かげきしょうじょ!!(3)』表紙


■衝突を通じた共依存脱出


 物語の序盤では沢田姉妹の存在感はやや薄く、登場する場面でもセット扱いだった。ストレートのロングヘアが千夏で、髪を結んでハーフツインテールにしているのが千秋。髪型以外はそっくりに見える双子だが、小さなエピソードを通じて、それぞれの性格の違いが描写されている。


 たとえば、授業の中で「ロミオとジュリエット」を演じる場面。千夏はじゃんけんに勝ち、好きな役を選べる立場になった。にもかかわらず、千夏は元国民的人気アイドル・奈良田愛に気後れをしてしまい、本当にやりたいジュリエットではなく乳母役を選んでしまう。だが別グループにいる千秋は、ためらいなくジュリエット役に名乗りを上げていた。


 大事な場面で一歩引いてしまう性格の千夏。彼女はかつて、千秋のために紅華への入学を辞退した過去をもつ。


 千夏と千秋の仲良し姉妹は、紅華歌劇団好きの母のもと、幼い頃から歌劇に親しんで育った。やがて二人は紅華を目指し、一緒に入学することを誓い合う。だが最初の受験では、姉の千夏だけが合格通知を受け取った。


 不合格になった千秋は泣き崩れ、部屋に閉じこもり続けた。「どうして千夏だけが受かるの? 双子なのに何が違うの?」と泣く千秋を見て、千夏は「頑張って二人一緒に入学しよう」と、自らのチャンスを手放して再度受験し直す。そして翌年、二人は見事に合格し、姉妹揃って100期生として音楽学校に入学したのであった。


 入学後も寮では同室で、お互い何を考えているのか、言わなくても分かり合えている。そんな仲良し姉妹の生まれて初めてのケンカ、衝突を通じた共依存脱出が、コミックス3巻の沢田姉妹編で描かれた。テレビアニメでは、第9幕「ふたりのジュリエット」として放映されたエピソードである。


 100期生たちは、10年に一度開催される紅華大運動会の準備のため、専科(歌劇団に所属する芸に長けたベテランたちを指す)と一緒に準備を進めていた。専科に所属する野原ミレイは、かつて『ロミオとジュリエット』でジュリエットを演じた、沢田姉妹憧れの娘役である。稽古の最中、千秋はミレイと話す機会に恵まれ、彼女のジュリエットが大好きだったと打ち明けた。 


 その姿を見た千夏の胸に、小さな嫉妬心が芽生える。その後、双子だと知らないミレイは、千秋と間違えて千夏に用事を頼もうとした。だが負の感情が生まれていた千夏は、自分は千秋ではないと言えずに彼女を無視してしまい、この態度がトラブルを引き起こすのだった。


■『かげきしょうじょ!!』の魅力


 『かげきしょうじょ!!』の魅力のひとつは、丁寧な心情描写を通じたキャラクターの掘り下げにある。沢田姉妹編では、野原ミレイをきっかけに、千夏の中に負の感情があぶり出されていった。双子で何でも一緒だと思われていても、いつも微妙に自分が損をしているような気がする。これまで胸の中に封じ込められていた千夏の思いが爆発し、一方の千秋は「家出」と称して、さらさの部屋に押しかけた。


 ケンカは他の100期生を巻き込んだ騒動へと広がっていくが、二人が和解するきっかけとなったのも、やはり双子の存在だった。沢田姉妹の紅華体験の原点にあるのは、とあるレビューで観た、舞台をキュートに彩る双子のうさぎ。舞台の主役ではないが、踊りがうまくてかわいい双子のうさぎは、千夏と千秋にとって今も変わらぬ憧れの役なのだった。


 入学の顛末で千秋は姉に対して罪悪感を抱き続け、翌年の合格発表では自分の番号よりも先に千夏を確認していた。千夏も自分の中の嫉妬心を受け止め、ミレイに謝罪する。


 嫉妬という辛い経験を乗り越えた沢田姉妹は、すべてが同じではいられないことを、二人の道が思ったよりも早く分かれてしまったことを自覚した。それでも双子という絆は揺らがず、いつかきっとまた道は交差するだろう。アニメ第9幕のエンディングに流れた「薔薇と私」は、沢田姉妹のデュエットバージョン。美しいハーモニーで歌われる双子の葛藤が印象的だった。


 以後、物語では千夏と千秋の異なる個性が花開いていく。なかでも授業の実技として演じた「オルフェウスとエウリュディケ」をめぐるエピソードでは、千夏が奈良田愛と、千秋が渡辺さらさとコンビを組み、それぞれのアプローチで役作りをしていくのが興味深い。


 千秋とさらさは、千秋の性格そのままの「我儘バンビーナ」なエウリュディケと、その全てを受け止める包容力をもつスパダリオルフェウスという演技プランを立てていた。だがいざ始まるとさらさの暴走スイッチが入り、演技は残念な結果に終わってしまう。千秋は怒るが、それでもさらさとのコンビを解消せず、再度の挑戦を誓うのだった。


 そして奈良田愛は、この演目では男役のオルフェウスに挑む。エウリュディケを演じる千夏とともに、異彩を放つ演技プランや、巧みなフォーメーションを見せつけた。


 コミックスの10巻の表紙はさらさ&千秋、11巻は愛&千夏が描かれている。同じ「オルフェウスとエウリュディケ」なのに、どこまでも陽気な千秋たちと、陰りを帯びたシリアス調の千夏コンビの姿は対照的だ。


 最近の千秋は妹気質が全開だが、そんな彼女がさらさと衝突しながらも演技と向き合っている姿は微笑ましい。キュートな沢田姉妹には、成長をみせながら、これからも物語をかき回してほしいものである。


このニュースに関するつぶやき

  • アニメしか観ていないけど、原作の漫画も10巻を超えると様々なキャラクターの成長が見えるんだな。
    • イイネ!1
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