なぜ女性を狙ったの? 公認会計士の男23歳の傷害事件を見過ごしてはいけない理由

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2021年12月08日 16:00  AERA dot.

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 作家・北原みのりさんの連載「おんなの話はありがたい」。今回は、女性を狙った事件とその動機について。


【現場】「幸せな女性みると殺したい」小田急線で包丁振り回し10人を刺した事件の駅の様子
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 先日、公認会計士の23歳の男性が、通りすがりの女性を殴り、逮捕された。女性は2週間のけがを負ったという。たとえけがを負わなかったとしても、いきなり通りすがりの男から殴られた恐怖はどれほどのものだったろう。この男は、違う日にも見ず知らずの女性に膝蹴りをして逮捕され、なぜかすぐに釈放されている。これまでも女性にわざとぶつかることなどを繰り返していた疑いもあるという。


「酒に酔っていたのでわからない」と男は警察でそう話したという。見ず知らずの女性に暴力を振るった動機が語られることは期待できないだろう。というより彼自身にすら、動機が何だったかなど、わかっていないかもしれない。


 統計が取られているわけではないのでわからないが、女性としてこの国を生きている実感からすれば、痴漢にあうのと同じくらい「わざとぶつかられた」女性は多いのではないか。痴漢にあったことがない、という女性に私は会ったことがないと断言できるし(「満員電車に乗ったことがないので痴漢にあったことはありません」という人はいるが、よくよく聞いていると、道ばたで性器を見せられたり、通りすがりに性的な言葉を吐かれたり、お尻を触られたりなどの経験はほぼ全員している)、ここ数年は「ぶつかられた」という声を本当に多く聞いてきた。


 私自身、通りすがりにいきなり男に頭をはたかれたのが1回、突き飛ばされたことが1回ある。多いのか、少ないのか、平均なのかはわからない。突き飛ばされたのは3年前。前から歩いてきた50代くらいの男性に肩を思い切りぶつけられ転んだ。怖かったが、「わざとぶつかる人がいる」という声がSNSですこしずつ認知されていたこともあり、すぐに男を追いかけて背後から声をかけた。「ちょっと! 今、わざとですよね?」(←抗議する時にも丁寧語で話してしまうという種類の悔しさもある)、すると驚いたことに男はゆっくりと振り返り、「邪魔なんだよ!」と私の目を見て堂々と吐き捨てるように言ったのだった。





 肩がずきずきと痛み、悔しさに頭が真っ白になった。「そうされてもいい人」と、他人に扱われたことの屈辱と、暴力を振るった側が、まるでこちらに非があるかのように行為を正当化する二重の暴力に衝撃を受けた。そしてこの原稿を書いていて一抹の不安を感じるのは、「北原が道の真ん中を歩いていたんじゃないのか?」「携帯見ながら歩いていて邪魔だったんじゃないのか?」と、暴力を正当化する声が聞こえてきそうなことだ。実際、このような被害をSNSで公開した女性たちがたたかれるようなケースをいくつも見てきた。被害を被害と言う口を塞ぐ二次加害である。


 たとえ百歩譲って私が邪魔だったとしても、女性を狙う男は、スーツを着ている男性や、見るからにキレそうな男性にはしない。選んでいる。そしてたとえ私がどんな歩き方をしていたとしても、見知らぬ人から暴行を受けていいはずがない。女として生きているということは、他人にカラダを触られたり、性的なからかいを受けたり、突然殴られたり……安全ではない社会を生きているということなのか? ミソジニーが相当深まってしまっている、残念ながら。


 とはいえ、「それは偶然。彼の機嫌が悪い時に通りかかった人が、たまたま女だった」とか、「それは偶然。その日、事件沙汰になった加害者がたまたま男の人だったというだけ。女の人に暴力を振るわれる男性もいます」という、“偶然”とか“たまたま”を主張したがり、被害の背景にある女性嫌悪を否定する傾向は、なくなりつつある。「幸せそうな女性を殺したかった」と警察で供述した事件の容疑者の言葉が報道されるなど、女性が女性ゆえに狙われる事件が可視化されてきている。「そういう事件があるのだ」という、怖い事実ではあるけれど、見過ごしてはいけない現実だということが見えてきた。


 女性や子供=父・男に守られるべきもの、という「建前」によって、家父長制は支えられてきた。暴力は見えないものにされ、たとえ暴力を振るわれたとしても「あなたにも原因がある」と加害者と被害者を対等に語ることに、私たちは慣れてきた。そういう社会で、暴力を振るう側の動機は消され、常に被害者の女性側が「問題」を引き起こすとされがちだ。


 見ず知らずの女性が狙われる暴力は、たとえ事件化されていなくても日常的に起きている。その後に彼らの動機が語られることはほとんどない。なぜ、あなたは女性を狙わずにはいられないのか。たまたま、というにはあまりに多いこの手の事件の動機を、男性たちが語ることによってしか、この社会はこの暴力をなくせないのではないだろうか。


北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。女性のためのセクシュアルグッズショップ「ラブピースクラブ」、シスターフッド出版社「アジュマブックス」の代表


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  • ん?歩きスマホなどふざけた歩き方してたらわざとぶつかって「ちゃんと前見て歩けやバカ」と言う事のしている。
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  • 別に女性に限った話しでもなんでも無くさ、自分が不幸だろうとイライラしてようと、他人様に迷惑かけて良いなんて道理は無い。たったそれだけの事が我慢出来ない人がいる。
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