1500万円、3700万円、1億5000万円……。これらは最近高騰しているという首都圏のマンションの値段ではない。ある“飲み物”の値段だ。
いま、ウイスキーの“価値”が跳ね上がっているのだ。
1本のウイスキーが数千万円に
昨年の6月30日、100本限定でリリースされた『山崎55年』というウイスキーがある。量は700ミリリットル。55年という長期熟成で、販売するサントリーの商品では、これまでで最高熟成年数となるウイスキーだ。希望小売価格は300万円。
「発売からまだ間もない昨年8月に香港のオークションで、日本円にして約6830万円で落札されました。手数料も含めると総支払い額は日本円で約8190万円です」(ウイスキー愛好家)
300万円で買ったものがほんのひと月で7000万円近くに……。
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「日本のウイスキーは今、国内だけでなく海外でもファンが多く、特に高騰している『山崎』は、日本のショップでも熟成年数によって1500万円や3700万円という値付けがされ、そしてそれが売れています。中には1億5000万円などというものも……。
非現実的な値付けにも思えますが、海外では1億円以上で落札されたものもあり、埼玉県秩父市で作られている『イチローズモルト』というウイスキーでも1億円近い値段で落札されています。こちらは54本セットではありますが。
このところの高騰を見ていると1億円超えの値付けは、非現実的とも言いがたいのです」(同・ウイスキー愛好家)
このような高騰ぶりから、今ウイスキーは“飲んで楽しむ”だけでなく、“投資”の対象にもなっているのだ。
ウイスキー高騰の理由
『ウイスキーの教科書』『ウイスキーの愉しみ方』などの著書がある橋口孝司さん(ホスピタリティバンク代表取締役)にその理由について話を聞いた。
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「大きく3つの理由があると考えています。1つ目は、ICT(情報通信技術)の発達・進化により、世界中の情報がすぐ手に入るようになった。いつでも、どこからでも希少なウイスキーについての情報も手に入れられるので、お金を持っている人が投資対象として購入できる機会が増えたんです。
2つ目は、需要と供給のバランス。希少なウイスキーに対する需要が主に中国などで増え、供給が足りていない状況です。特に日本の長期熟成ウイスキーについては、'08年以前は生産量が非常に少ないため商品化が難しいのです。
3つ目は、中国マネーの増大です。以前はウイスキーのオークションの中心はイギリスやアメリカでしたが、現在では香港オークションでの取引が増えています」(橋口さん、以下同)
このような高騰は、年代物の山崎を筆頭に国産ウイスキーでよく聞く。高騰は「日本産」で起こっていることなのか。
「日本産だけではなく、(スコットランドの)スコッチウイスキーでも起きています。日本産に注目が集まっている理由としては、現在のブームは中国マネーが中心となっているため、日本が好きな中国人が多いことや、日本ウイスキーの供給量が少ないという需給バランスに起因していると考えています。
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『山崎』については日本ウイスキーの中でNo.1と捉えられていることや、メーカーであるサントリーも50年や55年といった長期熟成の希少な原酒を使った商品を新たに発売したことも話題となって、注目・人気ともに高まっていると思います。
ただし、『山崎』だからすべて高騰しているわけではありません」
確かに同じ『山崎』でも10年や12年は、1万円台や2万円台などの比較的安価で購入することができる。
「限定ボトルでも、値段が上がるものもあれば上がらないものもあります。株式市場と同じように考えるとわかりやすいでしょう。すべてが高い価格で売れているわけではありませんし、今後はどうなるかわかりません。ピーク時よりも価格が下がってきているウイスキーも出てきています」
投資対象としての“ウイスキー”
海外も含めたウイスキー事情について株式会社クレア・ライフ・パートナーズにも話を聞いた。同社は、スコッチウイスキーを個人やバーなどに販売し、オリジナルボトルの制作サポート事業や資産の一部として活用する事業『ウイスキー・カスク・インベストメント』などを行う。
「海外では、ミレニアム世代と言われる'81年以降に生まれた人たちを含めた若い世代、今の経済を作っている方たちのなかで、ウイスキーを投資の選択肢に入れたいという人が増えているようです。
ウイスキーの本場であるスコットランドでは、一度閉鎖した蒸留所の再稼働が増えています」(ウイスキー・カスク・インベストメント担当者)
イギリスを本拠地とする『ナイトフランク社』によるレポートがある。それはレア物のウイスキーを含めた“高級品(宝石や時計、美術品など)”の、過去10年間の価値の変化をまとめたもの。
レポートによれば、投資対象となる希少なウイスキーの過去10年のリターン率(収益)の平均は540%。他の商品とは比較にならないほどの高リターンと発表されている。
ここまではすべて“ボトル”のウイスキーで起こった話。ウイスキー投資では、新たな形も生まれている。ウイスキーは基本的に“熟成”がなされる。それは木製の“樽”に入れることで行われる。ウイスキーの世界では、その熟成をするための樽を“カスク”と呼ぶ。
意外とお得? “樽”への投資
近年のボトルのウイスキーの高騰もあり、このカスクへの投資もはじまっているという。前出の『ウイスキー・カスク・インベストメント』はこちらの投資となる。
「ウイスキーの“カスク投資”とは、ウイスキーの樽つまりカスクを購入し、熟成によって価値が高まることで売却益を得る投資となります」(前出・ウイスキー・カスク・インベストメント担当者、以下同)
ウイスキーの樽は、その多くはウイスキーが詰められる前にバーボンやラム酒、ワイン、シェリー酒で使われた樽などが使用される。これらの樽を使ったウイスキーは、樽に前の酒の風味が残っているため、新樽を使ったものと比べ味や香りが大きく変わる。
そして当然樽に入れられた年月によっても変わってくる。つまり樽に入れたまま保管することによって、“より熟成されたウイスキー”となり、そこに“価値”が生まれる。
このようなウイスキーカスク(ウイスキーを詰めた樽)は投資商品として成長率が高く、また仮想通貨等のように乱高下することはなく安定して上昇しているという。
「投資としてのウイスキーカスクの成長率は、今だけ今年だけというものではなく、ここ数年安定して高いところも魅力の1つでしょう。メリットは保管のしやすさもあります。
カスクは英国歳入関税庁により認められた保税倉庫でカスク1つ1つ番号が割り当てられ、厳重に保管されます。カスク投資は保有期間が長くなるケースが多いですが、管理コストは非常に安い。
受け持つ管理会社によって多少の差はありますが、平均で年間45ポンドから60ポンド程度。日本円で1万円しないくらいです。そのため長期保有がしやすい。例えば不動産であれば、固定資産税や管理費などがかかってきますが、それらに比べて保有にコストがかかりません。
また、スコッチウイスキーの場合は、カスクには個別に登録者番号のようなものが振られます。その登録者番号を日本でいうところの国税庁のような機関である英国歳入関税庁が番号を管理します。それによって資産としてきちんと認められたものになります。
名義変更なども可能で、子どものために購入し、数十年後に名義変更して、子どもに贈与、相続させるという使い方もできます」
例を出すと、『マッカラン』の1988年物のカスクは2016年から2020年の4年間保有で、年平均59.6%の上昇。利益率は238.4%となった。
樽となると、当然その“量”は多くなる。つまり買うにしてもボトルにすれば安いようなウイスキーでも値段が高くなるが……。
「30万〜40万円のカスクもあります。もちろんそういったものは樽に詰めたてのものになります。投資商品としては価格が安いので買いやすく、今後どんどん人気が出てくるのではないかと思います。
さらには、ご購入されたカスクをボトリングすることもできるので、オリジナルウイスキーのボトルの製作や、Barやレストランなどで販売したい、というお客様も多くいらっしゃいます」
世界で高騰を続けるウイスキー。あなたも夢を買ってみますか?