『作りたい女と食べたい女』の連載を追うべき理由 今この時だから描ける表現とは?

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2022年01月20日 10:01  リアルサウンド

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写真『作りたい女と食べたい女(2)』
『作りたい女と食べたい女(2)』

 昨年12月には「このマンガがすごい! 2022」〈オンナ編〉第2位に選出され、単行本最新刊2巻の発売前重版が決定。発行部数は累計20万部に到達したという『作りたい女と食べたい女』(ゆざきさかおみ/KADOKAWA)。タイトルの通り、「食」を鍵に働く単身女性ふたりが少しずつ距離を縮めていく「シスターフッド×ご飯×GL」(作品キャッチコピー)である。


 「Comic Walker」での連載はこの1月で1周年を迎えた。もともと作者が2020年3月にTwitterやpixivの個人アカウントで発表しはじめて大きな注目を集め(「いいね」30万以上)、改めて商業作品としてスタートしたという経緯がある。「ネットの話題作」が大きなステージでより幅広い層の読者に届き、ぐんぐん成長中なのだ。


参考:『作りたい女と食べたい女(1)』表紙画像


■日常のひとときがいっそう輝いて見える


 料理をするのが好きで、SNSの趣味アカウントに完成写真をアップするのも楽しんでいるけれど、ひとり暮らしで少食ということもあり、作ってみたい料理が作れないことが悩みの野本さん。そんな彼女のアパートの隣の隣の部屋には、大量のご飯を軽々とたいらげるガタイのいい女性・春日さんが住んでいた。ひょんなことから春日さんの豪快な食べっぷりを知った野本さんが、ある日、思い切って夕ご飯のおすそ分けを申し出たことから、ふたりは折々に食事を共にし、お互いを知っていくことになる。


 義務として「作らなければいけない」食事の準備は時に苦痛だが、気持ちに余裕があって料理が好きな場合、それはちょっとした達成感や喜びが得られる楽しい営みだ。そして、食べたくても自分ひとり分だけ作るのはなにかと面倒な、大量に作った方がおいしい料理というものは、確かにある。


 なので、野本さんが春日さんと出会ってお近づきになりたいと願うのはよくわかるし、物語の出発点として目のつけどころが鋭い。さらに、現在もなおCOVID-19の感染流行が収まることなく、誰かといっしょに食卓を囲むことが、生活を共にする相手や特別に親密な相手がいる人(そのうえ良い関係を保てている人)に限られた特権的な体験となってしまっている状況も、結果的にこの作品に描かれたふたりの時間の尊さを際立たせている。いっしょに食べる喜びを発見し、噛み締め、新しい自分を知る。そんな日常のひとときがいっそう輝いて見えるのだ。


■読むならば今、連載を追うべき


 たとえば皮から作る餃子パーティ。大きな鍋で煮るおでん。思いつきでコンビニで材料を調達してフルーツサンドを作るのも楽しそうだ。野本さんが生理痛で動けない時に春日さんが味噌焼きおにぎりを作りに来てくれたり、なかなか予定が合わない時に野本さんが煮卵(味玉)のおすそ分けをしたりの助け合いも素直にうらやましい。春日さんはその煮卵をまずはインスタントラーメンに入れ、翌朝にはソーセージと丼にする。コレステロール値を気にする小柄な中年である自分には許されない食べっぷりがまぶしい。


 お隣のお隣に素敵な人が! というのはいかにも漫画的な夢なのだが、その一方で現実的なお金の問題も正面から描写されていることが、登場人物たちと読者との距離をぐっと縮める。春日さんは第3話にしてはやくもごちそうになった分の食費の支払いを申し出、野本さんは一度は断りながらも受け取るのだ。


 そもそも野本さんは、第1話で毎日お弁当を作っていることを職場で同僚の男性に褒められ、心で「毎日社食食べられる給料じゃないし…」と、ため息をついている(彼女は契約社員であり、彼はおそらく正社員なのだ)。さらに「女は家事をして男と子供に尽くすもの」という固定観念に基づく無理解な言葉を浴びせられ、ひとりやさぐれてしまう。とりあえずその場は受け流しながら、「自分のために好きでやってるもんを 「全部男のため」に回収されるの つれ〜な〜〜…」と胸を痛める彼女。それが「沈んだ気分を上げるために」大量のご飯を作り、思い切って春日さんに声をかけるという行動に結びついたのである。


 このように、『作りたい女と食べたい女』は、現実社会に根強く残っている性差別や経済的な制限の問題を強く意識しつつ、女性と女性のロマンスをエンターテインメントとして語ろうとしているマンガなのだ。野本さんが自らの性的指向と春日さんへの恋愛感情を自覚するのは2巻の終わり。これまであまり描かれてこなかった領域にも斬り込み、フェアな恋愛関係の可能性を探ろうという意欲が静かな熱を放っている。「今の世の中」を睨みつつ難しい舵取りに挑戦している作品だから、読むならば今、連載を追うべきだろう。


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