東大医学生で三段跳の大学日本一。内山咲良は競技と学業の両立の悩みに「ものすごくいい解決策はない」

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2022年01月20日 18:31  webスポルティーバ

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文武両道の裏側 第6回
内山咲良(東京大学) 後編
(中学・高校時代を語った前編から読む>>)




「誰もやったことがないことをしてみせたい」。競技も勉強も両方やりきるーー。高校3年の時、そう心に決めた内山咲良はみごと全国高校総体(インターハイ)に出場し、最難関の東京大理科三類に現役合格を果たした。しかしインターハイでは、全国の強豪を相手に戦えなかった。インターハイでの苦い思い出が、「大学ではインカレ(日本学生対校選手権)で戦いたい」との気持ちにつながったという。

「東大生として戦うのではなく、ひとりのジャンパーとしてインカレで強い選手と伍(ご)していきたい」

 大学では、陸上を生活の中心にすえた。重なるケガにさいなまれながらも自らのトレーニング方法を見直し、大学生活の6年間をかけてインカレ女子三段跳で優勝。陸上でも学生の頂点に立った。東大女子選手として初のインカレ制覇という、前人未到の戦績を収めた内山の持つ強さはどこにあるのか。いかなる手法で、文武両道の前に立ちはだかる壁を乗り越えてきたのか。前編に引き続き、後編でも彼女の勉学やスポーツとの向き合い方を聞いた。

* * *

【頭が真っ白になるくらい頑張る】

ーー2月の医師国家試験を控えた今も陸上に真剣に向き合い続けていますが、ここまで駆り立てる陸上の魅力とはなんですか?

内山咲良(以下、内山)
 陸上は評価がはっきりしているところが、私にとってはとても魅力です。距離がすべてなので、跳んでいる姿が無様でもいいんですよ。自分の能力に足りないものは何だろうって考えて、これだと思ったら、方向を決めてがむしゃらに進んでいく。見直して、また方向を決めていく。その過程が私にとってはすごくおもしろいです。

 方向を決めて計画を立てるのは、本当に頭を使うところだと思っています。ひとりで抱え込んでしまうと本当によくないので、いろんな人に相談をするようにしています。相談をしつつ、自分を振り返りつつ、さまざまな可能性を掘り下げるフェーズはすごく緊張感がありますね。そこで間違えたら、取り組んだ2カ月とかが、反故になってしまう可能性がある。でもだからこそスリリングでおもしろい。そのフェーズでしっかり考えれば結果につながる可能性が高いです。

ーー計画を立てたあと、がむしゃらに頑張るところにも魅力がありますか?

内山
 普通に生きていたら、スクワットで死にそうになったりはしない。そういう身体的な体験はほとんどないと思うんですけど、頭が真っ白になるくらいまで頑張るというか、何も考えずにそれだけを頑張っていればいいっていう。他に何も考えないで、ただそこに集中するという時間は、私にとってすごく大事かなと思っています。ある意味ではストレス発散にもなっているのかもしれないです。

ーー勉強をしていても、頭が真っ白になるような感覚には出会えない、と。

内山
 少なくとも勉強しながら死にそうになったことはないと思います。ただ、すごく集中していて、何かひとつ乗りきったなっていう時には勉強でも疲れはしますが、やっぱり頭で考えていることはいっぱいあるような気がします。反射レベルというか、もう考えられないんだけど体が反応しているというトレーニングでの体験は勉強をしていても起きないんですよ。その感覚はすごい快感ではあります。

ーー自身で立てた計画が結果につながった時の喜びについて教えてください。

内山
 ただうれしいよりは、壁を打ち破ったんだという爽快感といいますか、ぐっと息を止めて潜ったあとに、水から一気に出てきたように突き抜けちゃった感じがしますね。独特の感覚があると思います。

ーー陸上を続けるなかで、その感覚を最も味わえたのは、どんな時でしたか?

内山 一番うれしかったのは、(昨年9月の)日本インカレで自己ベストの13m02を出して優勝できた時です。私にとっては、もぎ取ったベストだったかなという感覚があるからか、本当にうれしかったです。

ーーもぎ取った、というのは?

内山
 インカレ前の(8位だった)日本選手権では、少し崩れてしまっていたんです。自分の体を見つめ直して、こういう方向でトレーニングしようというのを決めて、かつ、新しいことにも挑戦しようというのをひとつ入れて、インカレに向かって心と体が崩れないギリギリのラインを攻めて練習できました。本当にギリギリのところ、もうこれ以上やったら崩れるところで大会に合わせて出した記録でした。




【インカレ優勝の裏側に新しい挑戦】

ーー大きな大会のはざまで、新しい挑戦をするのは勇気がいりますよね。新しいこととは、どんなことを取り入れたのでしょうか?

内山 以前から技術面でやりたいけれど、できなかったことがあったんです。私の場合、助走していって右脚で跳んでホップに入るんですが、そのホップの時に膝下が出るか出ないかという問題を抱えていました。トップ選手は前に出てから着くほうが多い。でも自分はそこで膝下があまり前に出ずにストンと落ちてしまうことが多くて、ホップでの前脚をもう少し前へ振り出すようにと言われることが多かったんです。

 そこにチャレンジしようと思ったんです。インカレまで、2、3カ月くらいしかなかったですが、その一点に絞って取り組みさえすればできていくだろうと考えて、学外の人に話を聞きにいったり、自分なりに技術練習をして挑みました。

ーー短期間の猛練習でイメージした動きを試合で実践できるまでに仕上げられたのですね。しかし、頭で考えすぎると反射的に出る動きの邪魔をするのではないでしょうか? そのあたりの難しさについては、いかがですか?

内山
 それはすごくよくある問題で、同期の部員といっぱい話もしたんです。特に私の同期には体の動きを考えながら取り組んでいる人がいっぱいいたので。ステップアップの仕方としては、まずは考えてできるようにします。自分の動きを撮影した動画を見て、自覚と客観とをすり合わせていって、理想の動作になっているか、まずは考えてできているかを確認します。

 考えてできるようになっていたら、次に自動化するフェーズがくるんですね。考えなくてもイメージした動きになって、初めて試合で出てくる。自動化するのには、やっぱり回数をこなす必要がある。その過程で千本ノックじゃないですけど、それに近いようなことはしてきました。インカレまでギリギリのところを攻めながら、動きに対する同期たちとの話の積み重ねもあって、練習で自動化まではできるようにしておけたと思います。

ーー動きの自動化は、受験や勉強においても必要なのでしょうか?

内山 勉強においても、ポイントはいろいろあるような気はします。たとえば、ここからここまで絶対に覚えなければいけないものがあったとしたら、もうがむしゃらに覚えるしかなかない。それには自分が覚えられる方法を探して、やり続けるしかない。語呂合わせでもいいですし、書いて覚えるんだったら書いて覚えたらいいと思います。

 一方で、勉強は、理解できてないんだけど進んでしまうことがあると思うんですよね。問題を解いていて、間違えたらやり直すけど、やり直しながら別にその概念を理解しているわけではなくともその答えを見て解き方を覚えちゃう。覚えているから機能するようなことがあると思っています。そういうエラーをできるだけ少なくしていくのも意識する必要があるとは思います。覚えたり、がむしゃらにやったりして進めていく面と、本当に理解しているかを振り返るというセグメントを使い分けていたのかな、と。

 自動化でいうと、概念を理解するフェーズでは近いものがあると感じます。本当にわかっていたら、あんまり苦労せず正解へと引っ張ってくれると思うんです。でも、理解をしていなかったら、途中ですごくこんがらがってしまって、「やっぱりわかんないじゃん」となってしまう。概念を自分のものにしていく過程で自動化をする必要があるのかなとは思いますね。

【メンタルコントロール論】

ーー前編で伺った「ケガを前向きに捉え、競技力を上げるきっかけにできた」との話が印象にのこっています。内山さんは普段の生活でもあまり悩んだり、悲観的に考えたりはしないタイプなのでしょうか?

内山
 基本的に、落ち込んでばっかりなんです。あんまり自分に自信がないので、本当によく落ち込んでしまうといいますか、自分は全然できないといった気持ちになってしまうことが多くて。だからこそ、そうなりすぎないように気をつけるところがあります。自分自身のメンタルって、ある程度スイングしていると思うんですが、このスイングの上のところが大会や試験の時に来るように、なんとなく自分で気をつけていますね。

ーー勉強でも、「きょうは調子がいい」という時があるのでしょうか?

内山 よくありますね。たとえば、受験勉強で過去問を解いていて、ある日は60点満点中50点取れたとか、別の日は30点しか取れなかったというのはありました。私はそのどっちも、ポジティブに捉えることができると思うんです。50点取れたら合格できると思えるし、30点だったら、わかっていないところに気づけたから本番でできたらいいじゃないかっていうふうに。

 とにかく本番までは、自分を完全に信じてあぐらをかくことは絶対にしない。できてないから悲観的になるんじゃなく、できないことがあったとしても、本番でできるようになるチャンスだっていうふうに捉えて、どうにかこうにかメンタルを保っていたような気はしますね。

ーースポーツと勉強を並行していくうえで、どういった切り替え方をしてきたのかも聞いてみたいです。

内山 私にとってはスポーツも勉強をどっちもオンで、とても大事なことではあるので、どちらもやらなきゃいけないことだと理解しています。ただ、私の場合はどっちも同時並行しているというよりは、どっちかなんです。今はこっちがすごく大事というのを、その場その場においてうまく切り替えてきたんだと思います。その切り替えによって、文武両道になっているように見えるということだ、と。ただ最近は、そのどっちも常に大事にしなければいけない感じになってきているので、少し難しく感じていますが。

ーー同時並行ではなく、うまく切り替えてきたとのことですが、どのように切り替えてきたのですか?

内山 インカレ前には、陸上に全部を捧げていました。勉強はもう二の次くらいな感じではあったんですけど、大会が終わったあとや部活がオフの時は、実習に力を入れました。残るべき時には、夕方7時くらいまで病院に残って課題をすることもありました。今大事にすべきことは何なのかを天秤にかけながらいろいろやってきたなっていう感じではあります。

【大学では「武・武・武」。でも授業はフル出席】

ーー前編で、大学入学後は陸上に割く時間や労力に悩んだとの話がありましたね。

内山 大学に入ってからは、私は本当に文武両道なのかなと疑問に思うことがありました。基本的には陸上がずっと大事だと私は思っていたんですよ。文武っていうか、ほぼ武・武・武だけだったかもしれないですね。陸上が大事で、陸上を続けるのが大前提にあって、そのうえでできる勉強をしていこう、と。

 ただ、授業に出席できない理由を探しはしなかったです。陸上にのめり込みながらも、授業に出席できないことはまったくなかったですし、陸上によって何かを邪魔されたり、陸上が勉強や何もかもを侵食してというような状況にはならなかった。単位は全部取れました。

ーーただ側からみると、文武の切り替えのみで、ずっとオンなのではと少し心配になります。趣味などオフの息抜きはありますか?

内山
 趣味は何かって言われると困っちゃうんですけど、強いていうならば、美術館が好きです。あとは舞台。追いかけている芸人さんがいてその舞台を見に行っていました。

ーー少しホッとしました。それはともかく、いよいよ医師国家試験が迫っていますね。晴れて合格したら、どんな医師になりたいと考えていますか?

内山 
とても悩ましいところではあります。そもそもどの分野に進みたいのかも、あんまり決まっていない。ひとつの道として、スポーツ医学に携わるのもいいかなと思うようになっています。産婦人科を志して女性アスリートのサポートを自分の経験を生かして形にできたらいいんじゃないかなとは考えています。

ーー最後に、受験を控えた後輩のみなさんや、スポーツと勉強の両立に悩む学生たちへのメッセージをお願いします。

内山 ひと言では収まらないかもしれないな。私自身、中学・高校、大学とずっと部活をしていて、でも勉強も頑張らなければいけない状況です。けれど、やっぱり部活で疲れちゃうんです。勉強をあまり頑張りきれていないので、なんで部活をしてるんだろうと思ってしまうこともいっぱいありました。だから、勉強と部活との両立で悩む気持ちは、ものすごくよくわかるんですよね。

 ただ、なにかものすごくいい解決策があるかって言われると、正直ないと思っています。なにかをやったら魔法みたいな感じで、どっちもOKとはならない。やっぱり、自分にとってどっちも大事だったら、他の人よりも頑張らなきゃいけない。そこを貫き通したいんだったら、もう覚悟を決めて頑張るしかない。それだけだと思うんですよね。

 あなたが進んでいるその方向は間違っていないと思うから、自分がほしいと思うものに向けて頑張ってください。言えるのは、それだけかなと思います。

(終わり)

<profile>
内山咲良 うちやま・さくら
1997年、神奈川県生まれ。東京大医学部医学科6年。筑波大附属中・同高を経て、2016年に東京大理科3類に現役合格。陸上競技は中学時代からスタートし、高校3年時には走幅跳で全国高校総体(インターハイ)出場。大学入学後に三段跳を始め、昨年9月の日本学生対校選手権(インカレ)女子三段跳で自己新記録13m02を出して優勝した。

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