「ママは頭のいい子が好きなんだ」息子の一言でよみがえった幼少期 折れずに回復する居場所であり続けたい

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2022年01月21日 07:00  ウィズニュース

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写真女性の息子が小学生の頃にブロックで作ったロボット=女性提供
女性の息子が小学生の頃にブロックで作ったロボット=女性提供

ママは、頭のいい子が好きなんだ――。首都圏に住む会社員の女性は、息子が保育園に通う頃、そんな意味の言葉を投げかけられたそうです。当時はひらがなを覚えるため、カルタ取りの練習をしていました。「無意識に『頭が良い方がいい』というメッセージを発していたのだと思います。息子なりの抗議だったのでしょう」。そう話す女性が省みてよみがえってきたのは、「やれば出来る!」という言葉を浴びていた自身の子ども時代の記憶でした。(朝日新聞記者・高橋健次郎)

【画像はコチラ】「出来る出来る出来る」「いつやる」。そう親に言われて育ったと女性はつづります。

カルタ0枚に 「がっかり」
女性の息子は現在、高校1年生です。

10年ほど前、息子が保育園に通っていた時のことでした。小学校入学を控え、保育園ではひらがなを使ったカルタ取りをしていました。保育園で取得枚数が掲示される日々。2桁の数字ばかりが並ぶ中、女性の息子はいつも1桁でした。

「今日は0枚だったよ」。帰宅後、残念そうに報告する息子に胸が痛みました。

「なぜ競争をあおるのかと思いつつ、私も気になって結果を聞いていました。がっかりする様子を見せていたのかもしれません」

カルタを買って練習しましたが、状況は上向きませんでした。その頃から、息子の様子が変わったと話します。

「○○くんがママの息子だったら」
「大好きだよ」

女性がいつものように言葉をかけると、冷めた口調でこう返すようになりました。

「○○くんがママの子どもだったら、僕のことなんか好きにならないよ」――。

カルタ取りが得意な子どもの名前でした。

ママは、頭のいい子が好きなんだ。僕のことは好きじゃないんだ。女性は、息子がそう受け止めているのだと感じました。

壁一面に漢字カード
息子をありのままに受け止めたい。

そう思いながらも、ままならない現実がありました。小学校に入ると、忘れ物が多く、音読ができませんでした。2年生の時、息子はADHD(注意欠如・多動症)と学習障害と診断されました。

女性は焦りを募らせたそうです。「せめて、字の読み書きができるようになってほしい」。漢字カードを壁一面に貼り、泣いても音読をさせました。

「やれば出来る」。女性にはそんな思いがありました。

空手教室には行っていなかった
転機は、小学4年の頃です。

「息子がウソをつくようになったんです」

ある時は、空手教室を3カ月ほど無断で休んでいたことが分かりました。胴着をクシャクシャにして帰ってくるので、通っているのだと思っていました。「私にバレないように胴着を使い古したようにしていました。『うまくできない』のが嫌だった。それを私に言うのも嫌だったのでしょう」

こんなことが続くうちに、女性はこう思うようになります。

「やれば出来る!」を押しつけてしまったのかもしれない。私が間違っていたのかもしれない――。

「やれば出来る!」
「『やれば出来る!』と言われて育ちました。自宅の壁面にも、そんな標語が貼ってありましたから」

女性は幼少時代をそう振り返ります。

両親は、町工場を経営していました。「家でも仕事の話ばかり。私が寝た後、両親がよくけんかをして、父親の怒鳴り声が聞こえました。母親は泣きながら怒っていました」

母親が家事を何日も「ストライキ」することもありました。女性は、母親の「味方」でありたいと思うと同時に、不安な気持ちから認められたいと思うようになりました。

中学生の頃には、掃除や洗濯などの家事も積極的に手伝っていました。

ところが、「母親のやり方通りでないと、『余計なことをして』と言われました」

私は認められない
勉強にも励みました。小学校高学年の頃、90点の答案を持ち帰ったこともありましたが、返ってきたのは「いつもこれだといいよね」でした。

「どれだけやっても私は認められない。母親の物差しで評価されなければいけない苦しさがありました」

「出来ない」を際立たせたのは私
そんな苦しさを息子も抱いているとしたら――。女性は、そう思うようになりました。

息子は、確かに漢字をうまく書けない。それでも、書き取りは続けている。「書けるようになるなら、何でもする!」。そうも言う。息子も、必死でもがいていたんだ――。

「『やれば出来る』とはっぱをかけ、『出来ない』という気持ちを息子の中で際立たせてしまったのは、私ではないかと思ったのです」

それから女性は、「出来る」「出来ない」を軸に息子を評価することをやめたそうです。

「当時熱中していたユーチューブでもブロックでも、『いいね!』するようにしました。彼自身の存在を肯定していると伝えたかったのです」

それから息子は、自分の興味や感じたことを女性にも話すようになりました。「親子関係が格段に良くなったと感じています」

子どものため?
同志社大学の教授で、「『承認欲求』の呪縛」(新潮新書)などの著書がある太田肇さんは、「他人に認められたい」という思いは、部下の育成だけでなく子育てを通じても湧き起こると指摘します。

「立派な子を育てた」「子どもが優秀な大学を出た」――。そんな達成感で承認欲求を満たしてしまうことがある、というのです。「『子どものため』としながら、実態は『親のため』ということがあるのです」

居場所であり続ける
女性自身、「きちんと子育てしないと!」とどこかに気負いがあったのかもしれない、と述懐します。

一方でこうも話します。

「『やれば出来る』の先にあるのは結局、『役に立つ』=『優秀』みたいな価値観だったと思うのです。私自身、そう強く思っていたところもあり、今でもそう思う部分はあります」

息子の将来に関して悩みは尽きません。

先日は、息子が短期で事務作業のアルバイトを経験。周囲の手際のよさにしょげて帰ってきたそうです。「障害の影響で、とても不器用です。働き出せば、こうしたハードルはたくさんあるのだろうなと思いました」

そんな女性はこう話します。「失敗を経験しながら、折り合い方を覚えていくしかないように思います」

「出来る」を積み重ねて「転ばぬ先の杖」とするのではなくて、失敗し、落ち込み、それでも折れずに生きていく、そのために回復する居場所であり続けられたら――。女性はそう思っています。

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