子宮頸がんワクチンが再開、世界で使われていても「日本では不可」だった“理由”

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2022年01月21日 08:00  週刊女性PRIME

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週刊女性PRIME

写真※接種写真はイメージです
※接種写真はイメージです

 今年の4月から再開される、子宮頸がんワクチンの接種。副反応を危惧する声もある中で国が接種勧奨に踏み出した背景とは。

年間約1万人超の患者

 昨今、話題になったワクチンといえば新型コロナワクチン。しかし、今年4月から予防接種法に基づき市区町村が公費で行う『定期接種』に大きな変化が起こる。

 2013年4月に小学校6年生から高校1年生の女子を対象に定期接種となりながら、一部で接種後の副反応を訴える声があったヒトパピローマウイルス(以下HPV)ワクチン。通称・子宮頸がんワクチンは、定期接種開始から、わずか2か月で厚生労働省が市区町村に接種を促す活動(接種勧奨)の差し控えを求めることになった。その接種勧奨が4月から約9年ぶりに再開される見込みだ。

 HPVは一般女性の約8割が生涯に1度は感染すると推計されるほどありふれたウイルスで、性行為が主な感染経路。体内に入ったHPVは子宮頸部と呼ばれる子宮の入り口付近に感染して「異形成」と呼ばれる異常な細胞を作る。異形成の多くは免疫反応で排除されるが、一部が悪性化して高度異形成へと進展し、最終的に子宮頸がんに至る。

 世界保健機関(WHO)の推計では、2018年時点で全世界で57万人の女性が子宮頸がんと診断され、31万1000人が命を落とした。日本では年間約1万人超の患者が発生し、死者は年間3000人弱。従来、50代以降の患者が多かったが、近年は性行為開始の低年齢化なども影響し、患者の若年化が進んでいる。産婦人科医の平野翔大医師は、

「子宮頸がん患者の最多年齢層は40〜50代ですが、異形成は20〜30代が多く、中にはまれですが不正出血で受診した10代後半の女性で見つかることもあります。異形成も含めれば、産婦人科では珍しくはない病気です」

 と説明する。原理的にはHPV感染予防で子宮頸がんも予防できると考えられ、ワクチン開発が進展。2006年に世界初のHPVワクチンが欧米で市販され、2009年には日本でも承認されている。臨床試験では接種により異形成はほぼ100%予防できることが明らかになり、多くの国で公的接種プログラムに組み入れられた。

 しかし、日本では接種した女児の一部で全身の痛みや脱力感など、ワクチンの副反応を疑われた多様な症状の訴えがあり、これまで約9年間にわたって接種勧奨が中止されていた。

「実は日本と同じく副反応を訴える事例は海外でもありましたが、当初から専門家の間ではワクチンとの因果関係は薄いとみられていました。そのため国主導でネガティブ情報を打ち消すキャンペーンが行われた事例もあります」(平野医師)

 例えばアイルランドでは12〜13歳女児に対する接種プログラム開始当初、接種率は80〜90%だったが、安全性を問題視する団体の活動を機に約50%に低下したという。

「しかし、政府が専属機関を設けてSNSやメディアを使った接種キャンペーンを展開し、医療従事者向けに正しい情報を伝える教育プログラムまで実施した結果、接種率は70%まで回復しました」(平野医師)

WHOから名指しで批難

 一方、日本は各国と比べて極めて鈍い動きだった。厚生労働省の専門部会が2014年には副反応との訴えがあった症状について、ワクチンが原因である可能性を否定したものの、接種再開の結論を保留。これに対し、2015年にWHOは日本を名指しで「薄弱な根拠によって有益なワクチンを使わないことは、実質的な損害につながる」と批判したほどだった。

 平野医師は、「ここまで言われても、接種で起こるかもしれないリスクのみに重点を置き、子宮頸がんを減らせるメリットが積極的に議論されたとは言い難かった」と評し、当時の接種勧奨中止報道が強い影響を及ぼしたと指摘する。

「私たちからすれば、接種勧奨中止以降の報道は、もはや両論併記とすら言えない、接種のリスクに偏った印象のものでした。

 例えば副反応を訴える女児が手足をばたつかせる映像が報じられましたが、誰もが不安になるショッキングな映像です。報じる前に十分な検討なしにセンセーショナルな報道に走ったことは大きな問題だったと思います」

 さらに、平野医師は、ある事件が長きにわたった接種勧奨中止の一因ではないかとの見方も示す。福島県立大野病院で帝王切開手術を受けた妊婦が死亡し、2006年に医師が業務上過失致死で逮捕された『大野病院事件』の余波だ。

 事件は帝王切開での手技が妊婦を死亡させたとして医師が逮捕されたが、一審判決では、検察が主張した回避策をもってしても妊婦の死亡は避けられなかったとして医師には無罪判決が下された。

「最善を尽くそうと積極的な治療を行っても、逮捕される可能性があるとわかったことで、産婦人科医の世界では危機回避を優先する風潮が強くなりました。実際、この事件を引き合いに“国やメディアがつくったネガティブな空気の中でHPVワクチンを積極的に接種しましょうとは言い難かった”と当時を振り返る産婦人科医が今でもいるほどです」(平野医師)

副反応に関するエビデンス

 今回のHPVワクチンの副反応問題に関しては、すでにアメリカ、フランス、オランダでの研究、さらには名古屋市立大学が行った『名古屋スタディ』などから、HPVワクチンの接種が原因で日本で取り沙汰されたような副反応が増加することはないと結論づけられている。一方、がんに進展する可能性がある異形成の予防効果は明らかだったが、従来は子宮頸がんそのものの予防効果の証明は十分とはいえなかった。

 しかし、2020年にスウェーデンでのHPVワクチン接種者と非接種者を比較した研究から、ワクチン接種者は子宮頸がん発症リスクが63%も低下することが明らかに。ワクチン接種のメリットはより強固なものになりつつある。

 今回、国が接種勧奨再開に踏み切ったのは、こうしたエビデンスがほぼ出そろったことが背景にある。そのうえで平野医師は、今後本格的な接種が再開されるHPVワクチンのメリットについて次のように語る。

「HPVは100種類以上の遺伝子型があり、各遺伝子型によって発がんリスクなどは違います。日本で使われるHPVワクチンの主流は4種類の遺伝型のHPVに有効な4価ワクチン。このワクチンは子宮頸がん発症リスクが高い2種類の遺伝子型の感染予防に加え、性器に痛みを伴うイボができる尖圭(せんけい)コンジローマを引き起こす2種類のHPV遺伝子型の感染が予防できます。

 尖圭コンジローマ自体は命にかかわるものではありませんが、痛みはありますし、性行為を制限されます。その意味では、接種した人は生活の満足度を下げずにすむメリットがあります」

 現在WHOが公表している人口10万人当たりの子宮頸がん患者発生は世界平均が13・1人、アメリカは6・5人で先進国はおおむね10人未満だが、日本は14・7人。

 平野医師は「日本は先進国の中でワースト1位。かつ先進国で唯一、発症率が高くなっている状況です。これは子宮頸がん検診受診率が低いことに加え、接種勧奨中止によるHPVワクチン接種率の低下が影響しているのは明らか」と断言し、こう訴える。

「私たち産婦人科医がなぜ口を酸っぱくして“HPVワクチンを打ってください”と言うのか?それは予防できるはずの子宮頸がんで、お子さんを残して亡くなるお母さんたちを目の前で見てきたからです

 子宮頸がんに至らなくとも、日本産婦人科学会の調査では高度異形成と診断される人は年間約1万6000人。この人たちには異形成部分を切り取る『円錐切除術』の実施が視野に入ってくるという。

「この治療を行えば命を落とすことはほぼありませんが、将来早産の可能性が高まります。異形成は20〜30代が多いと言いましたが、20代で“赤ちゃんを無事に産めないかもしれない”という現実に晒されるのです。子宮頸がんは、ワクチンで予防できる可能性がある数少ないがん。だからこそワクチン接種をしない手はないと思うのです」

〈取材・文/村上和巳〉

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  • 的外れな記事。副反応を過大報道した朝日等マスコミ、科学的根拠を示した(?)池田修一信大教授などの医師、訴訟弁護士など<専門家>に国=厚労省の役人が逆らえる訳も無い。
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