中村憲剛、内田篤人、阿部勇樹……。スター選手の監督姿をすぐ見たい。福田正博が指導者ライセンスについて提言

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2022年01月21日 11:31  webスポルティーバ

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福田正博 フットボール原論

■サッカー界で活躍した選手たちの引退に際し、「次は監督としてピッチに戻ってきて」というファンの声がよく聞かれる。だが、Jリーグで監督ができるS級ライセンスを取得するまでには、引退後一定の期間が必要だ。引退した選手の監督姿をすぐに見られるようにはならないのだろうか。福田正博氏の考えを聞いた。




【引退から数年後ではワクワク感が薄まる】

 Jリーグでは、この1、2年で一時代を築いた多くの選手たちがピッチを去った。中村憲剛、内田篤人、佐藤寿人、阿部勇樹、大久保嘉人、玉田圭司など......。彼らは将来的に監督になることも想定して指導者ライセンス取得に動いていると聞く。

 しかし、実際に彼らがピッチサイドに立って檄を飛ばす姿を見られるのは、まだまだ先になる。

 周知のとおり、Jリーグや日本代表で監督をするには、日本サッカー協会(JFA)公認の指導者ライセンスの最上位にあたるS級ライセンスが必要になる。選手としての実績がどれだけあっても、段階を踏んでライセンスを取得していかなければならない。

 昨年11月に、日本代表で20試合以上の出場経験を持ち、B級コーチ養成講習会の成績が優秀だった元選手に対しては、A級ライセンス取得前に求められる1年間の指導実績要件が緩和されることになった(※A級を取得した上でS級を取得する)。それでも、引退してから監督になるには、やはり一定の期間が空くのだ。

『十年一昔』という言葉があるが、今の時代、10年前どころか4〜5年前に活躍した選手さえも忘れられていることが少なくない。たとえば2018年ロシアW杯の日本代表メンバー全員を言えるだろうか? だから、数年後に中村憲剛や内田篤人が監督に就任しても、いまある期待感やワクワク感が薄まってしまうのではないかと思ってしまう。

 そもそもプロスポーツは、たくさんの観客がスタジアムにつめかけることで成立する興行だ。採算事業として継続していくために不可欠なのが、新規顧客の獲得だ。一定数のファンがいるからと胡座をかいていては、何年後かにはファン層の高齢化が進み、若者から支持されなくなってなってしまうからだ。

【スター選手の監督姿は話題になる】

 プロ野球では、北海道日本ハムファイターズに新庄剛志監督が誕生した。この抜擢を見て「なるほど」と唸らされた。"ビッグボス"の手腕のほどは今シーズンの見どころでもあるが、新庄監督の就任で話題性に富んだことが、ファンだけに限らず幅広い人たちに「今季は日本ハムの試合を球場で見たい」と思わせる動機づけになったのではないか。

 なにもJリーグに新庄監督が必要だと言いたいわけではない。プロ野球にもJリーグにも共通して言えるのは、興行=エンタテイメントの側面もあるということ。真剣勝負は当たり前で、それに付随する楽しみがあるからこそ、多くの人の興味を喚起できる。現役を引退してすぐのスター選手がJクラブの監督に就任できれば、話題性も生まれて世間へのアピールにもなるはずだ。

 現役時代に一定条件をクリアすれば、引退直後の数年間はS級ライセンスがなくてもJリーグで監督ができるようにしてもいいのではないか。昔に比べてチームの指導体制は分業化が進み、決断するのは監督の仕事だが、戦術・戦略は専門コーチに任せるケースも増えているのだから。

 日本サッカーには空洞化の問題がある。ひと昔前なら、海外移籍は日本代表の主力選手だけのことだったが、いまでは20歳前後の有望株も多くが海外でプレーをするようになっている。彼らが海外リーグで成功すれば、選手キャリアの最盛期を日本のサッカーファンが見られるのは日本代表戦だけになる。しかも、キャリアの晩年をJリーグでプレーすればいいが、そのまま海外で引退するケースが今後は増える可能性もある。

 そうした選手の引退後、Jリーグで監督をする姿を見られたらと思うのだ。ピッチでの鮮烈なイメージが残っている間の就任ならファンの関心もひくだろうし、その選手が現役時代に培った経験もJリーグに還元できるはず。

 もちろん、選手としての能力と監督としての能力は別物というのは理解している。だが、S級ライセンスを持っていても失敗する監督だっている。結局のところ、資質はやってみないとわからないのだ。ライセンスはないけど監督をやってダメなら、その時はS級ライセンスを取得して再チャレンジすればいいだけでもある。

【2050年の日本サッカー界に向けて】

 指導者ライセンスに関して言えば、JFAの体系を見直してはどうかと思う。現状のサッカーの指導者ライセンスは、指導対象がプロレベルのS級を頂点に、その下にアマチュアトップレベルのA級、B級、C級、D級とキッズといった具合に裾野が広がる構図になっている。

 これはA級まで到達しなければS級になれない現状を反映しているのだろうが、詳しくない人からすれば、まるでS級に至る道筋の通過点としてA級やB級などが存在しているように映る。

 日本サッカーの『いま』を背負うプロ選手たちを指導するのがS級だが、それと同等かそれ以上に日本サッカーにとって重要なのが、未来を担う育成年代の選手たちであり、彼らを指導するのがA級より下の指導者たちであることは忘れてはいけない。

 育成にもA級U−15、A級U−12といった専門的なライセンスはある。ただ、それだけでは足りないように感じる。育成年代の指導者が誇りと自覚と責任を持てる体系を構築してもらいたい。そのためには現状のS級ライセンスを別柱にするのがわかりやすいと思う。

 こうした提言がすぐに実行されることはないと理解しているが、それでもよいところは継続しつつ、見直すべきところは「いま」からよりよく改善するべきだと思っている。なぜなら、これからの日本は人口減少・少子高齢化が加速していき、2050年の日本は4人に1人が75歳以上という超高齢化社会になると推測されているからだ。

 そのなかでもサッカー人口を確保し、多くの人たちが観戦に訪れるスポーツであるためには、いまから国内サッカーの根幹を支えるJリーグがもっと注目や人気を集めるものになる努力をしなければいけない。

 そして、この2050年は、『JFA2005年宣言』でのワールドカップ優勝という目標のリミットでもある。実現に向けて30年も時間があると悠長に構えてはいられない。Jリーグが始まった1993年から見れば、30年後の2022年は遥か彼方に感じていたが、いま思うのは瞬く間に30年経った感覚だ。

 30年後の日本サッカーがいまよりも発展しているために、いまこそあらゆることを見直していくべきではないかと思う。

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