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男の子を育てるのは大変! 大事な話なのに、ぜんぜん聞いていない! 暴れて本当に大変!おうちが壊れそう。 褒めると有頂天になるのに、怒られたら激しく落ち込む……。
男の子は10歳までが重要! 「心の強い男の子」の育て方と親の心構えとはこれらのお悩み、男の子のママたちからはよく聞かれます。
こんな調子で、将来大丈夫かしら…?と不安になっているママも多いでしょう。
実際、どうして男の子は子育てが難しいと感じるのでしょうか? また、どんな風に育てるのがいいの? そんなママたちの疑問を、専門家にうかがいました。
今回は、元京都光華女子大学教授で、心理学の博士号を持ち、現在は保育・子育てアドバイザー協会 関西理事長を務める荘厳舜哉さんが解説します。
■なぜ男の子は育てにくいと言われるの?
まず世間で、昔から「男の子は育てにくい」「育てるのがむずかしい」といわれることについて。その理由を、荘厳さんは次のように教えてくれました。
荘厳舜哉さん(以下、荘厳)「昔のことわざに『一姫二太郎(いちひめにたろう)』があります。これは男の子は育てにくいよ、だから先に女の子を産んで育児の練習をしておくといいよねという意味です。
自閉症(ASD)や注意欠如多動症(ADHD)に代表される発達障害も、女の子を1とすれば男の子はトータルで3〜4倍になります。なぜなら脳の配線を含む、生命維持に欠かせない情報の多くはX染色体上にあるのですが、そこにバグがあった場合、『XX』の性染色体を持つ女の子の場合には、もう一本の染色体上の同じ位置にあるDNA情報を使うので、問題が生じにくいのです。
一方で、『XY』の染色体を持つ男の子は、X染色体にバグがあった場合に、代わりがありませんので問題が生じやすくなります。男の子は、生物学的にハンデをもって誕生してくるとも言えましょう」
男の子のほうが、生物学的にハンデが大きいというのは、驚きます。
そして、男の子を授かったママたちに、こんなメッセージをくれました。
荘厳「『子は親の背中をみて育つ』ということわざもあります。
これは心理学では『モデリング』と呼んでいる学習システムで、人の社会的行動のほとんどは、この学習によって成り立っています。道徳的な社会規範や価値観も含め、親が子どもに与えている影響は非常に強いのです。
我が子の行動に目くじらを立てる前に、今一度、日常における自分の行動を、第三者目線から見直してみましょう。また、個体発達は80年という長いスパンでみる必要があります。子どもの発達は長い目で見てあげてくださいね」
■男の子を育てるママのよくある悩みと対応策
荘厳さんに、0歳から5歳までの男の子の子育て中のよくあるママの悩み4つについて、ママのベストな対応策をアドバイスいただきました。
■1.話を聞かない
男の子が何か危ないことをしたときに、注意してきちんと聞かせるべき話をしたいときもありますよね。でも、話をぜんぜん聞いていないなんてことはよくある話。
大事なことは、どうやって教えるべきでしょうか?
荘厳「人は、『Homo Socius:社会的なヒト』として進化してきました。他者とつながっていなければ生き残ることができなかった『人』において、一番重要なのは『感情』です。
ですから、相手の心が読めない3歳児さんまでは、『快−不快』の感情次元上で行動します。当然、自己中心的で人の話は聞けません。お母さんとしてはそれでは困りますよね。
でも、振り返ってみましょう。お母さんは一方的に、自分の立ち位置から注意をしていませんか? 育児においても重要なのは聴く力、すなわち臨床心理学でいうところの『共感的傾聴』です。
注意をする前にお母さんは、子どもが今どういう状態にあるのかを知っている必要があります。これには普段からの観察が必要ですが、まず子どもからやさしく今の気持ちを聴き出す努力を払ってみてください。
そうして『うん、それで?』、『そうなの!』、『それから?』など、押しつけるのではなく、まず子どもの話を聞いてあげる。その後、『じゃあこうしてみようか』とか、『こうしたらどうなるかな?』など、話を提案型にもっていきます。
最後に『こうしてくれたらお母さんは嬉しい・悲しい』という、3歳児さんにでも理解できる感情レベルに話を落としていきます。
このとき、身体全体を使って子どもを受容して傾聴する姿勢やお母さんの表情が非常に重要になります。自分が伝えたい内容は感情レベルに落として伝えると効果的です」
■2.食事に関する成長が遅い
女の子を育てたことのあるママは、女の子と比べて男の子の食に関する成長が遅いと実感することがあるようです。
「いつになったら手づかみを終えられる?」「遊び食べがひどい」などのお悩みです。
荘厳「『待てない』のは、確かに男の子に多いです。ただ、これも、普段のお母さんとのコミュニケーションがうまく成立しているか否か、また発達障害傾向の有無などの要因とも関係しています。
4歳未満の子どもは、相手の気持ちを察するマインドリーディングの力は備わっていないからです。
マシュマロ実験という面白い実験があります。目の前にマシュマロを一個おいておき、子どもを一人にしますが、そのとき、約束をします。15分後に実験者が帰ってきたときに子どもがマシュマロを食べていなければ、ご褒美にもう一個のマシュマロがもらえます。食べたら当然ご褒美はありません。
その結果が面白いのです。我慢できた子どものほうが、成長してから学校の成績がいいのです。ただし、待てるか待てないかは家族の経済状態と関係しているという研究もありますから、これにも多くの要素が関係していることがわかります。
子どもの行動発達は複雑系なのです。焦りは禁物です。
手づかみ食べの対策としてはフォークの使用がおすすめです。幼児はスプーンをワシ掴みしてしまいますから、中身を上手く口に運ぶことができません。上からグサリと刺さるフォークを使いましょう。
危なくないようにと子ども用の、先が丸くなったフォークを持たせるお母さんが多いと思いますが、これは刺さりにくいからダメです。先が二つに分かれた果物用のフォークが便利かと思いますよ。よく刺さりますからね。
そして遊び食べの対策。食事が遊びになってしまうのはお腹がふくれてきた証拠。そういう場合は子どもの前から食事を取り下げましょう。『欲しい』と泣き出すようなら、ごく少量に分けておき、わんこそばの要領でなくなったら次を出します。
時間はかかりますが、子どもの食欲に合わせることができますし、お母さんも遊べますよ」
■3.行動が荒い
男の子といえば、公園に行ったら、すぐ水に飛び込んだり、平気でどろんこになったり、家では兄弟と一緒に暴れて家の中がドタバタと大変! というのはよくある話。
これについてはどうすればいいでしょうか?
荘厳「私が勤務していた大学の教室の2階の窓から、隣接する保育園の遊戯室が見下ろせました。その教室で試験監督をするときには、いつも遊戯室を見ていましたが、男の子と女の子で、行動に大きな違いがありました。
男の子たちはすぐに追いかけ合いになり、途中で止まれません。勢い余って教室の端まで走ってしまいます。女の子たちは勢いが弱いですから、相手を追い抜いてしまうことはありませんし、もう少し戦略的な行動をとります。
小学校入学までの男の子たちは全員ADHDであるといっても言いすぎではありません。
『荒れる小一』という言葉がありますが、ADHDの確定診断が下るのが平均8歳。つまり小学校に入学してからで、授業中の教室をウロウロ歩き回ったり、物をなくしたり忘れ物をしたりという行動が目立つようになって初めて、診断が下りるのです。
ですが、成長と共にこのような問題行動が消失していくことも多々ありますし、昔は『おっちょこちょい』という言葉でひとくくりにされていました。これが今ではADHDという“病気”になってしまったとも言えます。
ですから、行動が荒いということで気に病んでいるのなら、待ちましょう。男の子らしいと思えば心配ごとではなくなるのでは?」
■4.落ち込みと有頂天の差が激しい
男の子を育てていて、怒られたら激しく落ち込むのに、褒められると有頂天に。その差が激しくて、こんなに差があっていいの?将来が心配。なんてお悩みもあるあるです。
荘厳「子ども期の感情コントロールは確かにむずかしいものです。
感情をはじめ、行動のコントロール機能は、脳の前頭前野と呼ばれる額(ひたい)の内側部分にありますが、専門的にいうと、この部分のシナプスの刈り込みが不十分であることがむずかしい理由です。
この問題もコミュニケーションのあり方の視点から考えてみましょう。
『豚もおだてりゃ木に登る』という表現がありますが、子育てにおいて褒めることは最重要な要素です。その褒めたときに、ちょっと背伸びすれば手が届く課題を、それとなく暗示しておくのです。
そうすると子どもは子どもなりに、少し時間がかかるかもしれませんが、『お母さんは、次はこれを期待してるんだ』ということに気づきます。褒められて大変嬉しいのですが、宿題的なものが出ていることに気づく。つまり有頂天から次の発達課題に意識が移るのです。
叱るときも、比喩的表現をすることです。『そういうことをするとお母さんは悲しい』と、これも表情や仕草を交えて子どもの前で演じてみてください。子どもはみんなお母さんが大好きですから、行動に注意を払うようになるでしょう。
直接、言葉で叱るよりも比喩的に、感情に訴えるように表現するのがベストです。ただし『嫌い』という言葉は絶対に使わないように。嫌いは拒絶ですから、子どもはお母さんから愛されていないと思い落ち込みますからね」
男の子の子育ては、もともと大変。その分、立派に育てた暁には、ママも子どもも嬉しいですよね。
荘厳さんが教えてくれたように、5歳までの時期は、まだまだ「待つ」時期。その上で、今回教えていただいたアドバイスを実践することで、ママたちのメンタルもいい方向に向かうのではないでしょうか。
【取材協力】荘厳 舜哉(そうごん しゅんや)さん
元京都光華女子大学教授 博士(心理学)
1947年生まれ。京都光華女子大学や京都大学、奈良女子大学など多くの大学で子どもの発達について講義してきた。(歴任)日本感情心理学会理事長、日本臨床発達心理士会幹事長、(現)日本心理研修センター(公認心理師試験機関)評議員、保育・子育てアドバイザー協会 関西理事長など。