『神様のバレー』はなぜ異色なのか? 「弱小校の成り上がり物語」を超えた充実感

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2022年01月23日 12:01  リアルサウンド

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『神様のバレー(27)』

 数あるスポーツの中でも、バレーボールはかなり漫画向きなのではないか。まず、ネットをはさんでコートが分かれていて、2チームが入り混じらないので位置が把握しやすい。コートに入れるのは1チーム6人というのも、メンバーの役割を理解するのにほどよく、またコートの中の人間関係にも感情移入しやすいのだ。リアルの世界においても、昔も今も男子バレーの国際試合に詰めかける女性ファンが絶えないのは、そうした「ドラマ性の読み取りやすさ」が関係しているのではないかと思うのだ。


参考:『ハイキュー!!(45)』


■主人公は「敏腕アナリスト」


 男子バレー漫画でいえば、近年では2020年に連載終了した『ハイキュー!!』(古舘春一)がダントツのヒット作である。これに続く人気作は『ハリガネサービス』(完結)、現在も連載中の続編『ハリガネサービスACE』(荒達哉)だろうか。いずれも高校バレーものである。


 ここで紹介する『神様のバレー』(原作:渡辺ツルヤ/作画:西崎泰正)は、やや異色のバレー漫画といえよう。舞台が中学バレーである上に、主人公は彼らを指導する「敏腕アナリスト」。相手チームの情報収集や分析を行い、試合中にも監督に戦略のアドバイスを行う、現代バレーには欠かせない存在だ。


 阿月総一は、実業団バレーボールチーム「日村化成ガンマンズ」のアナリスト。「バレーの神様」を自称する自信家で、世界の舞台で活躍する野望を持っている。「万年1回戦敗退の男子バレー部を全国制覇させることができたら、全日本男子の監督の座を約束する」との誘い文句に乗って、阿月は私立中学・幸大学園中のコーチに就任するのである。


 阿月の最初の仕事は、負けが当たり前の選手たちの意識を変えることだ。言葉で操るのではなく、しかるべき体験を与えることで選手たちに「勝ちたい」という気持ちを根づかせる。遊びを取り入れ、だからこそ続けられるトレーニングで身体能力をアップする。


 とはいえ短期間で能力が劇的に変貌するわけではなくーーいや、むしろそうしたリアリティこそが本作の魅力。阿月は選手たちの心身の性格を鋭く見抜き、現在の能力を最大限に発揮できるように試合の絵を描く。タイミングを見計らって応援団に後押しさせたり、補欠の下級生たちにアナリスト術を学ばせるなど、全方位的に人材を活用。緊張しきった選手たちを一瞬でリラックスさせるなど、心理コントロール術も鮮やか極まりない! 


 そんな阿月の軸は「相手への嫌がらせ」。ネガティブな言葉のようだが、勝負の世界ではズル賢さがモノを言う。試合前からの仕込みで相手チームをワナにかけたり、ときには味方をだますことも。阿月イズムをしだいに理解していく選手たちは、指示を聞くだけではなく「自分の頭で考えて判断する」能力を身につけていく。


 監督を務めるのは、女子バレーの元・全日本候補だった鷲野孝子。明るい性格だが、天性の資質でのし上がったタイプゆえに理論や合理性とは無縁である。「気合と根性」が口グセだった彼女が、阿月の影響下で成長していくのも読みどころだ。阿月と監督、阿月の右腕として活躍する2人のアナリスト、個性豊かな選手たちーーそれぞれの性格も葛藤も存分に語られるなか、常に「なぜ?」という問いに読者もさらされる。そのことがいわゆる「弱小校の成り上がり物語」を超えた充実感をもたらすのだ。


 正攻法では勝てなさそうな相手に戦略で打ち克つ快感、スポーツ以外の場面でも応用できそうな心に響く至言も大人の読者に支持を得る理由だろう。知的で冷静だが、めっぽう口が悪くて暴言もしばしば。それでいてここぞという場面で熱くゲキをとばし、思い描いた通りの結末へと導く阿月はまるでオーケストラをつかさどる指揮者のようだ。


 バレーファンはもちろん、多くの人に読まれてほしい隠れた傑作である。現在27巻が刊行されているが、一度読み始めたら止まらなくなること間違いなし!


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