カオスな国際社会では「局所」が「全体」に波及し、元には戻らない

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2022年01月24日 06:31  週プレNEWS

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写真「社会は急に変わらないけれど、日々の生活のなかで取り組むべきこと、やれることは案外たくさんある」と語るモーリー氏
「社会は急に変わらないけれど、日々の生活のなかで取り組むべきこと、やれることは案外たくさんある」と語るモーリー氏


『週刊プレイボーイ』で「挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが、カオスな国際社会について語る。

* * *

「2022年は国際秩序がさらなるカオス(混沌[こんとん])に向かう」。そんな観測があちこちでなされています。この場合のカオスとは、完全にランダムな状況を指すのではなく、「安定的な状態を当面維持できない」というニュアンスで解釈すべきでしょう。

カオスを析出させているのは、大国同士の"確執"と"相互依存"の同時進行という構造です。欧米諸国は中国やロシアと価値観の面でも、安全保障の面でも相いれないが、一方でロシアの資源や中国の労働力・巨大市場に依存している。そのためデカップリング(切り離し)もできず、カオスがより深まる。この点が東西冷戦時とは違うところです。

雪崩が起きる寸前で辛うじてさまざまな要因がバランスを保っている今の国際社会では、思いもよらぬことから"フィードバック"が起き、局所的に始まった問題がしばしば全体に波及します。

地球環境への負荷も、先進国における労働者雇用・賃金の圧迫も、新型コロナウイルスのパンデミックもフィードバックによるカオスの一例といえ、もはや元の原因を締め上げるという単純な"調整"では世界中に波及した問題を解決することはできません。

つい最近、カザフスタンの混乱をきっかけにビットコイン相場が急落したのも、まさに「局所と全体の共鳴」です。世界2位のビットコイン採掘(マイニング)大国であるカザフで、燃料価格引き上げに国民が反発し一部が暴徒化すると、カザフ政府は全土でインターネットを遮断。

これによってマイニング能力が急減し、ビットコイン価格は急落しました。カザフ政府はネットを再開して経済損失を抑えたいところですが、そうすると民衆の横のつながりから混乱が拡大するリスクもある。痛しかゆしの状況が続きました。

そもそもの話をすれば、21年5月に中国政府が「カーボンニュートラルのために大量の電気を消費するマイニングを取り締まる」と表明したことで、多くのマイニングハブがカザフに移転してきました。

しかし、ただでさえインフラが脆弱(ぜいじゃく)で多くの国民が貧困にあえぐ体制のなか、LPガスの価格がいきなり2倍に跳ね上がったことで今回の混乱が生じた。まさに、さまざまな事象がフィードバックを起こした結果です。

しかも「カオス現象」は元のパラメーター(変数/要因)を調整しても、元どおりの安定にはならない。つまりは不可逆です。カザフでも反政府デモの鎮圧にロシアが介入したことで、状況は完全に不可逆なものとなってしまいました。

国際社会がカオスであるならば、「以前の世界に戻ることはない」ことを前提として、私たちはどう生きるかを問われていくのだと思います。今や国家だけでなく、個人の環境や生活も流動化が激しく、しかも国境を越えてつながっている。ひとつの方法で諸問題を劇的に解決することは残念ながらありえないのです。

だからこそ必要なのは、あらゆる課題に長期的に向き合っていこうという個人個人の意思でしょう。社会は急に変わらないけれど、日々の生活のなかで取り組むべきこと、やれることは案外たくさんある。未来への不安を前向きなエネルギーに転換し続けていく忍耐強さこそが、今必要なもうひとつの「サステナビリティ」なのかもしれません。

●モーリー・ロバートソン(Morley ROBERTSON)
国際ジャーナリスト。1963年生まれ、米ニューヨーク出身。レギュラー出演中の『スッキリ』(日テレ系)、『報道ランナー』(カンテレ)、『所さん!大変ですよ』(NHK総合)ほかメディア出演多数。NHK大河ドラマ『青天を衝け』に続き、TBS系日曜劇場『日本沈没―希望のひと―』への出演でも話題に!

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