使い勝手がいいだけの「高学歴体育会系」は就活で重視されない? 新卒一括採用の変化

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2022年01月24日 10:01  弁護士ドットコム

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経団連が1月18日に発表した春闘方針「経営労働政策特別委員会報告」で、日本型雇用システムの見直しに向けた視点の一つとして、採用方法の多様化が盛り込まれた。


【関連記事:三菱UFJ銀が「新卒年収1000万円」特別枠…従来型「一括採用」は縮小に向かう?】



報告書では、従来の新卒一括採用について、計画的で安定的な採用や、自社に適した人材育成などでメリットがあるとする一方で、新卒時以外の入社機会が限られてしまうことや、中小企業やスタートアップ企業による人材獲得や、起業に失敗した人の再チャレンジを阻害している可能性などをデメリットとして挙げている。



そのうえで、新卒一括による採用割合を見直し、通年採用や中途・経験者採用の導入・拡大をさらに進めていくことだ有効だとしている。



これまで何度も、新卒一括採用の見直しが叫ばれてきたが、今後、どうなっていくのか。採用の問題に詳しい碇邦生・大分大学経済学部講師に聞いた。(編集部:新志有裕、矢口美有)



●採用の時期から、採用のあり方をめぐる議論へ

ーー新卒一括採用については、賛否両論ありますが、どう捉えればいいのでしょうか。



様々な立場の人の思惑が絡んでいて、全体像を語れる人はほとんどいません。例えば学問分野でも、経済学、政治学、法学、社会学と多岐にわたります。さらに、企業、大学、学生のどこの立場で考えるのかによっても視点が異なります。



国単位で考えても、経団連は企業の視点で、経産省も企業の競争力を高める方向性ですが、厚労省は雇用を守りたいということで一枚岩ではありません。



ーーそのような利害関係の複雑さによって、議論が膠着状態に陥ってきた面があるのでしょうか。



それはありますね。しかし、5年くらい前から、新卒一括採用を変えようとする側の思惑が多様化して、議論に変化が見られます。それまでの議論は、大学生がどの時期に就活をするのかという「時期問題」に終始していました。



一番初めに変えようと言い始めたのが、バブル崩壊後の1990年前半で、多くのIT企業が生まれた2000年代の議論も同じでした。企業は時期に関係なく高学歴の学生を青田買いしたいと考えましたが、経団連が倫理憲章を作って規制し、学校側も学生生活の確保のために賛同しました。



現在は、グローバル化が進んで日本独自の新卒一括採用を不便に感じる企業が出てきました。職種を絞り込んだジョブ型雇用や通年採用に舵を切る必要が出てきたのです。グローバル企業だけではなく、育成に余裕のない企業も同様です。



そして、これまで以上に学生の専門性を見るようにもなりました。例えば、法学部の学生やロースクール出身者であれば、法務部や知財管理に配属した方が人材育成のコストが下げられる、といった考え方です。学校の勉強と仕事をリンクさせる方向に変わってきたのはこの10年くらいです。



●採用のあり方は一様ではなく、モザイクに

ーーそうは言っても、大企業が、大学時代の学びではなく、高学歴の体育会系で、「何でもやります」「協調性があります」という学生をポテンシャル重視で採用する流れも残っているのではないでしょうか。



今までは、高学歴体育会系を好んで採用していると言われてきた商社でも、そのような学生を落とすようになってきたという話を関係者から聞いたことがあります。



同じ大学でも起業していたり、世界に目を向けたりしている学生の方が欲しいそうです。使い勝手はいいけれども、純粋無垢なので育ててもらうのが前提といった学生は、高学歴であっても、時代の流れを読む力が無さすぎると捉えられるということですね。



しかし、当然企業によって違いがあります。育成することが前提で、気合と根性があれば良いという企業もあります。そういう意味では、採用のあり方は一様ではなく、モザイクになっています。



●新卒一括採用はボリュームゾーンの学生たちを救ってきた

ーーここまでは企業側の視点でしたが、学生は新卒一括採用が続くことを望んでいるのでしょうか。学生の能力を「上」「中」「下」に分類した時に、就職後の企業内教育に期待できるということで、「中」や「下」の学生にとってのメリットが大きかったように思います。



日本の学校教育が、ボリュームゾーンである「中」に対してのケアが厚いのと同様に、新卒一括採用も、その層を中心に救っている面があります。



一方で、「上」の学生への支援はあまりありません。「中」や「下」の学生と同じルールじゃないと就職できないのが現状です。見えないガラスの天井にぶつかってやる気を無くすケースも結構あります。



ですから、フランスのカードル制のように、上位層を別区分にして、とことん働いて出世していく層と、そこそこ働いて楽しい人生を謳歌するけれども、出世はしない層とに分けるべきだという意見もあります。



●「大学は職業訓練校になるべき」論の問題点

ーー次は大学側の視点の話なのですが、文系を中心に、大学の学問と仕事の内容は今もあまりリンクしていません。スキルを重視した採用に変わっていくのであれば、大学は職業訓練校のようになるべきでしょうか。



学生に仕事に直結したことを教えたいのなら、アメリカのように教育と研究を分ける必要があります。



研究を担う人たちを分けないと基礎研究が死んで、研究テーマも狭まってしまいます。例えば紫式部を研究するような、直接世の中の役には立たない学問がなくなってしまうのは困ります。



しかし今のところ、日本の大学は職業訓練校になることの踏ん切りがついていません。日本のジョブ型雇用がアメリカのように積極的にならない理由でもあります。



ーーそれはなぜでしょうか。



日本の大学が研究も教育もしているのは、日本が貧乏で予算がないからです。人件費も抑えて、教員数も減らして、できるだけお金をかけずに少人数でやりましょうという方向になっています。



このような現状を打開しようと、日本電産の永守重信氏のように自分で大学を作ることで教育改革に乗り出す実業家も出てきています。世界的にも、このような実業家や企業が大学を作る事例は少なくありません。教育改革の方向性の1つとしてあるでしょう。



日本は30年以上、経済全体も企業も元気がありません。予算の問題がずっとつきまとって何も変わらないままでいると、新卒採用も含めて化石化してしまいます。まずは日本国内が元気にならないと始まりません。だから世界で戦える企業をもっと増やさないといけません。



ーーまずは企業が変わらないといけないということでしょうか。



変えようと思ったら企業はいくらでも変えられるんですよ。ソフトバンクも楽天も新卒一括採用のルールに縛られずに独自の施策を打ち出しています。大事なのは新しいことに挑戦している企業の足を引っ張らないことです。だから新卒一括採用をする企業としない企業のどちらもあっていいんです。



「日本的」新卒一括採用を変化させるには「日本的」を無くさなくてはいけません。新卒採用は多様なやり方があって良いんです。企業が戦っているフィールドに応じて、やり方を変えればいいだけです。



●部分的でいいので、「出る杭」を伸ばす仕組みに

ーー採用とキャリア形成の多様化が求められているということでしょうか。



システムで全部変えるにはお金が足りません。ですから、そのお金を稼ぐ手段は「出る杭」の人たちをどれだけ支援して成功させるかが重要なんです。例えば前澤友作さんのように、宇宙に行ってしまうほど成功する人たちですね。



そのためには自分が所属しているコミュニティの中で、上に行きたい人とそうじゃない人が自分で選択できる、キャリアの多様化が必要なのです。



しかし、いま上手くやっているところまで無理に変える必要はありません。部分的に「出る杭」を伸ばせば良いんです。成功は一握りの人が手にするものだと歴史的にも物理学的にも立証されています。



そのような人たちを定期的に出して、周りの人たちを引っ張り上げてもらうという仕組みを作らなくてはいけません。新卒採用も、「出る杭」を受け止められるように改善していくべきでしょう。



【プロフィール】 碇邦生(いかり・くにお) 2006年立命館アジア太平洋大学卒業。民間企業を経て神戸大学大学院へ進学し、インドネシアで海外現地法人の調査と企業研修プログラムの開発研究を行う。その後、リクルートワークス研究所で主に採用についてのプロジェクトに従事。2017年から大分大学経済学部経営システム学科の講師。


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