筒香嘉智がアメリカで感じた相手へのリスペクト。一流選手になるには人格者であるべきか、「スポーツマンシップ」を考える

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2022年01月24日 11:31  webスポルティーバ

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 日本のスポーツ界で近年、あらためて見直されているキーワードがある。

『スポーツマンシップ』だ。

「宣誓! 我々選手たちはスポーツマンシップに則り、正々堂々と戦うことを誓います」

 誰もがこのフレーズを一度は耳にしたことがあるだろうが、日本でスポーツマンシップの本質を教えられる機会は決して多くない。なぜ、大事なのだろうか。

 そのヒントは、日本球界から世界に羽ばたいた男の言葉にある。




 ピッツバーグ・パイレーツの筒香嘉智は2020年からメジャーリーグでプレーするようになり、あらためて超一流アスリートに共通する要素を感じたと言う。

「一般的にスーパースターと呼ばれているような、誰が見てもいい成績や数字を残している選手になればなるほど"人格者"が多いように感じます」

 打席で放った鋭い当たりを好捕された直後、バッターがヘルメットをとって相手にリスペクトを示す場面が、アメリカで度々見られた。日本ではなかなか目にする光景ではなかったと、筒香は振り返る。

 昨季ロサンゼルス・ドジャースのマイナーチームでプレーした際、監督やコーチが毎日のように選手たちに伝えることがあった。「対戦相手に敬意を払おう」。最初は驚いた筒香だが、「非常に大事なことを選手に伝えている」と感じるようになったと言う。

 スポーツ界で時々議題に上がるのが、一流選手になるのに"人格者"である必要はあるのか、否かということだ。

 取材者の肌感覚として、トッププレーヤーであればあるほど人としても優れたケースが多い一方、そうしたことを超越した"宇宙人系"もなかにはいる。極論を言えば、ハイパフォーマンスを発揮するのに"人格"は関係ないが、プレーのレベルや精度を高めていくうえでの考え方として関連しているように感じる。

 この点に関し、千葉商科大学サービス創造学部の准教授で日本スポーツマンシップ協会の中村聡宏代表理事は、ロサンゼルス・エンゼルスの大谷翔平を好例に挙げた。

「大谷選手は現代で二刀流を実現しているすごさがもちろんありますが、それ以上に、ゴミを拾うとか、笑顔を絶やさないとか、アメリカ文化にちゃんと溶け込もうとしている姿勢がリスペクトされています。昨年末の会見で『うまくいかないことがいっぱいありました』と話していましたが、それも含めて『楽しい1年だった』と。困難を含めて全部楽しむのは、スポーツマンシップをまさに体現しています」

【東京五輪の金メダリストたちは?】

 中村理事は著書『スポーツマンシップバイブル』で、スポーツマンシップの要諦として「尊重」「勇気」「覚悟」の3つから説明している。

「自分以外の人を受け入れましょう、ということが『尊重』です。『勇気』というのは、失敗したら嫌とか、恥をかきたくないという恐れは、僕らから行動しようという気持ちを奪っていきますが、失敗しても学びが大きければ自分は成長できる。それが『勇気』です。

 勇気は自分に対するもので、尊重は他人に対すること。どちらが大切というわけではなく、両方必要です。人に優しく、自分に厳しくというバランスを取っていくのはすごく難しいですが、それを実践していくという『覚悟』が大事。自分以外と自分自身という、並び立たないものを並び立たせようとするところにスポーツの価値がある。これがまさに『覚悟』です」

 中村理事がスポーツマンシップの重要性を説くと、選手や指導者から「そんなことを言っていたら勝てない」と否定される場合もあるという。その背景には勝利至上主義や、負ければ終わりというトーナメント制の弊害もあるが、本当に突き抜けていくトップアスリートは「スポーツマンシップは大事」と口を揃えるという。中村理事が続ける。

「試合で勝ちにいきながら、自分の内なる戦いにも向き合う。その姿勢は間違いなく一人ひとりを強くしていきますし、そういう人たちが集まっているチームは間違いなく強くなっていく。東京五輪の全メダリストにインタビューをさせてもらいましたが、柔道の大野将平選手も、侍ジャパンの田中将大選手も、世界のなかで突き抜ける人はスポーツマンシップを持ち合わせていると感じました。

 逆に言えば、人格者でなければ勝ち続けることは難しい。『自分だけよければいい』という選手は、1回は勝てるかもしれませんが、そうした態度ではスポンサーも含めて周囲が離れていくでしょう。人を愛する力が強いから、愛され力も強いのだと思います」

【世界で羽ばたいていくためには...】

 野球の世界で言えば、アメリカには「アンリトゥンルール(unwritten rule)」がある。いわゆる「不文律」で、一定以上の点差がついた場合は犠牲バントや盗塁をしないことや、過度なガッツポーズといった相手を挑発していると取られ兼ねない振る舞いを控えるというものだ。日本ではこの意識が薄く、国際大会になると不文律に反し、相手から抗議や報復を受けることが度々ある。

 近年はアメリカでも「アンリトゥンルール」のあり方が議論されているようだが、少なくとも日本の選手や指導者は、なぜこうした考え方があるのかを知るべきだと中村理事は語る。

「日本では、『最後の最後まで全力を尽くすのが尊重、礼儀である』という話になります。一方、アメリカでは『こんなに大差がついたら、相手のケツの毛まで抜くようなことはしないほうが礼儀を尽くしている』となる。考え方として、どちらもあり得ると思います。でも、野球発祥の地の文化について、腹落ちしておくことは大事です。

 なぜなら、ほとんどのスポーツは国内の大会だけでなく、世界とつながっています。国際大会に出場すると、国内の文化やルールを知っているだけでは通用しないことがある。それを知らないばかりに恥をかいたり、乱闘になったりするので、相手についても思いを馳せる。それがスポーツのグローバリズムです。海外について知っていくことは、スポーツをするひとつの意義だと思います」

 筒香は海の向こうに活躍の場を移して以降、メジャーリーガーたちの審判への姿勢に日本との違いを感じると明かす。

 たとえば、ハーフスイングをストライクとされた場合、打者は強い口調で異議を唱えることがある。だが、次の打席で一塁に出塁すると、「さっきは悪かった。言いすぎた」と謝る場面を、筒香は一塁手として何度も目撃した。

「メジャーとマイナーを経験したなかで、本当にリスペクトが強い国だと感じています。日本の選手はリスペクトがないというわけではないですが、日本で経験した時と比べると、アメリカの選手たちは自分の意見をはっきり言う。同時に、周りに気遣いをするというか、本当に心から困っている人に手を差し伸べるという風習がすごく強いと感じます」

 中村理事によると、アメリカ英語には「He is a good sport」というフレーズがある。「彼は信頼に足る人間だ」という意味だ。

「スポーツマン」とは単にスポーツをする人を指すのではなく、本来、もっと深い意味が込められている。

 なぜ、スポーツマンシップは大事なのか......。筒香がメジャーリーグで感じたことには、日本人が世界で羽ばたくために重要なエッセンスが含まれている。

このニュースに関するつぶやき

  • 日本には競技こそ違えど、大差で勝っているチームが手抜きプレイしてると監督に「相手に失礼だ」と諫められ、結果「109-0」となった試合があってだな…
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