Beats by Dr. Dreの完全ワイヤレスイヤホン「Beats Fit Pro」の予約がApple.comで始まった。
開発にあたって目指したのは、最も先進的なBeatsイヤホンとのことで、快適で洗練されたデザインとハードな耐久性を備えた製品を志向した。19年に発売した「Powerbeats Pro」、昨年投入された「Beats Studio Buds」に続く、3つ目の完全ワイヤレスイヤホンとなる「Beats Fit Pro」だが、これまでのモデルを踏襲する部分とより進化させた部分を併せ持つ意欲的な仕上がりとなっている。
Beatsが重要だと考えている「フィット感」から見ていこう。何よりも耳から外れないこと、そして長時間の装着でも快適な着け心地に重きを置いている。人間工学に基づき、どんな耳にも合うユニバーサルデザインによるウィングチップを採用。他社のウィングチップタイプのイヤホンは、ウィングチップ部分が耳の形状に合わせて交換できるものがほとんどだが、Beatsはイヤホン本体と一体化させた。ウィングチップは、硬質な軸の周囲を柔らかい素材で包み、しなやかに曲がることで幅広い耳の形にフィットするという構造だ。シリコン製のイヤーチップはS/M/Lの3種類を用意し、装着時の密閉性を高めている。また、音響ノズルには、レーザーによる微細な通気孔が設けられ、これによりユーザーの耳にかかる圧力が軽減され、快適なリスニング体験を提供するという。フィット感について、Beatsはこれまで、音質に影響を及ぼすと強調し続けてきており、Beats Fit Proにおいても、それは追求されている。
Beats Studio Budsでは見送られていたApple H1チップが、Beats Fit Proには搭載、機能的にも大きく進化を遂げた。Apple H1チップでは、高出力デジタルシグナル処理により、1秒当たり90憶回の動作を実行可能。ダイナミックヘッドトラッキングによる空間オーディオにも対応し、5.1、7.1、Dolby Atmosで録音されたコンテンツを、あたかも劇場にいるかのような感覚で味わえる。Beats Fit ProとiOSデバイスに搭載されたジャイロスコープと加速度センサーが頭部とイヤホンの動きを追跡し、動いた分のデータ(モーションデータ)を比較することで、頭が動いても音が頭の周りに配置されるよう、音場が再マッピングされるという仕組みだ。
Apple H1チップはアクティブノイズキャンセリング(ACN)機能も司り、ユーザーの動きに合わせて1秒間に最大200回音質を調整する。周囲の音が変化しても、外向きと内向きのマイクを併用することで、雑音防止カーブを常にモニタリングし、不要な環境音をアンチノイズでブロックする。こうしたシステムは複雑さゆえに、電力を消費するため、他社製品では採用されていない。
Beats Fit Proは、光学センサーを使用して、イヤホンを装着したり外したりした際に、コンテンツを自動再生/一時停止してくれる。多波⻑LEDを搭載した光学センサーは、対象物への距離や肌の有無を判断してポケットやバッグの中での誤作動を防ぐとともに、信頼性を向上させるのに一役買っている。左右のイヤーバッドにある「b」ボタンにはオンイヤーコントロールが搭載されており、音量の調整や通話の管理といった操作が行えるほか、⻑押しで、先述のANCと外部音取り込みモードの切り替えができる。
通話機能ももちろん装備。音声を取り込むためのデュアルビームフォーミングマイク、不要な外部音を排除するための音声感知加速度センサー、内蔵マイクにより、自然な通話が可能だ。マイクは不要な風切音を低減するために、最適な位置に埋め込まれた。さらに、音声感知加速度センサーからのデータを解析し、ユーザーの声を分離して、邪魔になる環境音を排除する機能も備わっている。この音声認識アーキテクチャは、SiriとAndroidの音声アシスタントに使われているものと同じだとのことだ。Beats Fit Proでは、片方のイヤーバッドのみを使っている場合は3個のすべてのマイク、両方のイヤーバッドを使っている場合は5個のマイクが使用される。これによって、バッテリーの消費量も抑えられるようになっている。
Apple H1チップ搭載ということは、Appleデバイス専用なのかな……と思われる方もいるかもしれないが、さにあらず。Android用のBeatsアプリを利用すれば、ワンタッチペアリングやガイド付き装着状態テストを利用してイヤーバッドを簡単にセットアップできる。アプリからANCと外部音取り込みモードを切り替えられるほか、左右どちらかのイヤーバッドの「b」ボタンをカスタマイズして音声アシスタントを起動するよう変更することもできる。iCloudやダイナミックヘッドトラッキングによる空間オーディオなどの機能を除けば、ほぼAppleデバイスと同等に扱えるのも魅力だ。
最後に環境問題への取り組みについて触れておこう。Beats Fit Proでは、プラスチックの部品を削減し、全体的な材料使用量も抑えられている。内部コンポーネントには再生プラスチックを使用し、メインのパッケージ素材は廃棄物ゼロの施設で作られたものだが、88%が木質繊維を原料とし、そのうち74%が使用済みリサイクル材料とのことだ。また、紛争地域から素材を調達しない方針を採っているのを明らかにしている。バッテリーも製品のライフスパンを超えるものを採用したとのことである。
これで、Beatsとしては、Beats Fit Pro、Beats Studio Buds、Powerbeats Proと、完全ワイヤレスイヤホンは3種のラインナップとなったわけだが、Beats Fit Proは、Beats Studio BudsとPowerbeats Proの中間に位置するモデルであるという。装着スタイルもそれぞれ異なるが、サウンドの色合いもそれぞれ異なるようにチューニングされている。これにはどんな狙いがあるのだろうか。例えば、Beats Studio BudsはBeatsの伝統的な低音が太く元気なサウンドが特徴というイメージがあるが、Beats Fit Proは比較すると、洗練された優等生的なサウンドという印象がある。3モデルを比べた時、音質はこっちの方が好みだけど、装着感はこっちの方が好みということがありうるのではないだろうか。これについては、そもそも、どの製品も一から作り上げているからだというのと、今、人々がどんな音楽を聴いているのかを分析し、ユーザーからのフィードバックも取り入れているからだと言う。サウンドプロファイルも常々進化していて、今回のBeats Fit Proのサウンドが、フラットだったり、洗練された印象を受けたのは、そのほうが、さまざまな音楽に対応できると考えたからであるとのことだ。装着感とサウンドの好みは、人によって異なるだろうから、これは実際に着けてみて、聴いてみてということになるだろう。
Beatsは2020年、ルーク・ウッドが代表を退き、どの方向に舵を切るのか注目されていたが、BeatsはBeatsの伝統を守り、同時に革新性を求めていくようだ。サウンドの品質と見た目のスタイリッシュさは、Beatsの伝統であるが、それらをさらに前進させるための方針を採っているのが、Beats Fit Proという新製品からもうかがえる。ファッションの世界でも老舗のメゾンが伝統と革新の間で揺れるということは良くあるが、Beatsはその両方を大事にし、Beatsとしてあり続けていくのだろう。モーニング娘。やAKB48が、結成時のメンバーが誰もいなくなっても、モーニング娘。であり、AKB48であり続けるように。
Beats Fit Proの発売日は2022年1月28日、価格は24,800円だ。カラーはストーンパープル、セージグレイ、Beatsホワイト、Beatsブラックの4色をラインナップ。冒頭に記した通り、Apple.comでは予約が始まっている。なお、Apple.comでは、無料の刻印サービスにも対応する。Apple Storeの購入ページでBeats Fit Proを選択すると、刻印サービス対応のApple製品と同様に「無料であなたらしく」というリンクがあるので、そこから文字や絵文字を選択できる(なお、刻印サービスは既発のPowerbeats Proでも利用できるようになるとのことだ)。