“新生ヴェルディ”が始動。江尻篤彦強化部長が語る巻き返しへのビジョン

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2022年01月29日 19:14  サッカーキング

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写真新体制発表で昨季の振り返りや今季の目標について語った東京Vの江尻強化部長(前列左から3番目)[写真]=東京ヴェルディ
新体制発表で昨季の振り返りや今季の目標について語った東京Vの江尻強化部長(前列左から3番目)[写真]=東京ヴェルディ
 東京ヴェルディの新体制発表が1月16日にクラブの公式YouTubeチャンネルで配信され、中村考昭代表取締役社長をはじめ、堀考史監督や新加入選手らが2022シーズンへの豊富を語った。
 昨季はJ2リーグ12位と厳しい1年を過ごしたが、昨年9月からチームの指揮を執る堀監督の下で新シーズンがスタート。悲願のJ1昇格に向けて、ここまで11名の新戦力を迎え入れた。新生ヴェルディはどのような強化方針の下でチーム作りを進めているのか。チーム編成の責任者として新体制発表にも登壇した江尻篤彦強化部長に話を聞いた。

チームを作るうえで最も大事にしているのは“競争”

──今季のチーム編成の大きな特徴として、多くの主力選手が残留したことが挙げられます。過去2、3年は中心選手がチームを離れてしまうケースもありましたが、流れが変わった要因はどんなところにあるのでしょうか?
江尻 昨年のヴェルディは経営陣が変わったことをはじめ、本当にいろいろなことがありました。1年間、選手たちがサッカーに集中できる環境を提供できたかと言えば、反省ばかりが残ります。それでも9月に堀監督が就任し、最終的にはすごくいい形でシーズンを終えることができました。特にリーグ終盤の数試合に関しては、選手たちにも手応えみたいなものがあったと思います。
 だからこそ、今オフは選手たちの中に、『昨季終盤のような手応えのあるサッカーを新シーズンも継続してやれるのか?』という気持ちがあったと思います。彼らとは面談もしましたが、『サッカー的に何か変わるのか?』、『監督はどうなるのか?』という質問が大半でした。我々はそんな選手たちに、『こういうサッカーをやっていく』というビジョンを伝えました。それを理解してもらえたからこそ、こういう編成が実現できたのだと思っています。
 堀監督からは優先事項として、今ある戦力を残してほしいというオーダーがありましたし、強化部としても限られた予算をどう使っていくかを考えたときに、新しい選手や外国籍選手を迎えるよりも、今いる選手たちにお金を使って、今ある形を継続したいという思いがありました。今回の編成は、そうしたいろいろな要因が重なった結果です。

──新体制発表の席ではチームの強みや課題について、データを用いて詳しく説明されていました。あのような形でチームが目指すべき方向性を選手たちにも伝えたということでしょうか?
江尻 細かい数字については伝えていません。私があの場で何を言うかは選手たちも気にしていたとは思いますが、我々が意識を叩き込むよりも、選手たち自身がどう感じて、どう解釈するかのほうが大事ですから。私が話したようなロジックは、選手たちが一番肌で感じているはずですし、自分たちの中で課題として捉えてくれたらいいなと思っています。
 新体制発表の場でああいう説明をしたのは、1年間やってきたことを数値として可視化することで、応援してくれるサポーターの皆さんにもチームの強みや課題を明確に理解していただくという狙いもありました。

──編成を進めるにあたって最も意識したのはどんなことでしょう?
江尻 簡単に言うと、ビジョンです。私は昨年の新体制発表で『今後3年間でJ1昇格を目指す』ということを打ち出しましたが、これを達成するには明確なビジョンが必要です。選手や監督としてやってきた経験から、集団をまとめるためにはビジョンが必要だと考えています。それを提示しないと誰もついてきませんから。もちろん、そのビジョンに現実味があるかどうか、手が届きそうな範囲で策が練られているかも重要です。そしてそれは選手たちが求めていることでもあります。
 一昨年の中心メンバーだったジョエル(藤田譲瑠チマ)やシオン(井上潮音)のような選手が、いい条件で上のステージに行ってしまうのは致し方ない部分もあります。ただクラブとしては、選手たちに「ここに残ってもJ1にチャレンジできそうだ」と思わせなければいけない。今季、チームに残ってくれた選手は少なからずそう思ってくれているのではないかと推測しています。
 もちろん、課題もあります。限られた予算の中でどう戦っていくかを考えなければいけませんし、それと同時に現場の補強費を少しでも上げていく努力が必要です。そこは昨年から中村社長、森本譲二社長代行とも密にコミュニケーションをとりながら、うまくやれていると思います。そういう変化は選手にも伝わっているでしょうし、サポーターの皆さんにも伝わり始めているのかなと思います。

──限られた予算の中で各ポジションに新戦力を迎えました。このオフの補強テーマはどんなものだったのでしょうか?
江尻 チームを作るうえで、私が最も大事にしているのは“競争”です。選手に安住の地を与えない。結果を出した選手がいるポジションに、あえてライバルを連れてくる。これはイビチャ オシムさんの教えでもあります。
 競争がないと選手は安心してしまいます。強化側も『この選手は結果を残したから来年もやってくれるだろう』と計算してしまいがちですが、そうやってあぐらをかいて足をすくわれるケースは多々あります。それを踏まえ、『結果を残したから来年も試合に出られるよ』ではなく、『常にベストを尽くさないとポジションを奪われるよ』というチーム編成にしたつもりです。実際に、新チームが始動して1週間が経ちましたが、『必ず試合に出るな』と言える選手はまだ一人もいません。私はそういう状況をニコニコしながらを見ています(笑)。とにかく競争です。競争なくして前進はないと思っています。

編成の全体評価は60点か70点、それが今のヴェルディの現実

──昨季は佐藤凌我選手、深澤大輝選手ら大卒ルーキーが1年目から欠かせない戦力となりました。今年もDF谷口栄斗選手(国士舘大)、MF加藤蓮選手、MF稲見哲行選手(ともに明治大)、DF宮本優選手(法政大)、FW河村慶人選手(日本体育大)と5人の大学出身選手が加入し、チーム強化の新たなトレンドになりつつありますが、大学生を重用する狙いはなんでしょう?
江尻 私が明治大出身だから、『明治の選手をかき集めているんだろう?』と言われることもありますが、最も重視しているのは我々にない特徴を持った選手かどうかです。チームに足りない部分、具体的には最後まで諦めずにピッチで戦う姿勢を見せられるかどうかを大事にしています。
 プロでやっていく以上、勝ちにこだわって、ピッチ上でベストを尽くす姿を見せなくてはいけない。『そんなの当たり前でしょ?』と言われるかもしれませんが、その当たり前を当たり前にできないのが現実です。私が彼らに求めているのは、パーソナリティ、人間性です。ピッチ上でのプレーの質ももちろん大事ですが、それに加えてどれだけリバウンドメンタリティを備えているか。
 試合に出られなくてもレギュラーを取れるように頑張り続ける、最後まで諦めずにボールを追う。そういうパーソナリティを持った選手たちを集めたつもりです。その効果は1年後、2年後に成果として表れるんじゃないかと期待しています。

──ヴェルディは伝統的にアカデミー出身の選手を大事にしてきました。今季は西谷亮選手がユースから昇格し、2年目の佐古真礼選手も期限付き移籍先から戻ってきました。アカデミーの重要性についてはどう考えていますか?
江尻 私は他所から来た人間ですが、ヴェルディの育成システム、アカデミーから上がってくる選手の能力には素晴らしいものがあります。ヴェルディユースから大学を経由して戻ってきた谷口も含め、ユース出身選手がチームをいい方向に導いてくれると思いますし、引き続き大切にしたい部分です。
 今回、ヘッドオブコーチングというポストで中村忠に帰ってきてもらったのも、寺谷真弓アカデミーダイレクターとの話し合いの中で、アカデミーをより強固にしていきたいという狙いがあったからです。今年は結果的に大卒選手が多くなりましたが、今後はもっともっと下から上がってくる選手の数を増やしたいと思っています。

──移籍加入組ではDF山越康平選手(大宮アルディージャ)、FW阪野豊史選手(松本山雅FC)、MFバスケス バイロン選手(いわきFC)、GK高木和徹選手(V・ファーレン長崎)の4人が加わりました。彼らに期待するのはどんなところでしょう?
江尻 例えば、山越はこれまでのヴェルディになかった高さや対人の強さを持っていますし、なおかつ我々が強みにしているビルドアップの能力も備えた即戦力です。阪野に関しては、端戸仁、佐藤凌我の競争に割って入る存在として、どうしても連れてきたかった人材です。阪野がレギュラー争いに食い込んでくる状況を作れれば、端戸と凌我がもっともっと伸びてくるんじゃないかなという狙いもあります。クロスに対して体を投げ出して飛び込んでいくという、ヴェルディにはいなかったストライカーですし、すごくいい補強になったと思います。
 バスケス バイロンについては以前から気にかけていて、山下諒也がチームを離れることが決まってすぐに獲得に動きました。彼の特長でもあるサイドでのドリブル突破とクロス。そしてカットインからの左足でのスルーパスや逆サイドへの展開。そうしたプレーを期待しています。GKの高木和は、昨季は長崎であまり出番がありませんでしたが、その前のシーズンで対戦したときの安定感には目を見張るものがありました。彼とは千葉でも一緒でしたが、当時からとてもいいパーソナリティを持った選手でした。その後、長崎ですごく成長しましたし、以前からどこかのタイミングで声をかけたいなと思っていた選手の一人です。GKはマテウス、長沢祐弥、佐藤久弥と4人がいますが、今のところ誰がレギュラーで出てもおかしくない状況を作れています。



──今季のチーム編成の成果を自己採点するとしたら何点くらいでしょう? 思い描いていたものに近づいたという手応えはありますか?
江尻 来てくれた選手には敬意を評していますし、本当にいい補強ができたと思っていますが、全体の評価となると60点か70点、それが今のヴェルディの現実だと思います。僕自身も監督をやっていましたから、J2のレベルの高さは分かっているつもりです。現実はそれほど甘くない。今後、予算を増やしながらJ1を狙えるような戦力をどう整えていくか。それが我々に突きつけられた大きな課題です。理想と現実のギャップをしっかりと見極めて、シーズン中のテコ入れも視野に入れながら、総合的に判断していく必要があります。

──多くのサポーターが今季のチーム編成を好意的に捉え、期待していると思います。ファン・サポーターにどんなチームを見せたいか、どんなサッカーを見せたいか、2022シーズンの決意表明をお願いします。
江尻 勝ち点0で終わりそうな試合を1に持っていく。勝ち点1になりそうなところを3に持っていく。なおかつホームの味スタで勝つ。そういうサッカーが理想です。繰り返しになりますが、現実は甘くありません。その現実としっかりと向き合いながら、シビアなゲームをモノにしていく。強化部の責任者として、そういう部分にこだわってやっていきたいです。
 もちろん、そのためには日々の積み重ねが大事です。昨年からの積み重ね、開幕までの積み重ね、そしてシーズンが始まってからの積み重ね。これが結果につながっていくと思います。
 サポーターの皆さんにもぜひ我々のこだわりを見ていただいて、うまくできていなければ叱咤激励をお願いしたいです。それがなくなったら選手は成長しませんし、私自身も常にプレッシャーを感じながら、しっかりと結果につなげていきたいです。理想論を語るだけでなく、実際に半歩でも理想に近づいていると感じてもらえるような、そんなシーズンにしていけたらと思っています。

インタビュー・文=国井洋之

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