なぜ離婚弁護士は「結婚を機に仕事をやめないで」というのか? リスクを徹底解説

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2022年02月21日 10:51  弁護士ドットコム

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夫婦円満な生活を送るためにも、できれば事前にトラブルの芽は摘んでおきたいものです。そこで、年間100件以上離婚・男女問題の相談を受けている中村剛弁護士による「弁護士が教える!幸せな結婚&離婚」をお届けします。


【関連記事:夫婦のNGランキング4位「残価設定型クレジット」の見逃せないデメリット】



「結婚した夫婦が絶対にやってはいけないこと」連載の第5回は、「結婚を機に仕事をやめる」です。



中村弁護士が指摘するのは、離婚交渉時のリスク。「『当面の生活費』の目処が立たないため、そもそも別居や離婚を諦めてしまったり、早く離婚を成立させるために、本来もらえるはずの財産分与や養育費の額で大幅な譲歩を迫られたりするケースが少なくありません」と話します。



●離婚交渉時にリスクも

今まで、4回にわたって、本コラムにおいて、「結婚した夫婦が絶対にやってはいけないこと」として、、「義父母の土地の上に家を建てる」「不動産を共有で買う」「ボーナス払い」「残価設定型クレジット」というのをご紹介しました。



今回は、最終回として、「仕事をやめること」というのをお伝えしたいと思います。



結婚した夫婦が絶対にやってはいけないことその5として、「結婚を機に仕事をやめる」というのがあります。



ここでいう「仕事をやめる」というのは、もちろん、体調を崩してやむを得ず退職した場合や、会社が倒産して失業してしまった場合は含みません。また、結婚時に勤めていた会社を退職したが、別の会社に転職できて、収入の変動もあまりなかった場合も含みません。



あくまでも、結婚時に「仕事を続けることが可能だけど、自らの意思でやめ、かつ、収入がなくなるか、大幅に減収になる場合」を指します。



「仕事をやめる」という選択をしたことについて、様々な事情があると思います。ただ、仕事をやめた場合に、離婚交渉時にどのようになるかということをここではお伝えしたいと思います。



●婚姻費用は意外に多くない!

今の時代、主たる生計維持者(たくさん収入を得ている方)に何が起きるかわからないので、お互いに収入がある方がいいということは、私が改めてお伝えするまでもないでしょう。ですので、ここでは、離婚の交渉時にどうなるかということをお伝えしたいと思います。



第3回のコラムでもお伝えしましたが、離婚の前に別居をすることが多くあります。そして、別居した場合は、収入が少ない方は、多い方に対し、「婚姻費用」(生活費)を請求することができます。



この婚姻費用の算定は、裁判所が出している「養育費・婚姻費用算定表」に則って計算されることがほとんどですが、この算定表は、「請求する側には少なく感じ、支払う側には多く感じる」ということが多いのです。



例えば、一方の年収(給与収入)が500万円、他方の年収(給与収入)が100万円、14歳以下の子どもが1人、年収が少ない方が子どもと同居しているというケースで考えてみましょう。この場合、収入が少ない方が婚姻費用として請求できる金額は、基本的には8〜10万円の枠になります。



年収100万円というと、月額約8万3000円です。そうすると、年収の少ない方は、婚姻費用を加えたとしても、月額16〜17万円で子どもと自分の生活を支えなくてはならなくなります。



実家にいるなどして住居費がかかっていない場合は何とかなるかもしれませんが、家賃も別で支払うとなると、かなり節約をしないと生活を維持するのが難しいのではないかと思います。



特に、子どもが幼い場合はまだしも、中学生くらいになると食費や被服費などもそれなりにかかりますので、かなり厳しい金額になるのではないでしょうか。



なお、少し本題から外れますが、児童手当は、同居している間は、収入が多い方の口座に振り込まれますが、別居した場合は、収入の多寡にかかわらず、子どもと同居している方の口座に支払われます。ただし、そのためには、自治体に振込先口座の変更を申請する必要があり、申請をした月から変更になりますので、別居したら早めに変更手続を取ることをお勧めします。



●すぐに婚姻費用がもらえるとは限らない!

上記のとおり、別居した場合には婚姻費用を請求することができますが、別居したらすぐにもらえるとは限りません。



仮に、相手が支払いを拒んだ場合や、金額に争いがあった場合には、裁判所に調停や審判を申し立てて確定させる必要があります。裁判所で確定するなどしてはじめて、相手の給与を差し押さえるなど、相手の意思にかかわらず、強制的に回収できるようになるのです。



もっとも、この裁判所で確定させる手続には、一定の時間がかかります。まず、調停を申し立ててから第1回目の期日まで、通常1カ月〜1カ月半程度かかります。



その後は、1カ月〜1カ月半に1回、期日が行われますが、あまり争いがなくても、婚姻費用が確定するまで2〜3回の期日はかかるのが通常ですので、申立てから3〜4カ月はかかります。相手が徹底的に争ってきたり、争点が多かったりすると、1年以上かかることもあります。私が過去に経験したケースでは、決まるまで1年半以上かかったケースもありました。



過去の婚姻費用は、最終的に確定すれば、少なくとも調停の申立ての月まではさかのぼって支払ってもらえますが、調停を行っている間も当然生活をしていなければなりませんから、その分の当面の生活費を自分で工面する必要があります。



そのため、相手方から婚姻費用を支払ってもらえるようになるまでの間は、自分の収入だけで生活をしていかなければなりません。上記の例でいうと、月額約8万3000円だけで、子どもと自分の生活をしばらくしなければならないので、相当厳しい状況が続くことになります。



●離婚のためには「当面の生活費」が重要!

上記のとおり、婚姻費用は思っているほど多額ではないことと、もらえるようになるまで一定の時間がかかることから、別居した後に離婚交渉(調停や訴訟を含みます)を行う場合、「当面の生活費」がかなり重要になってきます。



「当面の生活費」の目処が立たないため、そもそも別居や離婚を諦めてしまったり、早く離婚を成立させるために、本来もらえるはずの財産分与や養育費の額で大幅な譲歩を迫られたりするケースが少なくありません。



別居までにある程度のお金を貯めて、それを当面の生活費に充てているケースもありますが、その場合は貯めるまでに時間がかかりますし、何よりも貯金は使えば減っていく一方ですから、毎月入ってくる収入を上げることの方がより重要です。



私が知っているケースでは、離婚を決意してから専門学校に通い始め、子育てをしながら一生懸命勉強し、国家資格を取得して一定の収入を得られる見込みが立ってから別居に踏み切ったケースもありました。そのため、別居してからの生活は安定しましたが、国家資格を取得するまでは何年もかかりますし、非常に努力と忍耐が必要で、誰にでもできることではありません。



それよりも、従前勤めていた勤務先に勤め続ける方がずっと収入は安定します。一度退職してしまうと、元の収入に回復するまで結構時間がかかることもあります。そのため、可能であれば、結婚時に仕事をやめないことをお勧めします。



そして、収入に余裕ができ、当面の生活費を確保できるということは、相手が嫌ならいつでも別居できるという気持ちの余裕が出てきます。そうすることによって、実際には別居しなくても、相手に対して本音をぶつけ合うことができるようになり、嫌なことをため込んでしまうことが減り、ひいては婚姻生活を継続することに繋がるのではないかと思います。



●「迷ったらとりあえず弁護士に相談を」

ここまで、5回にわたって「夫婦が絶対にやってはいけないこと」と題して書かせていただきました。最後に1つアドバイスをさせていただくのであれば、離婚を考えたときに「早めに弁護士に相談する」ということをひとつの選択肢に入れていただくといいと思います。



離婚するかどうかまだ悩んでいる段階でも構いません。最近は無料相談も増えていますし、私もTwitterのDMで相談をお受けしております。オンラインで相談できる弁護士もいますので、遠方の事務所の弁護士に相談することもできます。



弁護士に早く相談するに越したことはありません。そこで、その後の見通しを知ることが重要です。その上で、離婚はせず、婚姻関係を継続するということでもいいと思います。後からだと手遅れになってしまうことも、早めに相談することで防げる場合もあります。



そのためにも、「迷ったらとりあえず弁護士に相談する」くらいの気持ちで早めにご相談いただければと思います。



(中村剛弁護士の連載コラム「弁護士が教える!幸せな結婚&離婚」。この連載では、結婚を控えている人や離婚を考えている人に、揉めないための対策や知っておいて損はない知識をお届けします。)




【取材協力弁護士】
中村 剛(なかむら・たけし)弁護士
立教大学卒、慶應義塾大学法科大学院修了。テレビ番組の選曲・効果の仕事を経て、弁護士へ。「クライアントに勇気を与える事務所」を事務所理念とする。依頼者にとことん向き合い、納得のいく解決を目指して日々奮闘中。
事務所名:中村総合法律事務所
事務所URL:https://naka-lo.com/


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