◆ 猛牛ストーリー 【第5回:入来祐作 投手コーチ】
連覇と、昨年果たせなかった日本一を目指す今季のオリックス。監督、コーチ、選手、スタッフらの思いを、「猛牛 ストーリー」として随時、紹介していきます。
第5回は、オリックスの投手コーチとして2年目を迎えた、入来祐作投手コーチ(49)です。1年目の昨季は、指導をする一方で個々の選手の技術だけでなく性格、練習への取り組み方などを観察して自身に落とし込み、今季はキャンプから積極的に声を掛け、精力的な指導を続けています。
◆ 選手の思いを知り、尊重しながら一緒に考えていく
「昨年は、(言葉にすれば)“観察”。今年は、自分の思ったことを、どんどん選手に伝えていきたい」
2月1日のキャンプイン当日、2年目の自身のテーマを聞いた時の入来コーチの答えだ。
もちろん、昨季、観察ばかりをしていたわけではない。中嶋聡監督になって、首脳陣で一、二軍の区別があるのは監督だけ。
投手コーチ、打撃コーチなどすべてのコーチは同格で、すべての選手の状態を共有しながら指導にあたる。
ただ、公式戦になると一、二軍の試合は別々に行われ、練習時間も違い、担当制は敷く。
入来は、主に二軍投手の担当で、春季キャンプからウエスタン・リーグ、秋の教育リーグ、秋季キャンプを通して主に若い投手の指導を続けてきた。
「“観察”から、積極指導へ」。そこには、入来コーチの哲学がある。
「見た目だけでなく、トータルで取り組む姿勢や、どういう体のクセがあるのかなど、いろいろな面を1年かけて見ていかなければならない。何かを、選手に発信するということは、僕たちコーチには責任があるので」と語る。
新人選手に対して、すぐにフォームなどを修正しないという方針が、今の球界の主流だ。すぐに目がつく短所には、いったん目をつぶり、辛抱強く長所を伸ばしていくことで、選手の自信と自覚を引き出し全体のレベルを上げていく。
「ほんとに短い野球人生。サポートしてあげたい。何とか、押し上げてあげたいですからね」と続けた。
キャンプインから、入来コーチは精力的に動いている。特に選手とのコミュニケーションに時間を割く姿が多くみられる。
「シーズンオフに、それぞれがいろんな取り組みをしてきている。本人が共感を得てやっている練習を出来る限り理解した上で、その選手の体の動きの変化を照らし合わせながら指導するということが、今の僕たちに必要なこと。いろんな情報があるので、個々のオリジナリティーを把握すべきだと思っている」
どんな意図でその練習をしているのか。選手の思いを知り、尊重しながら一緒に考えていく。押し付けるのではなく、選手ファーストが基本だ。
◆ 「僕らも引き出しを持っていなければならない」
華々しい経歴だ。PL学園、亜細亜大、本田技研を経て1997年に巨人入り。
2001年には13勝4敗で最高勝率をマーク。日本ハムに移籍後、メジャーに挑戦しメッツとメジャー契約をした。その後、マイナー契約し傘下の3Aでプレーした後、横浜のテストに合格しNPBに復帰。現役引退後は、打撃投手、用具係を務め、2015年から5年間、ソフトバンクでコーチを務めるなどして、昨年、オリックス入りした。
自身の現役時代との違いは、野球の変化のスピードだ。
「昔はどれくらいの感覚でアップデートをしていたのか分からないが、今は、アップデート、アップデート、アップデート。1年が過ぎたら、違う野球の形になっている」
さらに、練習も多様化している。
「いろんな競技の選手とトレーニングをしたり、槍投げ用の器具を使ったりする山本由伸や、山岡泰輔らは独特のトレーニングをしたりしている。結論は、自分の体をどうやって操れるかだと思うが、そこに対して僕らも引き出しを持っていなければならない」と話し、「オフには自分なりに人脈を使っていろんな人に会っていた」という。
午後に設けられている、個々の選手が自分の課題に取り組む自由な練習時間が、入来コーチの“取材時間”だ。
サブグラウンドで槍投げ練習用の器具で練習しているエース・山本由伸の元に足を運び、なにやら雑談。次に、グラウンドの端で、円盤投げでサイドスローの体の使い方を習得している2年目の中川颯の横へ。手に取った円盤を、投げてみて体の動きの確認もしてみせた。
「由伸のトレーニングが、みんなに当てはまるかは分からないが、僕には知っておく必要がある」「中川颯は、今年から動作に力強さを感じるようになった。円盤投げで体を動かすという考えは、一理ある。選手がやってみようと思ったことをサポートするのが、コーチの仕事」と言い切る。
山本が今キャンプで初めてブルペン入りした2月11日。脚の上げ下げなどの動作を、入来に確認する場面があった。
「僕がどういう意識でやっているのかを話したら、入来さんもこうなんじゃないかと。自分の意識と、外から見たイメージを確認し、入来さんの経験を踏まえて調整することが出来た。すごくいいアドバイスをいただいて、いい時間になった」と山本。
入来の一言が、エースの修正能力をさらに高めた瞬間だった。
◆ 先輩・桑田真澄から贈られた言葉
入来コーチには、忘れられない言葉がある。
横浜を自由契約になった時、PL学園、巨人で先輩の桑田真澄(現巨人投手チーフコーチ)から野球教室の仕事を紹介され、謝礼金の入った白い封筒とともに、贈られた「とにかく謙虚でいるんだぞ」だ。
キャンプ地で顔見知りを見つけると、帽子を取って深々と一礼する礼儀正しさも、先輩・桑田の教えの賜物だ。
1年前のキャンプ地での取材で、入来コーチから「謙虚という意味を、辞書やネットで調べ、自分に落とし込みました」と聞いた。
謙虚の意味なんて調べなくても、とその時思ったが、それだけ心に響き、言葉の持つ意味を理解しようと考えたのだろう。
取材を契機に、浅学非才の私も「謙虚」を心に刻むようにしている。そのことを伝えると、大きくうなずき「優しさとはどういうことだ、愛とはどういうことだ、強さとはどういうことか。(言葉の意味は深く、考えることは)楽しいですよ」。
入来コーチの言葉が、今度は若い投手の成長につながるはずだ。
取材・文=北野正樹(きたの・まさき)