◆ 猛牛ストーリー 【第8回:キャンプ取材を終えて】
連覇と、昨年果たせなかった日本一を目指す2022年のオリックス。監督、コーチ、選手、スタッフらの思いを「猛牛ストーリー」として随時紹介していきます。
第8回は番外編。2年ぶりに有観客で行われた宮崎キャンプの全日程をフル取材して感じたことを振り返って紹介してみたいと思います。いろいろな方と知り合うことで、取材していても分からないキャンプの“裏側”も知ることができました。
◆ ファンが戻ってきたキャンプ地
キャンプ地の朝は早い。
球場へとつづく関係者用の道路のバリケードを片付けるため、警備の人たちが午前7時前には出勤して、7時からの開門に備えている。
球場脇に設けられたプレハブのプレスルームも、そのころにはオープン。施設関係者が大きな発電機のエンジンを点火してくれており、暖房で室内が暖まるのに時間はかからない。
B班が使う第2球場のグラウンドには、二軍用具係の山内嘉弘さんの姿が。陽が昇るころには、グラウンド整備が始まる。
7時45分ごろ、山本由伸と中川颯を乗せたシルバーのハイエースが室内練習場脇のトレーニング室に横付け。密着取材するテレビ局が山本をインタビューするのは、キャンプ中、変わらない場面だった。
2年連続でオリックスの宮崎キャンプの全日程を取材することが出来た。
会社勤めでもキャンプ取材は出来たが、経費の問題や他の仕事との関係、さらに今の時代は「ライフワークバランス」の問題もあり、分散して計2〜3クールしか取材が出来ないのが実情。自己管理さえ怠らなければ、誰からも管理されないフリーランスだからこそ、やってみたかったのがフル取材だ。
2年ぶりの有観客で行われたキャンプ。ファンの方と話をさせていただいたことも、貴重な機会だった。
「どの選手のファンなのか」「なぜ、オリックスのファンになったのか」。
京セラドーム大阪にはない、アットホームな雰囲気が互いの口を軽くした。
コロナ禍以前のように、ファンが選手のサインをもらったり、一緒に写真に納まったりすることは出来なかった。プルペンも一般開放されなかったが、シーズンに向け自分を追い込む選手たちの姿はファンには頼もしく映ったことだろう。
◆ 公務員を目指す若者が見た“プロ野球選手”
警備のアルバイトをしていた19歳の専門学校生とも親しくなった。
サブグラウンドを一望できる場所に居ることの多かった彼に、最終日に「印象に残っている選手は誰?」と聞いてみた。
一番に挙げたのは、紅林弘太郎だった。新型コロナウイルスの陽性反応で、2月10日に合流。当初は「いつもなら一晩寝れば疲れは取れるが、筋肉痛がひどかった」と珍しく弱音を吐いていたが、実戦を重ねるごとに打撃の調子を上げてきた。
全体練習が終わってから最後まで室内練習場で打ち込み、球場を後にするのは暗くなってから。その努力は知っていたが、打ち込みを終えた紅林はさらにサブグラウンドで納得するまで素振りを続け、そこからグラウンドを走っていたという。
そして、背番号「124」の近藤大亮。3年ぶりの一軍マウンドを目指し、復活に向けて黙々と一人で練習に取り組む姿に胸を打たれたという。
プロ野球にそれほど関心のない彼に、3年連続50試合登板など、近藤の過去の実績の知識はない。ただ、一見してベテランに近い選手が、10代の若い選手と同じような3ケタの背番号をつけながら、腐らず自分を追い込む姿の意味は分かったそうだ。
さらに、チームの顔である山本由伸。雨や風の強い日に室内練習場を使う場合を除いて、全体練習が始まる1時間以上前からサブグラウンドで槍投げ練習用の器具を使ってフォームの確認を続けた日本のエース。ミックスゾーンで見せる、取材者への真摯な受け答えにも感嘆していた。
また、平野佳寿や比嘉幹貴といったベテランや、アシスタントスタッフの杉本尚文さんから日々の挨拶をしてもらえたのもうれしい思い出だと教えてくれた。
「サブグラウンドでバットを振っていたのを見たのは、紅林選手だけ。本数ではなく、納得するまで振っていました。みなさん、試合で活躍するためにこれだけの努力をしていることがわかった。これからは、テレビでプロ野球を見る目が変わりますね」
妥協をしないプロ選手たちの練習の一端を見ることが出来たのは、公務員を目指す彼にとっても、大きな財産になったことだろう。
◆ リーグ連覇と悲願の日本一に向かって…
「キャンプの成果」を、よく聞かれる。
投手では、右肘手術からの復活を目指す山岡泰輔や黒木優太、近藤らの元気な姿や、日本を代表するエースになっても日々の努力を怠らない山本、円盤投げを練習に取り入れている中川颯ら、意欲的に取り組む姿が印象的で、昨季以上の底上げを期待できた。
野手では、広い守備範囲と強肩だけでなく、自身も課題に挙げていた打撃でアピールを続けるドラフト4位の渡部遼人(慶応大)や、積極的な打撃が光る同5位の池田陵真(大阪桐蔭高)ら、新人の台頭が頼もしかった。チーム間競争が生まれ、選手層の厚さを生んだスカウト戦略にも納得だった。
総合力ではどうか。日本シリーズまで戦った昨季の疲れも考慮しながら、ケガ防止に最大限の配慮がされたキャンプ。そんな中で昨年同様、選手が個々の課題に取り組む午後からの自主練習は、山本が「すごく大事な時間」というように、個々のレベルアップにつながったことだろう。
成果は、まだ明確には表れてはいない。ただ、昨年の同じ時期と似ている部分もある。
内野は、紅林と太田椋がアピールしていたものの、宗佑磨は脚を痛めてキャンプに合流できなかった。外野を見ても、中堅は福田周平がコンバートされたばかりで、定位置をつかんだわけではなかった。それでも、選手個々の成長で激戦を勝ち抜き、25年ぶりのリーグ優勝を果たすことが出来た。
延長12回制の復活や、昨季に比べてタイトなスケジュールなど…。不安要素もあるが、“挑戦者”で臨む限り結果はついてくることだろう。
最後に、「全員でWおう!!」
取材・文=北野正樹(きたの・まさき)