◆ 猛牛ストーリー 【第9回:元謙太】
連覇と、昨年果たせなかった日本一を目指す2022年のオリックス。監督、コーチ、選手、スタッフらの思いを「猛牛ストーリー」として随時紹介していきます。
第9回は、ドラフト2位で入団した昨季チームでただひとりウエスタン・リーグの全111試合に出場した元謙太選手(19)。昨年のオフから外野にコンバートされましたが、1年間の内野経験を「遠回りとは思わない。内野の経験も活かす」と意欲的です。
◆ 福良GMを唸らせた3安打
満面の笑みを浮かべたのは、3月2日のプロアマ交流戦・大阪経済大学戦の試合後だった。
取材を受けているすぐ脇を、福良淳一GMが右手の親指をグッと立てて、笑顔で通り過ぎた。
「いつも気にかけていただいているだけに、結果を出せてうれしいですね」と元。
その日の試合に「8番・中堅」で出場し、4打数3安打。猛打賞の結果はもちろんのこと、内容がよかった。
1打席目は左飛に倒れたが、2打席目は直球2球で追い込まれた後、スライダーをカットして、4球目に逃げるスライダーを左前に運んだ。
昨年なら届かなかったボール。バットを横振りから縦振りに変えたことで、とらえることが出来た。
右中間への三塁打を放った第3打席は、初球スライダーでストライクの後、2球連続のスライダーをファウル。4球目の外寄りの144キロを弾き返したが、ここではバットを振っていくことで自分のタイミングを作っていった。そして第4打席は、初球140キロの直球にやや詰まりながらも左前打。
この日の打撃について、「高橋信二コーチから『力みがある』と言われ、力を抜くことを意識していた。トップに入ると固まることが多かったが、それだけを考えると追い込まれても余裕が出来て、ストーンとバットが出せた」と手ごたえを語りつつ、「昨年は自分から仕掛けることが出来なかったが、振りにいくことでボールに合わせることが出来るようになった。また、直球にも体が逃げずそのまま踏み込んでいけたので、詰まってもヒットに出来た」と自己分析する。
福良GMのサムズアップは、3打席で違った課題に対して結果を出したことへの評価だったのだ。
◆ 「プラスしかない」内野→外野
中京高から2020年のドラフト2位で入団。昨季、「元と来田涼斗は、どれだけ打てなくても、どれだけミスをしても使い続ける」(福良GM)と、英才教育を受けて来た。
その言葉の通り、元は「遊撃」と「三塁」でウエスタン・リーグの全111試合に出場。しかし、昨季のオリックスは、遊撃で紅林弘太郎が急成長。三塁も宗佑磨が抜群の守備力と打撃力で、いずれも定位置を確保した。
このため、昨オフの教育リーグから外野に挑戦することに。内野手時代は「プロのあんな速い打球を外野手は捕るんだな」と驚いていたが、高校時代には外野も経験しており、戸惑うことなく無難に守備をこなしている。
「マイナスは全くない。プラスしかありません」
内野で過ごした1年間について聞かれた質問にキッパリと答えた。
「無駄ではなかったのか」「遠回りだ」という一部の声もあるが、「サードやホームへの返球時の(ボールの)持ち替えは、内野でやっていたので不安なく出来る。外野でも内野目線で守っているので、カバーリングも速く行ける。内野の経験は活きています」と言い切った。
内野手時代、コーチの助言もあり、守備の名手・安達了一の準備をすべて真似たことがある。ベンチ入りする時間や、試合前の外野でのウォーミングアップのタイミングなどを見て学んだ。
「最初から外野なら、そんなことも学べなかったと思います。ベテラン内野手の試合に臨む準備を知ることが出来たのは財産です」とも語る。
昨季の打撃成績は、334打数46安打で打率.138。しかし、本塁打が出にくいとされるオセアン・バファローズスタジアム舞洲(現・杉本商事Bs舞洲)を本拠として4本塁打を放ち、30打点を挙げた。
本塁打・打点はともにチームトップ。中京高時代に甲子園で劇的な逆転満塁本塁打を放って注目を集めたスラッガーは、「もう記憶は薄れてきましたが、チャンスに強いことはアピールしたいですね」という。
高校2年時、母校を訪れた先輩の松田宣浩(ソフトバンク)から「次にプロに入るのは元だ」と声を掛けてもらってから3年……。
「一軍に上がって、挨拶をしたい。そのためにも焦らず、いつ上から呼んでもらっても結果を出せるよう、準備をしたい」
“熱男”に元気な姿を一軍で見せたい。
取材・文=北野正樹(きたの・まさき)