肺がん治療のアンメットニーズと最新治療戦略

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2022年03月24日 12:10  QLife(キューライフ)

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QLife(キューライフ)

わが国で死亡率第1位の肺がん、そのアンメットニーズとは

 製薬会社であるアムジェンは、2022年2月1日に肺がん治療におけるアンメットニーズと最新治療戦略に関するプレスセミナーを開催しました。同セミナーでは、静岡県立静岡がんセンターの高橋利明先生(呼吸器内科)による「進行非小細胞肺がんに対する薬物治療の現状」と題した講演が行われました。

 肺がんはわが国の部位別がん死亡率が1位の疾患であり、2019年の調査によると、肺がんの年間死亡数は男性53,338人、女性22,056人、全体では約75,000人以上に及ぶと報告されています1)。高橋先生は、「がんの5年生存率(がんと診断されてから5年後に生存している割合)は全体的には64.1%であるが、胃がんや大腸がんの5年生存率が70%弱であるのに比べて、肺がんでは34.9%というかなり低い状態にある」1)とし、「肺がんについてはまだまだ予後が不良な疾患であり、さらなる治療薬開発が望まれる」と治療のアンメートニーズが存在する疾患であることを強調しました。

高橋利明先生(アムジェン提供)

 肺がんは、がん細胞の形や状態から大きく「非小細胞肺がん」と「小細胞がん」の2つに分類されます。非小細胞肺がんは「扁平上皮がん」と「非扁平上皮がん」に、非扁平上皮がんはさらに「腺がん」と「大細胞がん」に分けられます2)。これを病理組織分類といい、種類によって治療方針が大きく異なります。高橋先生によると、わが国の肺がん患者の多くが非小細胞肺がんであるといいます。

抗がん薬開発は活発化し、選択肢は増えてきた

 現在、非小細胞肺がんの治療法には主に手術、放射線治療、薬物療法の3種類があり、病期(がんがどの程度広がっているか)によって選択が異なります3)。

 肺がんの薬物療法で使用する薬には、大きく分けて「細胞障害性抗がん薬(※1)」「分子標的薬(※2)」「免疫チェックポイント阻害薬(※3)」があり、どの薬を使用するかは、組織分類や病期、体の状態などによって肺癌診療ガイドラインで示されています4)。

 「2002年に分子標的薬、2015年には免疫チェックポイント阻害薬といった新しい作用機序を持つ治療薬が発売になるなど、この40年間で多くの肺がん治療薬が開発・承認され、治療の選択肢は大幅に増えた」と高橋先生はいいます(図)。またそれに伴い「現在における肺がんの薬物治療の中心は分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬になった」とも。その一方で、日本人の肺がん遺伝子変異の頻度が2番目に多いとされるKRASを標的にした分子標的薬はなく、その登場が待ち望まれていました。

※1 細胞障害性抗がん薬:細胞の分裂・増殖を阻害することにより、がん細胞を攻撃する薬剤。がん以外の正常に増殖している細胞も影響を受けやすい。 ※2 分子標的薬:がん細胞にみられる遺伝子変異を目印にしてがんを攻撃する薬剤。がん遺伝子検査を行い適切な薬を選択する。正常細胞への影響が少ない。 ※3 免疫チェックポイント阻害薬:患者さん自身の免疫がもつ、がん細胞を攻撃する力を保つ薬剤。
(高橋利明先生ご提供)

日本で初めて承認された、KRAS G12C阻害剤

 同講演では、高橋先生より「KRASG12C変異陽性の切除不能・再発非小細胞肺がん」の治療薬として今年の1月に承認された、KRASG12C阻害剤・ソトラシブの臨床試験成績5)についても報告されました。

 何らかの治療を行った進行非小細胞肺がん患者さんを対象としたソトラシブの国際共同臨床試験における評価では、客観的奏効率(がんが完全に消失または30%以上減少した患者さんの割合)、全生存期間(原因を問わず死亡するまでの期間)、無増悪生存期間(治療中や治療後にがんが進行せずに安定した状態を維持した期間)などにおいて有効性が認められました。

 この臨床結果から、本邦承認前でしたが、2021年の肺癌診療ガイドライン4)ではKRASG12C変異陽性患者の場合に「二次治療以降でソトラシブ単剤療法を行うよう推奨する」と記載されました。

 最後に、高橋先生は「他のがん種と比較して肺がんの予後は不良であり、治療成績は依然として満足できるものではない」としながらも「免疫チェックポイント阻害薬、分子標的薬の開発が急速にすすみ、進行性非小細胞肺がんにおいても、長期生存を期待できる状況になりつつある」と結びました。

 今回、新たな作用機序による薬剤が承認され、肺がん患者さんの選択肢が広がりましたが、今後も更なる治療方法の開発が望まれます。(QLife編集部)

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