連覇と、昨年果たせなかった日本一を目指す2022年のオリックス。監督、コーチ、選手、スタッフらの思いを「猛牛ストーリー」として随時紹介していきます。
第11回は、2年連続で開幕投手を務める日本のエース・山本由伸投手（23）です。
宮崎・都城高校からドラフト4位でオリックス入り。先発に転向した2019年に防御率1.95で最優秀防御率賞を受賞すると、2020年はリーグ最多の149奪三振で最多奪三振のタイトルを獲得。
さらに2021年は、15連勝を含む18勝（5敗）で最多勝・最多奪三振・最高勝率・沢村賞などタイトルを総なめにしました。
25日の西武戦（ベルーナドーム）では、チームの開幕戦の連敗（10）ストップとともに、自身の16連勝にも期待がかかります。
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2月1日から27日まで、宮崎市の清武総合運動公園で行われていたオリックスの春季キャンプ。午前7時45分ごろ、坂道を上がって来るシルバーのハイエースが室内練習場脇のトレーニングルームの前に停車する。
通称「トレーナー車」に乗っているのは、数名のトレーナーと山本由伸、そして2年目のサブマリン・中川颯。7時20分にホテルを発車する、球場行きの1号車でもある。
8時半ごろに姿を見せる選手もいたが、警備を担当した方によると、この2人がキャンプ期間中の一番乗りだった。
全体練習のスタートより約2時間も早い球場入り。トレーニングルームで体をほぐした後、雨や風の強い日を除いて、サブグラウンドで槍投げ練習用の器具を投げるのが日課だった。
激戦を極めたシーズンに加え、東京五輪にクライマックス・シリーズ、さらには日本シリーズとフル回転した疲労度を考慮した、体をいたわりながら鍛えるトレーニングだったのだろう。
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「やるべきことがたくさんあるから、早く来ないと出来ないんです。（練習は）ご飯と同じですよ」
なぜ、毎日、こんなに早く球場入りして練習をするのか──。愚問だと知りながらぶつけた際の答えだ。
早出の練習は、毎朝ご飯を食べることと同じ。いつものルーティーンで、山本にとっては何も特別なことではないということだろう。
40年以上の記者生活で、野球とご飯を結び付けた人は、2人目だった。
関西六大学野球を担当していた35年以上前のこと。理事長の平古場正晴さんが、「野球はご飯と一緒」と話されたことがあった。「野球は、美味しい」とも。
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「野球は生活の一部であり、ご飯を食べるのと変わりがない」「おいしく感じるほど野球が好き」。そんな説明を聞いた記憶がある。
◆ "素っ気ない答え"の理由
先発に転向した2019年から、山本の投球を見てきた。毎年スケールアップを果たし、昨年は東京五輪の金メダル獲得に大きく貢献。オリックスのエースから日本のエースにまで上りつめた。
それでも、態度や立ち居振る舞いが変わることはない。宮城大弥がローテーション入りする昨季までは、練習時に使う投手用のボールを入れた大きなバッグなどを、当然のように運んでいる姿があった。
山本をよく知らないメディア関係者が驚くのは、顔見知りでなくても気がつけば頭を下げて挨拶をする謙虚な姿だ。私も、一日に4度も頭を下げてもらったことがある。もちろん、一カ所に固まっている報道陣への挨拶を含めてのことだが。
質問にも、相手の目を見て真摯に答える。「うん、うん」と相槌を打ちながら聞くときは、納得のいく質問である時のことが多い。一方で、答えを誘導するような質問に対しては、笑いながらではあるがテレビカメラの前でも「答えません」「言いません」と言い切り、迎合することはない。
慢心さえ感じさせないのは、現状に満足せず、常に高みを目指す向上心があるからなのだろう。
今年1月27日の契約更改。2億7000万円増の年俸3億7000万円でサインした直後の記者会見で、「これだけの成績を残したのだから、来季はもっとやってやろうというワクワク感でいっぱいか」と聞いた。返事は、「特にはありません」という素っ気ないものだった。
その理由は、春季キャンプ中に解けた。
野球解説者で、元阪神の火の玉ストッパー・藤川球児さんとのスポーツ報知の対談。山本は「個人成績は去年の自分を全て上回りたい」とし、「小学5年生の時より6年生の時、6年生の時より中学1年の時の方が上手くて当たり前。だから去年できたことは今年出来て当然だと考えていますし、それ以上を出せると思っています」と答えていた。
「素っ気なかった答えの理由が、あの対談で分かった」と声を掛けると、「そうなんです。去年出来たこと以上を目指すんです」と笑顔で返って来た。
◆ ブレないのは「目標があるから」
ストイックに野球に取り組む姿勢も変わらない。
寮を出て一人暮らしをしてからは、栄養士に食事を管理してもらう。睡眠時間や食事時間も、ナイターの試合開始時間から逆算して習慣にしている。
3月18日、阪神とのオープン戦の試合後には「（オフの）12月から早起きをしていたので、ナイター時にスケジュールを組んでいる朝食時間の10時30分がなかなか来なかった」と話し、健康管理の一端を知ることが出来た。
勝負の世界に生きているのだから当然だが、無類の負けず嫌いでもある。
「『打線の援護があったら』と言われるのが、一番嫌なことなんです」と明かしたことがある。先発に転向後、好投を続けても勝ちに恵まれない日が続いた時のことだ。ファンも含めて、投球に対するねぎらいの言葉。それは分かっていても、山本は「相手もいい投手。そんなに簡単には打たせてくれませんよ」と打線を責める声に、異を唱えた。
相手がエース級なら、こちらも打たれなければいい。0点に抑えれば、負けることはない。言葉からは、そんな自負もうかがえた。
ケガをしない体を作るために、槍投げ練習用の器具を使うなどして、理想のフォームを突き詰めてきた。「あの投げ方では」と否定する声に惑わされることなく、信念を貫き、昨季は東京五輪などの大舞台も含めて3500球以上を故障なく投げ抜いた。
そこには、信念がある。「なぜ、ブレないのか」──。昨年の春季キャンプで投げかけたら、「目標があるからです」と一言。
短期、中期、そして長期で設定した目標を、失敗も経ながら確実にクリアして来て、今がある。
「好不調の波を少なくする」と臨んだ昨季は、15連勝を含む18勝。「チームの優勝と、昨年の数字を上回る」ことを掲げた今季。スケールアップした山本が、間もなくベルーナドームのマウンドで躍動し、オリックスの連覇に向けた2022年シーズンがスタートする。
取材・文＝北野正樹（きたの・まさき）
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正しいフォームで投げないときれいに飛ばない少年野球御用達の優れものグッズを使ってる。子供たちが使うと効果があっと言う間に出るらしい。
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