『カムカムエヴリバディ』のバトンを繋いできた上白石萌音、深津絵里、川栄李奈の功績

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2022年03月31日 06:01  リアルサウンド

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『カムカムエヴリバディ』(写真提供=NHK)

 3人の俳優がヒロインに扮した異例の朝ドラ『カムカムエヴリバディ』(NHK総合/以下『カムカム』)が、もう間もなく最終回を迎える。上白石萌音、深津絵里、川栄李奈たち3人のヒロインは、私たち視聴者に何を与えてくれたのだろうか。


【写真】我が子を抱き上げてきたヒロインたち


 まずは3人が演じたヒロイン像を、それぞれ振り返ってみたい。上白石が演じた安子は、1925年3月22日、ラジオ放送が開始された日に岡山にある和菓子屋「たちばな」で生まれた。やがて彼女は「雉真繊維」の跡取り息子である稔(松村北斗)という好青年と出会い、恋に落ち、個人の意見など聞き入れられぬ時代に結婚。ところが戦争によって離れ離れになり、徴兵された稔は戦死した。上白石が本作における初代ヒロインとして登場してきたばかりの頃は笑顔が印象的だったが、時代背景の変化とともに、それは暗いものへと変わっていったのだ。この頃の『カムカム』に対して「暗い」との感想が散見されたものだが、物語の展開や演出のトーンだけでなく、当時あちこちで実際に生まれていたのであろう“悲劇”を上白石が一手に引き受け、体現していたというのが大きい。そしてその悲劇とともに残されたのが、娘のるいである。


 安子と稔の間に生まれた、るい。彼女が大きくなった姿を演じたのが深津絵里だ。二代目ヒロインである。るいは幼い頃に母・安子と生き別れ、叔父たちの元で生活していたが、「自分らしく自由に生きていきたい」と願い、単身大阪へ。その先で出会った心優しい人々に囲まれた生活を送りながらも、彼女は母が残した悲劇を背負い続けた。その証がるいの額に刻まれた傷。これがあるがために、彼女は“自分のための一歩”を踏み出せずにいたのだ。しかし、そんなるいを変えたのが、やがて彼女の夫となるジョーこと大月錠一郎(オダギリジョー)との出会い。展開としては山あり谷ありなものだったが、「安子編」には見られなかった“青春模様”が描かれていたと思う。何より、るいの変化を演じた深津が見事だった。どこか不安定な口調や伏し目がちな表情から感じる少女の初々しさ。初めて他者に本気で気持ちをぶつけ、自身の大きな成長のきっかけとなったジョーとのやり取り。そして、ジョーの妻として、娘のひなた、息子の桃太郎の母として持つ温かさーー。これら一連の変化を深津が演じる中で、『カムカム』の肌触りは柔らかなものへと変わっていったのである。


 るい=深津絵里が生み出した本作の柔らかさに、さらに明るさを与えたのが川栄李奈演じるひなた。その幼少期を演じた新津ちせの登場から、まるでビタミン剤でも注入されたかのように『カムカム』はハツラツとしたものになった。かつての悲劇の影はどこへやら。ここまで丁寧に母から娘へとバトンが繋がれてきたが、ひなたを演じる新津から川栄へのバトンパスも鮮やかだった。大の時代劇ファンで、好奇心旺盛ながらも何かと物事が続かない性格は変わらないが、何より上手く共有できていたのは、彼女たちが本作の“元気印”であること。「るい編」からいつの間にか「ひなた編」に変わって以降、笑顔が絶えなかった視聴者は筆者だけではないだろう。アイドルとしてキャリアをスタートさせて数々のステージに立ち、映画やドラマでアクティブな俳優活動を展開してきた川栄のエンターテイナーとしての稀有な才能が、朝ドラの場でも開花したのだ。


 さて、本作がヒロインが変わることによって作品のトーンも変わってきたというのは先述してきた通り。それでも、川栄には深津の、深津には上白石の、そして川栄にも上白石の面影が常にあった。藤本有紀の優れた脚本や演出面に依る力も大きいのだろうが、やはりバトンを繋ぐヒロインたちの表現の賜物なのだろう。異例の“ヒロイン・リレー”で紡がれてきた物語は、どのようにしてゴールテープを切るのだろうか。終わりを想像すると寂しいが、あともう少し彼女たちと伴走し、その瞬間を見届けたい。


(折田侑駿)


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