「甲子園夢プロジェクト」と慶應義塾高校野球部の対面合同練習会

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2022年03月31日 19:24  ベースボールキング

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3月6日、慶應義塾日吉台野球場で、甲子園を目指す知的障碍児の集まりである「甲子園夢プロジェクト」と、慶應義塾高校硬式野球部との対面合同練習会との対面練習会が行われた。



【みんな野球をする仲間】
「甲子園夢プロジェクト」は、東京都立青鳥特別支援学校の、久保田浩司主任教諭によって設立された。

久保田教諭はもともと大学まで野球をやり、卒業後は高校野球の指導者になるべく教員試験を受けて東京都に採用されたのだが、配属されたのは養護学校、今の特別支援学校だ。久保田教諭は意気消沈したが、生徒たちにソフトボールの指導をするうちに知的障碍者が支援学校の生徒が健常者のチームに勝つなど、様々な変化が見られ、野球をするメリットを確信するに至ったのだ。

そこで2021年、全国の知的障害のある子たちに“甲子園目指して野球をやりませんか”という呼びかけを行った。全国から予想以上の反響があり「甲子園夢プロジェクト」を設立するに至った。

昨年3月27日に最初の練習会を行い、全国から志望者が集まった。さらに4月(オンライン)、6月、10月と4回の練習会を行う中で、全国には野球が大好きな知的障碍者がたくさんいることが分かった。中には、高校生と一緒に練習してもほとんどそん色がないレベルの生徒もいた。

久保田教諭は昨年『甲子園夢プロジェクトの原点』という本も著し、特別支援学校が各地の高野連に加盟し、甲子園の予選にチャレンジすることの意義を訴えかけた。
そして今年、プロジェクトに参加する選手たちに、さらに本格的に野球に触れてもらうために、慶應義塾高校硬式野球部との練習会を企画した。

「ご紹介くださった方を通じて、慶應義塾高校にお願いをしたのですが、森林貴彦監督は即答でご承諾くださいました」
久保田教諭は語る。

当初は1月29日に慶應義塾のグラウンドで行う予定だったが、新型コロナ禍のためにリモートのミーティングとなった。この日は慶應義塾高の選手約100人と「夢プロジェクト」の生徒、森林監督、久保田教諭などが参加、慶應義塾高校の野球の考え方、野球をすることの喜びや、怪我、故障の苦しさなどについて意見交換を行った。



満を持して3月6日、快晴の空のもと、慶應義塾日吉グラウンドに「甲子園夢プロジェクト」の参加者がやってきた。遠くは京都、静岡、そして関東圏から中学、高校生が参加。集まった生徒たちは、球場の門前で久保田教諭の説明を聞き、大きな声をあげた。これまでの練習会を通じて、生徒たちはこれからわくわくするような体験が始まることを知っている。その期待感が大きなかけ声になったのだ。





慶應義塾高校側は2年生の主力選手がファーストユニフォームで参加、「夢プロジェクト」の生徒1人に慶應の選手1人がつく「マンツーマン」の形で一緒に練習を体験した。

慶應義塾高校が普段行っているランニング、ウォームアップを行ったのちに、キャッチボールへ。
「夢プロジェクト」の生徒たちの野球のレベルはまちまちだ。高校球児とそん色のない技量の生徒もいれば、まだ捕球、投球が覚束ない生徒もいる。しかしパートナーになった慶應の選手たちは彼らの動作に合わせて丁寧に対応している。



続いて硬球を使ってのノック、「夢プロジェクト」の生徒の横に、パートナーの慶應の選手がついて、1球1球声援をおくる。「ナイスキャッチ!」と励ましたり、飛球の位置を指示したりしている。なかには難しい打球を見事に処理する生徒もいる。併殺プレーを見事に完成させて、大きな拍手が上がっていた。



そして打撃練習へ。「夢プロジェクト」の選手たちは、慶應の選手が投げるボールに食らいつき、いい当たりを連発していた。
一方、ブルペンでは「夢プロジェクト」の投手たちが投球練習を始めた。受ける慶應の捕手が「すごい」と声を漏らすような投球も見られた。

そして最後に「夢プロジェクト」の投手が、慶應の2人の打者に挑戦した。2人ともスタメンに名前を連ねる一線級の選手だ。
「夢プロジェクト」の投手は臆することなく投げ、慶應の打者もフルスイングしている。
ジャストミートして本塁打性の打球を飛ばすこともあったが、打ち損ねも見られた。「好勝負」と言う印象だった。



水分補給時間をとりながらの3時間余の練習会。「夢プロジェクト」の生徒と慶應の選手はすっかり打ち解け、笑い合うような光景も見られた。「野球をやる仲間」はみんなすぐに友達になるのだ。

慶應義塾高の森林貴彦監督は、進行を担当し、てきぱきと指示を与えていた。慶應の選手たちもそれに対応していた。進行のスムースさも中身の濃さにつながったのではないか。

この「夢プロジェクト」はそのまま甲子園出場につながるわけではない。
特別支援学校の生徒たちが、野球をすることで意識や身体の様々な変化が見られ、自信をつけていく様を社会にアピールし、その上で、各地の特別支援学校が高野連に加盟申請することで、甲子園への道がつながる。
まだ道のりは長いが、大きな可能性が見えたイベントだった。(取材・文・写真:広尾晃)

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