村上虹郎、オダギリジョー、本郷奏多が体現 『カムカム』が描き続けた“一歩踏み出す勇気”

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2022年04月03日 06:01  リアルサウンド

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『カムカムエヴリバディ』写真提供=NHK

 最終週を目前とした『カムカムエヴリバディ』(NHK総合)。3人のヒロインがバトンを繋ぐ物語にも、グランドフィナーレが待ち構えている。本作はヒロインの人生を三世代に渡り描くことで、100年もの歴史を語ってきた。戦争の時代、高度経済成長期、そして平成へと移り変わる、そんな中『カムカムエヴリバディ』が変わらずに描き続けてきたものがあった。それは「一歩踏み出す勇気」である。


【写真】トランペットを再び握った錠一郎(オダギリジョー)


 「三世代のヒロインの100年」を描いたことで、通常の朝ドラよりも、より多くのメインキャラクターが登場したことも本作も面白さだったように思う。親から子へ、そして孫へ。同じ役者が親と子の一人二役を演じることもあれば、一つの役の中で子役や年配の俳優に変わるという工夫も見せつつ、ヒロイン以外のキャラクターにも“三世代”の絆や人生の深みが描かれる。その中でアグレッシブにやりたいことを追い求めるキャラクターが多かったことも印象的だ。


 3人のヒロインたちはもちろん、安子(上白石萌音)の義理の弟である勇(村上虹郎/目黒祐樹)や、るい(深津絵里)の夫となる錠一郎(オダギリジョー)も、「一歩踏み出す勇気」を持って最後まで夢を諦めなかったキャラクターだろう。


 勇は幼少期から生粋の野球バカ。兄である稔(松村北斗)とは正反対で、勉学よりも野球に打ち込み、甲子園を目指して日々頑張っていた。戦争で甲子園出場の夢は叶わぬものの、大人になってからもその野球好きは変わらず、事業の話となればたびたび野球の世界のことを引用して熱弁していた。やがて勇は会社に野球部を作り、実業団チームにまで成長させる。これまでなかったものを新設する試みはもちろん簡単で楽しいことばかりではなかっただろう。それでも勇は、夢を、別な形に変えつつ大きく踏み出した。勇を演じた村上虹郎は、そのキラキラした瞳をずっと絶やさなかった。成長し、雉真の家を継ぐ立場となっても、勇の瞳の奥にはいつも少年のような輝きが宿る。そして晩年の勇を演じる目黒祐樹もまた少年のような笑顔で、野球への愛を貫いた男の幸せな老後を体現してくれた。


 るいの夫で、トランペッターであった錠一郎もまた「一歩踏み出す勇気」を感じさせてくれたキャラクターだ。るいと結婚し、娘のひなた(川栄李奈)も成長する中で、錠一郎はかつて諦めたジャズの道をもう一度模索しようとする。そしてジャズピアニストとして新たな一歩を踏み出したのだ。これは視聴者にとっても予想外の展開だったろう。まさかトランペットに夢中だった錠一郎がピアニストとしてジャズの世界に返り咲くとは。大きな決断と覚悟を持った錠一郎は、私たちに夢と希望を与えてくれた。


 そして、アメリカで映画に関わることとなった五十嵐文四郎(本郷奏多)も例に漏れず大きな一歩を踏み出したキャラクターの一人だろう。五十嵐に至っては、ひなたと結婚しなかった理由が理由だけに、アメリカ映画界への進出、そして現地で知り合ったデイジーにプロポーズをするという決断の重さを痛感する。ひなたと同じように「これが人生」だと思わず唸りたくなる前進の仕方ではあったものの、大部屋俳優だったあの日からの大躍進という点では、夢を諦めずに勇気を持って進んでいたキャラクターの最たるものだと感じた。ひなたと再び恋仲になるのでは、という淡い期待は裏切られたが、本郷奏多の表現する文四郎は一本気な時代劇への取り組みとは裏腹な“素直じゃない恋”も魅力であった。


 100年を描いた物語には、こうしてさまざまな「勇気」が描かれてきた。誰かが切り拓いた道を、各々がさらに整え、よりよいものへと繋いでいく。時代の移ろいと世代交代を真っ直ぐに描きつつ、どのキャラクターにも深い愛情を注げる作品となった『カムカムエヴリバディ』。最終週を楽しみに見守りたい。


(Nana Numoto)


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