マツダが同社初のプラグインハイブリッド車(PHEV)を発売する。まずは「CX-60」というSUVのPHEVを市場に投入する方針だが、どんなクルマに仕上がっているのだろうか。山口県にあるマツダの美祢自動車試験場で乗らせてもらったので、わかったことを報告したい。
○PHEVと3.3Lディーゼルを新規開発
マツダは2023年までに、「ラージ商品群」として4種類の新型SUVを市場投入する。第1弾となるのが「CX-60」だ。ラージ商品群には新たなパワートレインとして、「PHEV」「直列6気筒エンジン(ガソリン、ディーゼル、スカイアクティブX)」「48Vマイルドハイブリッド(MHEV)」を導入。美祢ではPHEVと3.3L直列6気筒ディーゼルエンジン(MHEV)の2台に試乗した。試乗車はCX-60欧州仕様のプロトタイプだ。
試乗車の概要
PHEVは外部充電が可能なハイブリッド車だ。充電しておけば電気自動車(EV)のように(ほぼ)電気だけで走れる。EV走行距離(バッテリーの容量)によっては、通勤や買い物などの日常的な走行は電気でこなせるため、ほとんどガソリンを使わずに運用できる。充電がなくなっても普通のHVのようにガソリンで走れるので、給油さえしておけば、出先で電池切れになって動けなくなる心配もない。
PHEVは電気で走っている分にはEVとあまり変わらないので、PHEVを作るメーカーは「ほぼEVです!」という推しかたをする場合が多い。静かで、モーター走行による力強くてスムーズな加速が持ち味で、強い加速の際などにはエンジンがかかるものの、モーター走行とエンジン走行の切り替わりに気付かないくらいの精密な制御が施してあります、といった具合だ。さて、マツダのPHEVはどんなキャラクターなのか。
○「ほぼEV」とはちょっと違う?
マツダのPHEVも、日常的な走りはほぼ電気でこなす。ただし、モーター走行中にも、アクセルペダルの踏み具合に応じた音が聞こえてくる。しかも不思議なことに、モーターで走っているにもかかわらず、音が変速しているかのようなリズミカルなアップダウンを繰り返すのだ。
EV(モーター走行)は踏めば踏んだだけ力が出るので、エンジン車のような変速はしないものだと思っていたのだが、マツダのPHEVはモーター走行でも変速するらしい。エンジン、モーター、トランスミッションを直列で配置し、モーターをマニュアルトランスミッション(MT)で使うような機械式クラッチで挟み込んでいるので、こういう具合にできるそうだ。
それと音については、もうひとつよく覚えている特徴がある。EV走行中にアクセルペダルをぐっと踏み込むとエンジンがかかるのだが、その際に「キュルッ!」という感じの音が聞こえるのだ。
アクセルペダルの踏み具合に応じた音もエンジンの始動音も、なくそう(隠そう)と思えば制御でできるはずなのだが、マツダはあえて音を残して(作って)いる。「クルマの運転を通じて、乗る人の心を活性化させたい」というのがマツダの考え。クルマを楽しく操作するには、クルマからのフィードバックが欠かせないとの思いから音づくりにはこだわったらしい。
乗り心地、走り心地に関していえば、けっこう大きなクルマに乗っているという先入観も影響していたのかもしれないが、俊敏で軽快に走るというよりも、ずっしり・しっとりとして落ち着いた雰囲気のクルマであるように感じた。三菱自動車工業のSUV「アウトランダーPHEV」とは、明らかに違うキャラのPHEVに仕上がっている。
リズミカルな走行音はメリハリがあって楽しいと感じたし、エンジンの「キュルッ」は自分自身にもスイッチが入ったようで気分が盛り上がったのだが、マツダのPHEVに乗った人と話をしてみると、「せっかくEVのように走っているのだから、EVのような静粛性を感じさせてくれたほうがいい」との意見もあった。ここは好みのわかれるところかも。
あとは気になる価格だが、この記事が掲載されているころにはマツダから正式発表になっているかもしれない。記事執筆時点(2022/4/4)で調べた限りだと、英国のマツダのHPに載っているプライスリストでは、CX-60(PHEV)の価格は3万6,579.17ポンド+VAT7,315.83ポンドから、となっている。1ポンド161円で計算してみると、日本円で707万円くらいだ。
SUVタイプのPHEVだと例えば、三菱「アウトランダー」が462.11万円〜、トヨタ自動車「RAV4 PHV」が469万円〜、レクサス「NX」が714万円〜、ボルボ「XC-60」が819万円〜といった感じ。マツダによると、CX-60にはPHEVと3.3Lディーゼルエンジン以外にもパワートレインの選択肢があって、もっとも価格の低いモデルは「CX-5」購入検討者にも勧められるくらいの値段になるそうだが、はたして。
紙ドライバーF かみどらいばーえふ 生活するには自動車が必須な北陸の某県で生まれ育ちながら、運転免許証の取得後は都会暮らしとなったため、これまでに一度も自家用車を所有したことのないペーパー(紙)ドライバー。すでにマニュアルトランスミッションの操作方法もおぼつかないが、ひょんなことから自動車業界を取材することとなった。 この著者の記事一覧はこちら(紙ドライバーF)