緩くてもいい、子ども達が「野球って楽しいな」と思える環境を目指す|大田ドリームス(後編)

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2022年04月11日 22:32  ベースボールキング

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かつての勝利至上主義の方針から育成重視に大きく方針転換をした中学軟式野球チーム「大田ドリームス」(東京都大田区)。チームに集まるのは小学生時代にレギュラーになれなかった子がほとんど。強豪チームで全国大会出場や強豪高校への進学を目指すのではなく、楽しく野球ができる環境を求める子達の受け皿になっているチームです。2年生チームの監督と事務局長を務める潮田剛己さんにお話を聞いた後編です。



分かっていないのに返事だけ元気の良い「顔面服従」
——軟式野球のメリット、デメリットが語られるケースが多いですが、潮田さんはどのように考えていますか?

デメリットは高校で硬式野球をやるときに少し対応が遅れてしまうこと。メリットは怪我をしにくいことと、バッティングは振らないと飛びませんから、当てに行くような子がほとんどいないことでしょうか。



——思春期の子ども達を相手にするには大変なことも多いと思いますが、昔と今で中学生の気質の変化などを感じることはありますか?

今の子の方が真面目ですね。昔は喧嘩っ早いやんちゃな子もいましたけど今は喧嘩をする子もほとんどいません。その分、どういうことを考えているのか分からなくなっている、表情に出さない子が多くなった気はしますね。だからこそ、なるべく話しかけてコミュニケーションをとるように心がけています。
あとは「顔面服従」と呼んでいるのですが「はい!」と元気よく返事をするけれど、本当に分かったのか聞くと、実は分かっていないという子もいるんですよね(笑)。

——野球部に多い印象がありますね。分かっていなくても取りあえず「はい!」と言わないといけない空気みたいなのもありますよね。

そういうことを防ぐ意味でも、子ども達とのコミュニケーションを普段から大事にしています。

——分からないときに「分かりません」、痛いときに「痛い!」と言える関係性も大事ですよね。

そうですね。本当にそう思います。
子どもの持っている力、成長は大人の想像を超える
——競技人口が減っている中学軟式野球の問題点と課題はどんなところにあると思いますか?

勝利至上主義のチームが多いことだと思います。全てを否定するつもりありませんが、「エースと心中する」に代表されるような、選手を酷使するような場面が少なからず見られます。(目先の結果のために)高校、大学で使う「野球へのエネルギー」を中学で使い果たさせるような鍛え方、酷使をしてどうするんだと思います。そこを変えていかないといけないと凄く感じています。

——そういうチームは選手から監督やコーチに肩、肘が痛い、など言い出しにくい空気がありますよね。

本当にそう思います。試合前に「肘が痛い」とか言うと「もう試合で使ってくれなくなるんじゃないか……」とか、そういうことを思って痛みを我慢して投げたりとか、そういう子も多いと思います。さっきの「顔面服従」じゃないですけど、そういうことが言いやすい空気を作ることも大事だと思っています。

——選手達は大田ドリームスで、いい意味で楽しく、緩い環境で野球を楽しんでいると思いますが、高校でも野球を続けたいと思ったときに、同じような環境を探すのは難しくないですか?

そうですね。だから最近では公立高校で軟式野球を続ける子が増えてきましたね。



——中学野球の面白さ、魅力はどこにあると思いますか?

子ども達の成長を目の当たりにできることですね。半年、一年単位で見たら中学生の子達が凄く成長するんです。子どもの成長を見るのが楽しいんですよね。自分の子じゃなくても。

——チームに携わって6年になるそうですが、これまで一番の思い出は?

息子がいたときの代のチームですね。3年生が10人いたんですけどそのうち4人は中学で野球を始めた子で、他の6人も小学校時代にレギュラーだった子は2、3人だったんです。周りのチームからは「絶対こんなチームに負けるわけねーよ」みたいに言われ続けてきたチームでしたけど、最後の大田区の大会で準優勝したんです。子どもの持っている力、成長というのは大人の想像を超えるんだなって教えてくれたチームでした。それを経験してしまったから、子どもが卒団してからも指導をずっと続けているのかもしれないですね。

——最後に、このチームを通じて子ども達がどんな風になってくれたら嬉しいですか?

この先も野球を続けてくれることが一番嬉しいですけど、野球じゃなくても何かを一生懸命にやってくれると凄く嬉しいですね。うちのOBで高校からラグビーを始めて花園にいった子がいるんです。「高校ではラグビーやります。花園に行くんで応援してください!」とか言っていたんですけど、本当に花園に行ったんです。そういう子もいるので野球じゃなくてもいいから、高校で何かに熱中してくれると嬉しいですよね。

大田ドリームスさん、潮田さん、ありがとうございました!

(取材・写真:永松欣也)

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