ミレニアム世代の教科書 『NYガールズ・ダイアリー』で描かれる、人生の転機と苦悩

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2022年04月14日 10:01  リアルサウンド

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『NYガールズ・ダイアリー』(c)2021 Universal Television LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

 20代版『プラダを着た悪魔』×『セックス・アンド・ザ・シティ』と言われている、ドラマ『NYガールズ・ダイアリー 大胆不敵な私たち』。Huluにて全話配信中だが、Netflixでもシーズン4が配信開始された。


【写真】『NYガールズ・ダイアリー 大胆不敵な私たち』


 舞台は言わずもがな、ニューヨーク。有名ファッション誌「スカーレット」で働く、ライターのジェーン(ケイティ・スティーヴンス)、ファッションが大好きでスタイリストを目指すサットン(メーガン・フェイヒー)、「スカーレット」のソーシャルメディア担当キャット(アイシャ・ディー)の3人がメインキャラクターだ。


 彼女たちの仕事に対する姿勢や恋模様、女性の身体の悩みに至るまで描かれており、世の女性たちに共感を得ている。シーズン3までで、彼女たちは「人生の転機」と言えるような経験をしてきた。 今回はシーズン4を中心に、彼女たちの動向について押さえておきたい。


※以下、ネタバレ含みます。


■下積みから昇進、そして転職まで


 ジェーンは幼い頃に乳がんで母を亡くし、姉妹もいない中で、雑誌「スカーレット」を母や姉から教わる知恵の代わりにしてきた。そして大人になり、ライターとして「スカーレット」に携わることになる。


 シーズン1は、4年間従事してきたコピーライターのアシスタントの仕事からやっとライターとしてキャリアをスタートできるようになったところから始まる。気になる出来事をとことん追求するライター魂で、賞を受賞するまでに急成長。編集長ジャクリーン(メロラ・ハーディン)からの信頼も厚く、仕事も、そして同じライターとして働くライアン(ダン・ジャノット)との恋も順調に進んでいく。


 そして、彼女に転機が訪れる。ジェーンの噂はライター界隈でも広がっており、他媒体から引き抜きの声がかかったのだ。自分でも予期していなかったタイミングで、母のように慕った「スカーレット」から退職。ステップアップを兼ねて、新しい道を選択した。


 その後の展開を追っていくと、決してそれが彼女にとって良い選択だったとは言い難い。だが、「スカーレット」での仕事のやりがいや、人間関係、環境がいかに自分に合っていたかを学べる良い機会となったようだった。その後、ジェーンは成長した姿で「スカーレット」に戻り、自身初となる報道記事にチャレンジするなど、持ち前の探究心でファッション界の闇を明らかにし、より一層一つの記事に対して突き詰めていく。今置かれている状況から一歩踏み出してみると、同じ場所でも見える世界も変わってくるかもしれない。


 4月を迎え、社会人になる人、新しい環境で生活を送る人など様々だろう。自分の好きなことをしてバリバリ働きたい、そんなモチベーションが欲しい人はジェーンからヒントをもらえるだろう。


■夢を再確認し、追いかける20代


 酒浸りの母に育てられたサットンは、全て自分でどうにかしようとするしっかり者。昔からファッションが好きだったが、なんとかお金を稼ぐために一時的に代理アシスタントとして「スカーレット」に携わり始める。そして採用期間が終わった後も「スカーレット」で働き続けられることになり、いつからか仕事が、彼女の生きがいにすらなっていく。


 シーズン1では、編集担当のローレン(エミリー・チャン)のアシスタントとして働いていたサットン。既に3年間その場所で働いていたが、キャリアの行く先は見えず、お金もなく、漠然とした不安を抱えていた。


 そんな中、ファッション部門でスタイリストのアシスタントを募集していると耳にする。昔から服作りやスタイリングが得意だったサットンは応募し、紆余曲折ありながらも見事その座を獲得することになった。


 この出来事が既に大きな一歩だが、彼女にはもう一つ、心に残っている夢があった。それは服を自分でデザインすること。スタイリストとしての仕事ぶりが評価され、デザイナー学校へ推薦をしてもらい、仕事と両立しながら通うことになる。周りには「夢に燃えてる年頃なのね」と嫌味を言われることがあっても、「真剣にキャリアアップを考えている」と胸を張って言い返すことができるところに強い想いが見える。本気で恋に仕事に勉強に、全てをこなしながらも充実している彼女の姿はこちらも応援したくなる。


 今まで母親やお金のことで仕方なく選択してきた人生から一変、大人になりやっと自分がやりたい夢に一歩ずつ進んでいる彼女は本当にキラキラしていて、羨ましく思う。20代、まだまだ自分のやりたい事を探している人も多いのではないだろうか。他人にとらわれず自分の人生を生きること、これこそ大人になるということなのだろう。


■自身のアイデンティティの模索


 「スカーレット」ではソーシャルメディアディレクターとして、若くして地位を獲得したキャット。正義感が強く、間違っていることは間違っていると主張する性格から、ニューヨーク市議選に出馬するまでに至っていた。


 彼女のキャリアももちろん素晴らしいものだが、シーズン1で自分の性的指向について新たな発見をすることになる。写真家のアディーナ(ニコール・ブーシェリ)と出会ったことで、彼女の人生は変わったと言って良いだろう。


 クィアコミュニティーが集うバーが、再開発のために立ち退きを余儀無くされているという事実を知り、資金を募るためにプロム風パーティーを開いたり、自分の人種や性的指向の経験を用いつつ自分の弱みをあえて発信するなど、「スカーレット」のSNSディレクターとしても世の女性への影響力は高い人物だ。白人と黒人の両親の間に生まれ、自分のアイデンティティとは何なのか、ずっと模索して来たキャット。全編を通して、視聴者も一緒に彼女の本質を理解し、成長を見守ることができる。そして観ている自分自身はどうなのか、ふと我に返って考えさせられる。


 彼女たち3人の人生の転機は、誰もが経験するようなとても身近な悩みを題材に描かれており、共感しやすい場面が多い。『セックス・アンド・ザ・シティ』よりも、よりキャリアや20代の悩みにフォーカスしている印象だ。


 他にもLGBTQ+の恋愛、乳がんなどの女性特有の病気への向き合い方、結婚の価値観、セックスに対する男女の考え方などが描かれており、このドラマこそまさに女性のための教科書のよう。リアルな現代の社会問題に向き合っている内容なだけに、今後の展開もより期待できる作品だ。


(伊藤万弥乃)


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