『持続可能な恋ですか?』は現代に寄り添う 上野樹里と考えたい“誰かと共に生きること”

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2022年04月19日 06:01  リアルサウンド

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『持続可能な恋ですか?〜父と娘の結婚行進曲〜』(c)TBS

 「持続可能」「環境にやさしい」「自分らしく」……そんなフレーズを最近よく耳にする。その言葉たちが持つ意味はなんとなくわかっていても、「それってどういうこと?」と改めて問われると、自分の言葉に落とし込めないということがある。それどころか、この変化の激しい昨今では、馴染みのある言葉についても「どういうことだろう?」と首をかしげてしまうことも少なくないのではないか。


【写真】第1話で真剣な表情の晴太(田中圭)


 ごく当たり前のように使っている「恋」も「結婚」も「幸せ」も。改めて問われると、口ごもってしまう。価値観の多様化が進み、一人ひとりをしばりつけるしがらみからは解き放たれた感覚に。だが縛られないからこそ、今度はその本質的な意味を自分で探していく難しさがある。4月19日よりスタートする火曜ドラマ『持続可能な恋ですか?〜父と娘の結婚行進曲〜』(TBS系)は、そんな今の時代に寄り添った作品となりそうだ。


 このドラマの主人公・沢田杏花(上野樹里)は、旅行代理店の前職時代に頑張りすぎてしまった自分を見つめ直して、ヨガインストラクターに転身した独身女性。だが、ヨガの精神的な教えを取り入れてもなお、実生活ではどこか煩雑になりがち。なぜか毎日余裕がなくて、しんどいという人間味あふれるキャラクターだ。


 何者かになりたくて、でも何が自分らしい生き方なのかもわからなくて。がむしゃらに突き進むうちに、自分自身を忙殺してしまう日々。もっと人にも自分にもやさしくありたいのに、できないことにもモヤつく。そんなふうに一度でも思ったことのある人なら、共感せずにはいられないだろう。


 恋もしたい、仕事も頑張りたい、必死になっているわけではないけれどいつかは結婚も……と、なんとなくやりたいことはあるし、どれも手に入れられたらベストだけれど、年齢を重ねていくスピード感を見誤ってしまうと、何かを取りこぼしてしまうような不安もある。それが「これが幸せ」という押し付けと同時に人生のロールモデルを手放した、現代人の抱えるジレンマだ。


 誰もが、人生の開拓者となった現代。ドラマで描かれるキャラクターたちの生きざまが、考えるヒントになる。本作では、杏花が一緒に暮らす父・沢田林太郎(松重豊)の存在がいいアクセントになってくれる気配がする。辞書の編纂をする日本語学者という特殊な職業の林太郎は、365日言葉のことを考える、いわば日本語オタク。


 言葉を観察する林太郎を通じて、新しい言葉が飛び交うほど“時代の空気”のようなものが見えてくるのがわかる。「持続可能」が叫ばれるということは、持続不可能なムリを誰かが強いられている。「環境にやさしい」を呼びかけるということは、環境よりも何かを優先したツケがあるのだとわかる。そして、もしかしたら「自分らしく」という言葉がもてはやされるほど、無個性が量産される風潮にあるのかもしれない。


 きっと意味のないように感じる会話にも、その根底には常日頃感じているものがにじみ出ているはずなのだ。そう思うと、この父娘が挑む人生のパートナーを探す「ダブル婚活」という新しいフレーズにも、なんだか新しい時代の香りがするではないか。


 最愛の伴侶を亡くした後も続く人生において、あるいは自分自身を確立させようともがく日々において、「誰かと共に生きる」とはどういうことなのか。1人でも生きられる社会にはなったけれど、独りで生きていくには不安も多い。だからといって、メリットやデメリットだけで割り切れるほど、私たちは合理的にはできていない。計算通りにはいかない人生における「自分なりの幸せ」と向き合う作業を、父娘で「ダブル婚活」という強硬手段で進めていく姿は実に新鮮な手段だ。


 そして杏花と林太郎のもとには、息子が第一のシングルファーザー・東村晴太(田中圭)、杏花との18年ぶりの再会にグイグイとアプローチしていく幼なじみ・不破颯(磯村勇斗)、そして時間も経済力も手に入れた40代の今こそパートナーを探し始めた医師・日向明里(井川遥)と、様々な背景を持った人物たちも登場する。それぞれ異なる視点からの恋の始まり方、幸せの捉え方にも注目していきたいところだ。


 「持続可能」で、「周囲にやさしく」、「自分らしい」、そんな生き方を彼らは見つけられるのだろうか。そして、そんな結婚行進曲を見つめる私たちも、それぞれの「幸せ」について、改めて自分の言葉に落とし込むことができるのか。沢田父娘と共に向き合っていこうではないか。


(佐藤結衣)


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