江戸川区立上一色中学校 西尾弘幸|中学野球は土台作り「もっと野球をやりたい」と思える選手を育てる

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2022年04月20日 22:00  ベースボールキング

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江戸川区立上一色中の監督として、全中に4度出場し、2度の準優勝、2度のベスト4の実績を持つ西尾弘幸先生。全国トップクラスの力を持つ公立校と言って、間違いないだろう。毎年、投打のバランスが高く、上のステージで活躍するOBが多い。2019年には横山陸人(ロッテ)、2021年には深沢鳳介(DeNA)がドラフト指名を受け、プロ野球選手となった。成長途上の中学生を育てるために、西尾先生が大切にしていることとは何か――。3月に発売された書籍「育成年代の『技術と心』を育む中学野球部の教科書」(大利実/カンゼン)の中から、一部をご紹介します。



フルスイングの空振りOK!
得点が入りにくい中学軟式野球において、毎年のように強力打線を作り上げている。練習見学に来る指導者の大多数が知りたいのも、ここのところだ。もっとも大事にする教えとは何か。
「バットをしっかりと振って、強い打球を飛ばすことです。細かい技術的なポイントもありますが、打ち方を気にするあまり、バットを振れなくなる選手もいます。ファーストストライクの甘いストレートを、思い切り振り抜く。若いカウントから積極的に打つ。高校でも必ず求められることです。年齢を重ねるほど、考え方がシンプルになってきました」

チームで徹底しているのが「空振りOK!」の姿勢だ。フルスイングの空振りをすると、「ナイススイング!」とベンチが湧く。ベンチが「あぁ……」とため息を吐くと、その空気はバッターにも伝播してしまうものだろう。空振りをポジティブに捉える。
「思い込ませているのもありますが、空振りのあとは打てる。特に、『変化球の空振りはヒットにつながる!』という考えを持たせています。空振りをすることで、変化球の軌道に合ってくる。バットを振らないと、ボールとの間合いがわからないですよね」

練習の中で、カーブ設定のピッチングマシンをわざと空振りして、次のカーブをジャストミートで捉える。こんな練習を入れることもある。空振りがマイナスではなく、空振りが好結果につながるように、日頃から体に染み込ませている。
「なかなか勝てなかった頃は1球の空振りやファウルに対して、『何やってんだよ……』と思っていたんですけど、バッティングはそう簡単なものではないですよね。いつも打てるわけではありません。だから、難しく考えずに、自分のスイングをする。そう思うようになってから、全中に出場できるようになりました」

2015年に全中初出場を遂げる前は、「全国大会まであと1勝」と王手をかけたところで2度、3度と負けた経験を持つ。「細かいことをいろいろ言い過ぎてしまったのもあると思います。それが、選手へのプレッシャーになっちゃったのかな……」と申し訳なさそうに振り返る。今は、良い意味で余裕が生まれ、おおらかになった。

竹バットで振る力&ミート力を養う
シーズン通して竹バットで打ち込み、体の強さに応じて900グラム、800グラム、700グラムを使い分ける。公式戦で使うバットは700グラム台が多いため、選手によっては100グラム以上重いことになる。少しでも早く、高校で使うバットの重さ(900グラム以上)に対応するため、竹バットで振り込む。さらに、竹バットの使用はミート力の向上にもつながり、メリットが大きい。
「ビヨンドマックスに代表される複合バットはたしかによく飛びますが、それに慣れると、バットの芯でボールを捉える感覚が薄れてしまいます。竹バットは、通常の金属バットよりも芯が狭く、芯を外れると打感が悪い。竹バットを使うことで、芯で打つ感覚が身に付きやすいと感じています」

日々のバッティング練習は、7カ所のバッティング(ピッチングマシン「ストレート」×2、ピッチングマシン「スライダーor カーブ」×1、手投げの緩い球×1、ピッチャーとの対決×1、ロングティー×2)、タイヤ叩き、スタンドティーをローテーションで回る。バッティングは移動式バックネットや防球ネットを組み合わせ、ネットが張られた体育館に向かって打つことで、グラウンドの狭さを補う。放課後は2時間、土日は3時間近く打ち続ける。
「上一色中に赴任したときは、破れた防球ネットが1枚しかありませんでした。そこから学校の協力を得て、少しずつネットが増えていきました。学校によって状況は違うとは思いますが、環境を作ることも指導者の大事な役割だと思います」
「バッティングセンターに行けば、2万円近くは使うのでは?」と思うぐらい打ち込む。
「素振りよりも、ボールを打ったほうが打感があり、打球の方向も見える。特にM号になってからは、ボールが重たくなり、インパクトで重さを感じるようになりました。重さに負けないためにも、日頃からボールを数多く打つようにしています」

中学軟式野球は2018年の新チームから、公認球がB号からM号に切り替わった。M号の特徴は、B号に比べて直径が2ミリ大きく、3グラム重たく、ボールの硬さを示す「圧縮荷重」が増したことだ。バットでボールを捉えるインパクト時に、ボールが潰れにくくなったことで、B号よりも打球が速くなり、そのうえ飛距離が出るとされている。
「M号に変わったときは楽しみにしていたのですが、ボールが飛びませんでした。やっぱり、重さに負けているんですね。そこから『M号を飛ばせるようにバットを振ろう!』と言い続けて、今がある。重たいボールを飛ばそうと思えば、しっかりとフルスイングする必要があります。M号になったことで、より強く振れる選手が増えていると思います」

昨夏の全中初戦では、イクバル・ナディムのサヨナラホームランで劇的な勝利を収めた。
両翼98メートルのゼットエーボールーパークで、打った瞬間にわかるレフトへ特大の一発。
今までのB号では、ありえなかった打球の角度と弾道だった。(続きは書籍で......)





にしお・ひろゆき。1957年6月3日生まれ、東京都足立区出身。日本工業大。中学まで野球部で、高校からは音楽に夢中になる。大学卒業後、1980年から中学校の教員に就き、卓球部、バレーボール部、柔道部を受け持つ。1989年に赴任した渋谷区立笹塚中から野球部の顧問となり、続く江戸川区区立小松川第三中で初の関東大会出場。2006年から現在の上一色中に移り、2015年に初の全中出場を果たす。担当教科は技術。

 

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